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ネットジャーナル18

スピントロニクスの切り拓く新しいエレクトロニクス分野

――スピントロニクスはどのような分野で期待されているのでしょうか。

山本 今、最も期待されているのは、コンピュータのメモリや論理LSIの分野です。現在使われている半導体トランジスタの微細化は限界に近づきつつあります。このため、今後のコンピュータや情報機器をハードウエアの面で支えるエレクトロニクスとして、新しい概念あるいは新しい動作原理に基づく電子デバイスが必要となっています。特にLSIの素子数の増大に伴い、素子の低消費電力化が必須です。新しい概念に基づくデバイスの一つとして、電子のスピンを活用するスピントロニクスデバイスが注目を集めており、活発に研究開発が行われています。

スピントロニクスデバイスは高速動作であり、かつ、基本的に不揮発性を特徴としています。不揮発ということは、メモリの場合で言えば、電源をオフにしてもメモリ情報が保持されることを意味します。このため、スピントロニクスデバイスを用いて、高速で不揮発のメモリを実現することができます。また、スピントロニクスでは、トランジスタや論理回路の出力を不揮発にすることができます。このことは、動作中の論理LSIにおいて、動作のパスに入っていないトランジスタや論理ゲートの電源をオフにすることが出来ることを意味します。すなわち、不揮発の論理ゲートを用いると、論理LSIの消費電力を画期的に低減できることになります。

代表的なスピントロニクスデバイスの一つは強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)です。MTJは電極を強磁性体としたトンネル接合デバイスであり、1から2ナノメートル程度の絶縁層を上下から強磁性体の電極で挟んだ構造となっています(解説3)。極薄膜の絶縁層では量子力学のトンネル現象が起こり、電子はある確率で極薄絶縁層をトンネルします。ここで大事なことは、トンネルする電子のスピンが保存されることです。この原理によると、上下の強磁性電極の磁化が平行であれば、相対的に大きなトンネル電流が得られ、磁化が反平行であれば小さな電流が得られます。MTJは、この特性を利用して情報の書き込み/読み出しを行います。

また、MTJは、強磁性電極の磁化の相対的な向きを2値情報に対応させているために、電源をオフにしても情報が保持されます。このため、MTJをメモリセルに用いることによって、不揮発性のメモリであるMRAMを構成することができます。このMRAM(解説4)は、不揮発性の他に、DRAMと同程度の高速性、高い信頼性(高い書き換え耐性)を特徴として持っており、さらに、潜在的にDRAMと同程度のメモリ容量が可能です。このため、現行のパソコンに搭載されているDRAM並みのメモリ容量を持ったMRAMは起動時間の極めて短い、インスタントオンのコンピュータの実現につながると期待されています。

理学博士 山本 眞史 教授

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