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ネットジャーナル37

学問から見落とされてきたがれきの知見を蓄積する「がれき工学」

――「がれき工学」という言葉はあまり聞いたことがないのですが。

博士(情報学)筒井 准教授

小野里 「がれき」は人工物が災害や破壊によって発生したものです。自然科学者は地震のメカニズムや予測を研究し、土木や建築の研究者はがれきにならないように丈夫な素材や構造の技術を開発しています。しかし、すでにがれきになってしまったものを対象とした研究はほとんど行われてきませんでした。

阪神・淡路大震災の直後から、がれきの下に閉じ込められた人々を救出するためのレスキューロボットの開発が盛んに行われるようになりましたが、レスキューロボットの機能や性能を評価するために必要な作業環境の情報、つまりがれきに関するデータがほとんどないのが現状です。

私はレスキューロボット開発の前提として、「がれきに関する10の問い(図2)」を考えました。これらの単純ですが重要な問いに自信を持って答えられるような専門家は今のところいません。前述した知のフロンティアから取り残された領域のひとつであったわけです。レスキューロボットを実現するためには、この10の問いに答えられるような知見を学問的に蓄積することが必要です。これを私は「がれき工学」と名付けました。また、我々日本人が使う「がれき」という言葉のニュアンス(人工構造物が災害や事故、戦闘などによって破壊された後の残骸)を包括的に表現する英語表現が見当たらなかったため、英語の論文を書くときにも「Gareki Engineering」とそのまま使うことにしました。

がれき工学は非常に研究しにくい性質を持っています。災害などでがれきが発生しても、それは一刻も早く片付けられるべきものであり、じっくり観察したり分析したりする時間はありません。救助を待っている人がいるような場合はなおさらです。それががれきの研究が進まなかった要因にもなっています。 実際のがれきを使って研究するのは機会やコストの面で難しいため、私たちの研究室ではコンピュータの仮想空間の中で倒壊プロセスシミュレーションを使い、「デジタルがれき」を作って分析する手法を採用しています(解説2)。ここで得たデータを基に、レスキューロボットをがれきの中で活動させるシミュレーションや、レスキュー隊員が救助活動に使用するショアリング(倒壊建物などの安定化技術)の評価などを行っています。

がれきに関する研究はまだ始まったばかりです。例えば、地震による倒壊でできたがれきと津波よってできたがれきでは性質や扱い方が異なり、発生のメカニズムや対応に関するニーズも多種多様です。がれき工学は社会的意義の大きい分野ですが、その特殊な性質から産業界とのコラボレーションが難しく、産学連携が生まれにくい分野でもあります。だからこそ大学で担うべきであり、時代に流されることなく継続していく学問領域であると考えています。研究室に所属する学生たちも社会に役立てたいという意欲を持って研究に取り組んでおり、今後の展開に期待を持つと同時に、多くの方に「がれき工学」の有用性を知ってほしいと思います。

(2015/02/02)

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