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ネットジャーナル12

さまざまな量子ドットを産み出すナノテクノロジー、バイオテクノロジー

――電子を閉じ込めることができるナノ構造とはどのように作るのですか。

村山 近年、ナノテクノロジーの発展により、ナノメートルを単位として大きさが表されるような極めて小さな人工の構造体を作ることができるようになりました。この小さなナノ構造を使いますと、先ほど述べましたように、その中に電子を閉じ込めるとともに、自由に出し入れしたり、さらにこの電子から光を発生させることができます。
そして、このような小さなナノ構造では、電子の振る舞いに量子力学的な性質が強く現れてきます。この意味で、この小さなナノ構造のことを「量子ドット」(解説1/図2)と呼んでいます。量子ドットにはさまざまな材料や作り方があり、さらに大きさや配列の違いにより電子の振る舞いがいろいろと変わってきます。量子ドットは、電子の量子力学的な性質を調べるという物理学の観点から興味が持たれていますが、同時にごく少数の電子で動くエレクトロニクス素子の材料としても大変魅力があり、世界中でさかんに研究されています。例えば光エレクトロニクス技術への応用を考えますと、これまでにない画期的な性能のレーザー素子や高効率の太陽電池が実現できると大いに期待されています。私たちの研究室では、量子ドットの新しい作り方と光エレクトロニクス素子として利用するための基礎研究に取り組んでいます。

量子ドットはその直径が10ナノメートル程度という極めて小さなサイズです。10ナノメートルは原子の数で言いますとだいたい100個くらいに相当しますから、一つの量子ドットにはその3乗で最大100万個くらいの原子が含まれています。エレクトロニクスで利用する電子は、原子中の電子と違ってこの量子ドット中で拡がっていますから、100万個の原子の中に一つでも不純物が含まれますと原理的には素子としての働きに問題が生じる可能性があります。そのため不純物が全くない(と言えるくらいの)環境で作らなくてはなりません。そこで、私たちは、宇宙空間に近い超高真空状態を作り出しその中で半導体などの量子ドットを合成する「分子線エピタキシー装置」(解説2:写真1)を使っています。さらに、複数の分子線エピタキシー装置を連結し大気にさらすことなく超高真空下で試料を搬送できるような装置も導入しました。このような装置により、高純度の量子ドットを単に作製するだけではなく、極めて純度の高い他の材料とも積層することができます。また、実際に作製した量子ドットの光学特性についても詳しく調べています。例えば、半導体量子ドットと金属の磁性体を積層した新しい磁性ハイブリッド半導体量子ドットを研究しています。金属磁性体は磁石ですから電子のスピン状態が規則的に揃っています。そこで、このスピンの揃った電子を半導体量子ドットに注入できれば、電子のスピン状態という情報量を持った光を発生させることができます。作製した試料の光学特性に電子の持つスピン情報が実際に含まれているかどうかについては、ちょっと複雑ですが独自の測定システム(解説2:写真1)を構築して研究を進めています。この研究は、学術振興会科研費基盤研究(S)に採択されています。

また、バイオテクノロジーを利用して量子ドットを作製することも試みています。これは、科学技術振興機構CRESTの共同研究者として行っている研究です(解説3/図3)。球殻状タンパク質の内部空洞構造を設計し、この内部空洞を、量子ドットを作製するための鋳型(テンプレート)として利用します。バイオテクノロジーを用いることにより、分子構造すなわち原子1個のレベル(~0.1 nm)で大きさの揃った量子ドットを「自然に」かつ大量に合成できます。既に光学特性の優れた量子ドットの作製に成功しており、現在レーザー素子や太陽電池への応用を検討する段階まで進んでいます。この方法は今までの半導体微細加工技術にはない優れた特長を持っており、個人的にも非常に楽しく進めている研究です。

村山 明宏教授

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