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大規模MIMOの実現に不可欠な信号処理技術に
パラダイムシフトを起こす

写真:博士(工学)大鐘 武雄

情報科学研究科 メディアネットワーク専攻 
情報通信システム学講座 インテリジェント情報通信研究室・准教授

博士(工学)大鐘 武雄

プロフィール

1981年、北海道大学工学部電子工学科卒。1986年、同大学院修士課程修了後、郵政省電波研究所(現・独立行政法人情報通信研究機構)入所。1992年〜95年、(株)ATR光電波通信研究所に出向。1994年、北海道大学博士(工学)の学位を取得。1995年、同大学院工・電子情報・助教授。2005年〜06年、英国ブリストル大客員研究員。研究分野は陸上移動通信伝搬、アダプティブアレーアンテナ、MIMO無線システムにおける信号処理など。IEEE、電子情報通信学会所属。電子情報通信学会篠原記念学術奨励賞(1989)、IEEE AP-S Tokyo Chapter Young Engineer Award(1993)、電子情報通信学会論文賞(2006)などを受賞。

無線通信のトラフィック増加に応える大規模MIMO技術の研究

先生の研究室では主にどのような研究をおこなっているのですか

大鐘 携帯電話やスマートフォン、タブレットPCなどの無線通信システムは、伝送速度の向上が常に求められています。世界各国の通信事業者によると、データ量の総数が今後10年で約1000倍にまでふくれあがると試算され、限られた周波数帯の中で膨大なトラフィックをいかに処理するかが大きな課題となっているのです。

こうしたニーズに応えるため近年注目されているのがMIMO(マイモ:multiple-input and multiple-output)と呼ばれる技術です。MIMOは、送信側・受信側それぞれに複数のアンテナを設置し、同時に複数の信号を送受信する技術です(解説1)。2010年から携帯電話の規格であるLTEでMIMOが実用化されており、LTEの後継規格である第4世代(4G)では複数台が同時に携帯基地局と通信するマルチユーザMIMOの導入が検討されています。

私たちの研究室が取り組んでいるのは、もっと先の第5世代以降を見据えた「大規模MIMO」(解説 2)の実現に向けた信号処理技術と伝搬環境の研究です。大規模MIMOは、マルチユーザMIMOをさらに大規模化したもので、基地局に100素子あるいはそれ以上のアンテナを設置し、受信端末も100素子程度(1〜2素子のアンテナを内蔵した携帯端末が50〜100台)となるネットワークを想定しています。通信事業界が現実的に考えているのは、基地局側の100素子に対し受信端末が10〜20素子程度のものですが、本研究室ではより多くのユーザが利用できる環境を視野に入れて研究しています。

大規模だからこそ可能になった確率伝搬アルゴリズムの適用

大規模MIMOを実現するにはどのような技術が必要なのでしょうか。

写真:博士(工学) 大鐘 武雄

大鐘 MIMOは複数の送信アンテナから独立した信号を送信し、受信側でスマートアンテナ等の信号処理(解説 3)により多重化された信号を分離・検出します。しかし、大規模MIMOの場合、一般の信号検出手法では最小でも素子数の3乗に比例した処理が必要になってしまい、実装が非常に困難となってしまいます。そこで、本研究室では並列干渉キャンセラを用いた確率伝搬アルゴリズムに基づく検出手法(解説 4)に着目し、演算量を削減する手法の検討を行いました。

確率伝搬アルゴリズムは従来のMIMO信号処理技術にはない手法ですが、いくつかの実験・検証を行った結果、素子数が数十という規模になると効果的に動くことがわかりました。さらに並列干渉キャンセラを組み合わせることで、演算数が素子数の2乗オーダーに低減されることも実証されました。この手法は、大規模な空間多重における信号の分離検出手法として非常に有効であると考えられます。

学生と一緒に組み立てた新しいパラダイム

先生にとってこの研究テーマはどのような意義がありますか。

写真:博士(工学) 大鐘 武雄

大鐘 今回の一連の研究では、学生と一緒に組み立てた点が非常に特長的であり、有意義でもあったと思います。長年同じ分野に携わっていると、自身の経験から考え方や手法に偏りが出てしまう可能性があり、若い世代の学生たちが先入観のない自由な発想でアプローチすることはとても大切だと思います。まったく違う視点からアイディアを出してくれるのは、私にとっても大いに刺激になります。

情報通信の世界が今後どうなっていくのか、私たちの生みだした技術が社会でどのように使われていくのかを想像することは簡単ではありません。しかし、第5世代以降の大規模MIMOの実現は、私にとってわくわくするようなテーマであり、今後もなお一層取り組んでいきたいと思っています。現在の通信分野で今すぐ実用化されるというものではなく、すべてが予想通りになるとは限りませんが、情報社会が飛躍的に発展・拡大した時、私たちの提案した手法が役に立つと嬉しいですね。

また、確率伝搬アルゴリズムが大規模MIMOの信号処理に適用できることがわかったことで、新たな展開も見えてきました。まったく別の分野で新しいアプリケーションが生まれる可能性もゼロではなく、異分野への応用展開も期待できると思います。

解説

解説1:MIMO(マイモ)

Multiple-Input and Multiple-Output。送信側と受信側の双方に複数のアンテナを設置して伝送を行うシステム。従来信号劣化の要因であったマルチパスを積極的に利用することで伝送効率を高める技術であり、今後無線通信を行う上で重要な技術として1990年代後半に登場して以来、世界中で盛んに研究されている。中でも、送信アンテナ数に応じて複数の情報信号 (ストリーム) を同時に送信する手法を空間多重と呼ぶ。多重数に応じて情報量を増加できる利点がある。

図:MIMO(マイモ)
図:MIMO(マイモ)

解説2:大規模MIMO

基地局側に100素子以上のアンテナを設置したマルチユーザMIMOシステム。素子数を増やすことで送信ビームを細くすることが可能になるため、ビーム走査のような簡易な手法でもある程度の信号分離が可能であると考えられている。

図:大規模MIMO
図:大規模MIMO

解説3:MIMOにおける一般的な信号検出手法

異なるアンテナから送信された信号を分離・検出するには、到達経路の空間的な違いに着目した空間フィルタと、すべての送信信号の組み合わせから最適なものを探索する手法に分けられる。前者は逆行列演算が必要なため、素子の3乗に比例した処理が必要となる。後者は特性が非常によいものの、素子数に対して指数的に処理量が増加してしまうため、QRM-MLDと呼ばれる有名な軽減手法が実用化されている。ただし、それでも素子の3乗に比例した処理を必要とする。

図:MIMO空間多重時の信号検出
図:MIMO空間多重時の信号検出

解説4:確率伝搬アルゴリズムに基づく検出手法

通信の分野では、LDPC符号やターボ符号のような高性能の誤り訂正符号の復号などにおいて、確率伝搬アルゴリズムと呼ばれる手法が適用されている。これを、大規模MIMO信号検出に応用したのが下図である。素子数が10程度では、ほとんど検出ができないのに対し、素子数が数十規模では、非常に高精度に検出できるようになる性質がある。一方、計算量は素子数の2乗に比例する複雑度で実現可能である。

図:確率伝搬アルゴリズムに基づく検出手法
図:確率伝搬アルゴリズムに基づく検出手法