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ナノスケールの電磁気物性を「その場」で観察
次代のデバイス開発を目指したメカニズムの解明

写真:博士(理学) 有田 正志

情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻 
先端エレクトロニクス講座  ナノ物性工学研究室・准教授

博士(理学)有田 正志

プロフィール

1980年、広島大学理学部物性学科卒。1985年、大阪大学基礎工学研究科中退(留学のため)。1987年、スイス連邦チューリッヒ工科大学数物科学研究科数学物理で博士号取得。1987年、日本チバガイギー(株)国際科学研究所グループリーダー。1990年、名古屋大学教養部講師、1993年、名古屋大学工学部講師。2000年、北海道大学大学院工学研究科助教授。2004年度より同大学院情報科学研究科准教授。日本顕微鏡学会、日本金属学会、応用物理学会、日本磁気学会所属。

原子サイズの電磁気物性をリアルタイムでとらえる「TEMその場観察」

ナノ物性工学研究室ではどのような研究をしているのですか。

有田 原子サイズの極微細構造体の電磁気物性とその応用です。電子顕微鏡を使ってサブナノスケールの構造体を観察し、電気抵抗の変化や電気伝導特性などについて調べています。さらに、それらの原理を応用し、新しいデバイスの開発につなげることを目標としています。

身近な例をあげますと、携帯電話やパソコンには常に通電しておかなくてはならない揮発性のメモリが内蔵されていますが、このメモリが消費する電力をいかに少なくするかということが大きな課題となっています。そのために研究開発されているのがReRAM(抵抗変化メモリ)(解説1)と呼ばれるものです。国内外で盛んに開発が進められ、すでに一部の家電製品などで実用化されていますが、じつはどういう原理で動いているのか詳しく解明されているわけではありません。なぜ抵抗が変わるのか、いつ変わるのかといったことがよく分かっていないのです。

本研究室では、ReRAMのテストデバイスを製作し、酸素イオンや銅などの金属イオンが移動する様子を観察することで、電気抵抗が変化するプロセスを解明しようとしています。
そのために用いられているのが透過電子顕微鏡(TEM)による「その場観察」という手法です。

本研究室が行っているTEMその場観察は、TEMに特殊なホルダーをセットし、ナノ領域の伝導計測を行うものです。ナノスケールの先端を持つTEMホルダー(TEM-STMホルダー)を製作し、数個〜数十個程度の原子に電圧をかけながら、試料の変形や破壊の様子を観察します。TEM-STMホルダーを用いると、画像を見ながらナノメートル領域の観察がその場で行えるため、さまざまな伝導計測に活用できます。

ホルダー・試料の製作や装置の調整などは非常にデリケートで、学生や研究者の手作業に頼る部分が大きく、装置の扱いに長けた人材を育成することも私たちの重要な役割のひとつです。

ReRAMにおけるフィラメント観察に成功

具体的な研究事例はどんなものがありますか。

博士(理学) 有田 正志

有田 TEMその場観察による成果としてあげられるのは、「Cu/MoOx抵抗変化型メモリにおけるフィラメント観察とその分析(解説2)」です。ReRAMの動作原理にはいくつかの種類があり、その中のひとつにフィラメントモデルと呼ばれるものがあります。電圧をかけることによって銅イオンが移動し、細いフィラメントとして析出すると考えられているのですが、このことを実験的に明確にした報告例はありません。私たちは、TEMその場観察の技術を使って、ReRAM中のフィラメント形成過程をリアルタイムに観察することに成功しました。

フィラメントがどのくらいのスピードでどのように動いているかを実際に目にすることができたのは非常に大きな成果と言えます。

ただ、今回の実験では今まで考えられていた原理とは異なる現象も見られ、そのメカニズムは解明されていません。フィラメントの素材にはさまざまな種類があり、私たちが採用した素材に特有の現象なのか、一般性があるものなのかもよく分かっていません。それらは今後の研究テーマとなっています。

これらの成果はどのように活用されるのでしょうか。

博士(理学) 有田 正志

有田 ReRAMが信頼のおける製品として普及していくためには、原理やメカニズムをきちんと解明することが重要です。それは「どうやったら壊れるか」を調べることでもあります。上手く動いたから製品化できるということではなく、何年保つのか、壊れる原因は何か、そういうことを全部調べ上げて初めて商品として世に送り出すことができるのです。

本研究室では、製品の寿命を検証する加速劣化試験についても研究しており、ReRAMの加速試験に必要な条件や劣化のメカニズムの解明に取り組んでいます。

また、電気抵抗の変化を活用したスイッチの原理が解明されれば、ReRAM以外にもさまざまなデバイスが開発できるのではないかと考えています。

エネルギー問題を解決する夢の技術を目指して

ReRAM以外のデバイスの可能性とはどのようなものですか。

有田 エレクトロマイグレーション(EM)によるナノ構造を作成し、デバイスに応用しようという研究です(解説3)。EMとは、電流によって熱的に励起された原子が電流中の電子に衝突されて移動する現象のことです。この現象はLSIの配線などの断線原因となることから、EMを制御する技術の研究がなされていますが、逆に断線過程を上手くコントロールすれば微細な電極を作ることが可能になります。先ほどお話したReRAMなどと組み合わせると、現在使われている電極の1000分の1程度の電力で動作するデバイスが作れるのではないかと考えられ、エネルギー問題の解決にもつながる画期的な技術になると期待しています。

研究室の学生にはどのようなことを学んでほしいと考えていますか。

博士(理学) 長田 直樹

有田 先ほども言いましたが、TEMやホルダーなどの実験装置は、そのほとんどを自作しています。既製品のホルダーもあるのですが、用途や機能が限られていることが多く、多種多様な実験を行うには不便です。基本構造は同じでもその時々によってやりたいことが異なり、多様な条件下での現象を観察するためには、ホルダーなどの道具は自分たちの手で製作することが望ましいのです。また装置の調整や解析ソフトのプログラミングなどの技術も習得する必要があります。言葉で説明できない部分が多く、失敗や試行錯誤を繰り返して覚えなくてはならないので時間がかかりますが、こうした技術やスキルを身につけておけば、メーカーなどに就職した時も大いに役立つはずです。このことは今回の研究に限った言い方なのですが、より一般的にもっと大切なことは、新しいモノを作っていくために世の中の動向をどうやって調べ、必要な原理などを見出し、それをどのようにして世に送り出していくか、このような考え方やスキルを身につけることにあります。実験系の研究室ですから制約もありますが、学生には自由に考え研究を進める人になってほしいと考えています。十分に考え,我々教員とも十分に議論して計画を練った研究であれば、仮に失敗したとしても良いではないですか。必ず得るものはあります。もっとも、危険も伴いますし、次々と装置を壊されても困りますから、お手柔らかに願いたいですがね(笑)。

解説

解説1:ReRAM(抵抗変化メモリ)

ある種の絶縁体を金属電極ではさんで(左図)電圧と変化させると、電圧のプラス・マイナスによって電気抵抗が数桁変化する(中図)。実用的にはパルス電圧をかけて、高抵抗の状態を1,低抵抗の状態を0と考えれば,それがスイッチになり、メモリとしての応用が期待できる(右図)。この現象を用いているのがRandom Access Memory (ReRAM)である。

図1

解説2:Cu/MoOx 抵抗変化型メモリにおけるフィラメント観察とその分析

ReRAMの動作モデルにはいくつかあるが、Cu/MoOx系では導電性のフィラメント形成と消失が抵抗変化に寄与すると言われている。TEMその場観察によって、これを実験的に示した(ビデオ:4倍速)。

解説3:エレクトロマイグレーションによるAu細線破断過程のTEMその場観察

金属細線に電流を流すと,電子の動く方向(電流とは逆向き)に原子が動き、この現象をエレクトロマイグレーションと呼ぶ。これを上手く制御すると,10ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)以下の電極空隙を作ることができる。

図