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ネットジャーナル44

生物に倣った電子ブラウンラチェットとアメーバ型コンピュータ

――他にはどのようなものがありますか。

博士(工学) 田中 章 准教授

葛西 2つめはブラウンラチェットを応用した電子デバイスの開発です。ブラウンラチェットとは生物の筋肉の動力源となる分子モーターのメカニズムです。私たちは分子モーターの仕組みにならい、低エネルギーで電流を生成する素子の開発を行っています。

電子機器の中では電子が行き来することで信号を伝達していますが、実は1つ1つの電子はランダムな動きをしていて雑音の源になっています。電子ブラウンラチェットはゆらいでいる電子から使えるエネルギーをとりだします。ラチェット機能をいかに電子的につくり出すかがカギとなりますが、本研究では半導体ナノワイヤに非対称形状電極を多数設けることでふらつく電子を一つの方向に導く手法を考案しました(解説4)。半導体内部の電子の動きを理解して構造設計し、半導体ナノテクノロジーをつかって構造を実現しました。このデバイスは室温で動作するためさまざまな電子機器に組み込むことができます。これは世界初の研究成果といえます。電子機器の中で発生する雑音を排除するのではなく、逆にエネルギー源として使う。こうした仕組みが実用化されればエネルギーの有効利用が飛躍的に向上すると期待できます。

3つめはアメーバ型コンピュータの研究です。これは、「巡回セールスマン問題」や「ナップサック問題」と呼ばれる最適化問題に関わるテーマです。最適化問題を解くためにコンピュータは単純に1からトライアンドエラーを繰り返して答えを探すため、変数が増えると組合せの数があっという間に増えて膨大な計算時間を要します。これは組合せ爆発と呼ばれ、現在のコンピュータではこの爆発を抑えきれません。最近、生物のアメーバはうねうねした動きをすることでコンピュータよりも少ない数のトライアンドエラーで最適化することができることがわかってきました。これをアメーバ型計算と呼んでいます。しかし、生物のため動きは遅く一つのトライにかかる時間が長くなってしまいます。アメーバの動きを電子デバイスで高速に再現しようというのが電子アメーバです(解説5)。

アメーバ型計算機のような非ノイマン型コンピュータは、律儀に問題を解こうとするノイマン型コンピュータよりも効率よく最適化問題を解くことができると言われており、次世代のコンピュータとして大きな期待がかけられています。しかしなぜ効率がよいのかはまだ解明されておらず研究の途上です。非ノイマン型である生物の計算能力を宿した電子デバイスを開発し、そこにある原理を解明することは、結局「生物って何?」という疑問の答えを追い求めることかもしれません。

(2015/10/06)

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