HOME > 研究活動・産学官連携 > ネットジャーナル > ネットジャーナル35

ネットジャーナル35

微小気泡とパルス超音波によるソノポレーションの撮影に成功

――超音波の分野ではどのような研究が行われていますか。

博士(工学)本村 教授工藤 微小気泡と超音波を用いた細胞治療の技術です。微小気泡とは直径1〜2ミクロン程度の小さな気泡で、毛細血管も通ることができます。特殊な加工をすることで生体内に入っても30分〜1時間ぐらいは安定して存在し、超音波を強く反射・散乱するため超音波診断の造影剤として使われています。こうした微小気泡の利用が可能になったことも大きなブレイクスルーなのですが、私たちはさらに微小気泡を治療に活用する技術の開発に取り組んでいます。

細胞に超音波を照射すると細胞膜に小さな穴が開き、通常は入らない薬や遺伝子が細胞内に入り込みます。この現象をソノポレーションと呼び、抗がん剤のドラッグデリバリシステム(薬を必要な組織にのみ作用させる技術)や、細胞への遺伝子導入などの応用が期待されています。しかし、ソノポレーションを起こすには強い超音波を連続的に照射しなければならず、生体にダメージを与えてしまいます。このため、繰り返し使用することが難しく、より負担の少ない手法の実現が求められていました。

私たちは、細胞のそばに微小気泡を置くと短いパルス超音波でもソノポレーションが起きることを世界に先駆けて発見し(解説3)、これを用いた安全なin vivo(生体内)ソノポレーションを提案しました。さらに、高速度カメラを使ってソノポレーションの様子を撮影することに成功。数マイクロ秒という短い時間に気泡が膨張・収縮し、細胞に作用を与える様子を実際に見ることができました(解説4)。

気泡にパルス超音波を照射することで細胞膜に穴ができることは確認されたものの、薬や遺伝子がどのようなメカニズムで細胞内に取り込まれるのかはまだ解明されていません。気泡に蛍光試料を付けた実験では、蛍光試料が必ずしも取り込まれるわけではないことが確認されています。気泡の動きや細胞膜との関係を解明し、細胞内に確実に薬や遺伝子を到達させる方法については今後も研究を続けていく必要があります。

将来的には、がん治療への応用を目指しています。がん細胞は他の細胞に比べ血管の内皮細胞の結合が粗く、サブミクロン程度の大きさの気泡が血管の隙間からがん組織内へ入り込むことが知られています。これを利用して、治療薬をがんに集積させる手法の開発を他大学との共同研究で進めています。また、がん細胞の表面の特徴的なタンパクと結合する気泡をつくり、がん細胞だけを狙うターゲティング気泡の研究も行っています。 これらの技術が実用化できれば、10回程度の通院でがん治療ができるようになり、患者の負担もかなり軽減されると考えられます。今後は生体細胞での観察や蛍光観察などを行い、より確実な技術の確立を目指しています。

生物学や薬学などとのコラボレーションで新たな道を拓く

――医用技術の研究や開発にはどのような魅力がありますか。

工藤 産業界の発展を見てみると、医療機器のような高度な装置を開発する研究活動が技術の高度化をリードし、他の電子産業を牽引してきました。そこで実現された技術がコンシューマ向けの電子機器に応用され、市場に応じたパフォーマンスやコストで展開されていきます。医用機器の技術開発は今でもがわが国の電子産業の最先端を走り続けているパワフルな分野であり、医学のみならず幅広い分野と連携する面白い研究ができます。最先端の電子情報技術に興味があり、同時に多様な分野へも関心を広げていきたいと考えている学生さんにとっては非常に魅力ある研究分野だと思います。

(2014/12/01)

ページの先頭へ