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ネットジャーナル1

電子1個でオン・オフを制御する究極のデジタルデバイス

写真:博士(工学)福井 孝志 2

福井 単電子トランジスタは、非常に小さな半導体の基盤上に直径10ナノメートルほどの導体島(ドット)をつくり、そこに電子を1個ずつ出し入れすることでオンとオフの状態をつくり出します。電子が入るとドットのポテンシャルが上がるため他の電子が入れなくなる「クーロンブロッケード現象」を利用した方法で、究極の省エネ型トランジスタとも言われています(解説1)。

単電子トランジスタの理論自体はすでに80年代末に提案されていましたが、室温で動作するにはドットのサイズを10ナノメートル程度に加工しなければならず、当時の技術では実現不可能とされていました。90年代に入り微細加工技術が発達したことによってさまざまなナノ構造の作製が可能になり、世界各国で単電子トランジスタの実現に取り組むようになったのです。

それでも、当初つくられた単電子トランジスタはたった1個しかなく、偶然の産物として実現した例もあり、回路素子として利用できるものではありませんでした。物理学的な理論を実証するだけでなく実用化への道を模索するためには、集積回路として使えるものをつくらなくてはなりません。私たちは複数の単電子トランジスタを集積し、論理回路として機能する単電子トランジスタの開発を目指しました。一般的な半導体デバイスのほとんどはシリコンでつくられているため、多くの研究者がシリコンを素材とした単電子トランジスタに取り組みましたが、私の研究室では「化合物半導体」というガリウムやインジウムなどの金属との化合物を素材としています。

――先生はNTT研究所での半導体レーザーの開発をスタートに、30年以上にわたって化合物半導体の研究に取り組んでこられました。化合物半導体による単電子トランジスタにはどのような優位性があるのでしょうか。

福井 トランジスタを集積するには、トランジスタ同士の位置関係を精密に設計する必要があります。しかし、先ほどお話ししたように従来のトップダウン方式では数10ナノメートルという微細加工はできません。ここで活躍するのが、トップダウンとは逆に原料となる原子や分子の結晶を自己組織化的に成長させてナノ構造を組み上げる「ボトムアップ方式」です。

化合物半導体はボトムアップによる極微な回路ネットワークの形成に適しており、作製技術も成熟しています。私たちはトップダウンとボトムアップを組み合わせた「有機金属気相選択成長法(解説2)」という技術を用い、ドットの直径や導線の線幅が数10ナノメートルで、しかもきちんと配置が設計されたナノ構造を実現しました。2003年の実験では4個の単電子トランジスタを集積したAND/NAND論理回路動作の確認に成功しています。さらに05年には3個のトランジスタで動作するAND/XORの1ビット加算機の作製にも成功しました。

――これらの実験結果はアメリカ物理学会が発行する学術論文誌「APPLIED PHYSICS LETTERS」で紹介され、単電子トランジスタを集積した論理回路の電子顕微鏡写真が表紙を飾っていますね。(写真1)。まさに究極のデジタルデバイスを実現した世界的な研究実績だと思います。

APPLIED PHYSICS LETTERSの表紙

写真1/APPLIED PHYSICS LETTERSの表紙

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