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さらなる超高速・大容量が求められる光通信の未来のために
光ファイバ・デバイスの新技術を研究開発

写真:博士(工学)齊藤 晋聖

情報科学研究科 メディアネットワーク専攻
情報通信システム講座  情報通信フォトニクス研究室・教授

博士(工学)齊藤 晋聖

プロフィール

1997年北海道大学工学部電子工学科卒業。1999年同大学院工学研究科電子情報工学専攻修士課程修了。2001年同大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程修了、北海道大学大学院工学研究科助手。2004年より同大学院情報科学研究科助手、助教授(准教授)を経て、2013年に教授就任。専門研究分野は光ファイバ通信、光エレクトロニクス、光ファイバ応用技術、光・電波科学、計算科学。電子情報通信学会(IEICE)、アメリカ電気電子学会(IEEE)、アメリカ光学会(OSA)所属。

光ファイバ通信の限界をいかに打破するか

情報通信フォトニクス研究室で取り組んでいるテーマはどのようなものですか。

齊藤 私たちの研究室では光通信の研究をしています。その目的は将来の超高速・大容量の光通信をいかに実現するかということです。具体的には光ファイバや光源、光の伝搬を制御するデバイスなどをトータルに考えた次世代光通信システムの研究開発です。

総務省の調べによると、日本国内のインターネットトラフィック量は急速に増大しており、2014年11月の時点で約3.6Tbps(1秒間に3.6テラバイト)、10年前と比較して約10倍になっています。今後20年間では1,000倍の大容量化が必要といわれ、これらのトラフィックを処理するには既存の光ファイバの限界を打ち破る新しい構造のファイバ開発が求められているのです。

現在使われている光ファイバの構造は、光が伝搬するコアと呼ばれる部分とその周辺を覆うクラッドに分かれ、直径125ミクロンのクラッドの中心に約十ミクロンのコアが通っています。これまでの光通信ネットワーク技術はTDM(時分割多重)とWDM(波長分割多重)の技術を高度化することで高速・大容量を実現してきました。しかし、既存の光ファイバ技術では1本の光ファイバの伝送容量は100Tbpsが限界で、その限界に達するまでにあと数年の猶予しかないと考えられています。

そうした問題を解決する技術として2009年頃から国内外で注目され始めているのがSDM(空間分割多重)です。SDMには大きく分けて3種類あり、1本の光ファイバにシングルモードのコアを複数有する「マルチコア」、ひとつのコアに複数の伝搬モード(光の伝搬の仕方)を有する「マルチモード」、1本の光ファイバにマルチモードのコアを複数有する「マルチコア&マルチモード」の3種類です(解説1)。

さらに、マルチコアには各コアから漏れた光信号が互いに干渉する問題があるため、コアとコアの間隔が40ミクロン程度離して使う「非結合型」と、コアの干渉を上手く活用することでコアの間隔を狭くする「結合型」などがあります。

光ファイバの研究開発は世界各国で精力的に進められているのですが、日本ではマルチコアファイバに関する研究開発が2010年頃からスタートしたという経緯があり、研究室でもマルチコアファイバを中心にしながらマルチコア&マルチモードファイバの研究に力を注いでいます。

それぞれの特徴を把握した多様な技術開発

SDMファイバの開発にはどのような課題があるのでしょうか。

博士(工学)齊藤 晋聖

齊藤 まずは、光ファイバそのものをどのような設計にするかという問題があります。従来のものとは違う構造のファイバを新しく作らなければならないので、ファイバの直径やコアの数、配置をどのようにするのが最適かを考える必要があるのです。マルチコアもマルチモードもそれぞれ特徴があり、使う場所や伝送距離などによってメリット・デメリットが出てくるため、オールマイティな最終形を模索するというよりは、用途に合わせた形態をいくつか提案していくことが重要だと考えられます。

また、光ファイバだけを高精度化・大容量化しても問題は解決できません。長距離伝送に必須な増幅技術や、多重する信号を合分波する入出力デバイスの開発なども行っています(解説2)。

特にマルチモードファイバで課題になるのは遅延時間です。複数のモードを使うと、それぞれのモードが伝搬する時間が違うので到達時間に差が出てきます。短い距離であれば無視できる程度の差ですが、数百〜1000キロという長距離になると受け手側の信号処理に影響が出るほど差が大きくなります。

解決にはいくつかのアプローチがあり、時間差があってもうまく切り分けて処理するものと、できるだけ時間差が小さくなるように光ファイバやデバイスを高度化するものです。モード数が増えるほど遅延時間の問題も大きくなってくるので、単純にモード数を増やせば大容量化できるわけではなく、ファイバとデバイスの関連性も視野に入れながら研究を進めています。

社会インフラを担う技術として

今後、光ファイバの研究はどのように進められていくのですか。

博士(工学)齊藤 晋聖

齊藤 光ファイバの研究開発はどれが正しいという答えが出ていないのが現状です。マルチコア・マルチモードそれぞれ長所や短所があり、使う場所や距離、コスト、拡張性などさまざまな要素が絡み合っています。現在研究が行われているSDM用光ファイバの種類と特徴を比べてみても(解説3)、コアの密度や遅延時間、信号の分離処理、パワー密度などの面でそれぞれにメリット・デメリットがあります。

シングルモードのマルチコアは使うモードがひとつなので、コアにおける処理は今までのシングルモードファイバと同じ伝送の仕方が利用できます。ただし、現実的なクラッド径の中に30個程度のコアを通すのが限界なので大容量化の限界も30倍程度となります。

マルチモードでは、コアがひとつなので従来の光ファイバの製造方法を踏襲することができ、コアに通すモードの数も36個程度まで増やすことができます。しかし、ここでは伝搬の遅延時間やモードの分離のための大規模な信号処理が必要になります。

もうひとつの考え方としてはマルチコアとマルチモードを組み合わせたタイプで、コア数もモード数も極限まで上げず10個程度に抑えたとしても10×10で100倍になります。一見するとこれが一番有効なように思えますが、そこにもさまざまな課題が残っています。

三者三様の特徴を持っているのでどれが最も有効かということは一概には言えず、それぞれの特徴を熟知した上での研究開発が行われています。

また、ファイバそのものの製造プロセスもデリケートなのため、商用として安定的に生産できることが重要ですし、海底ケーブルのように一度敷設すると数十年使い続けるような設備では、10年後20年後を見越したポテンシャルが求められます。将来的には毎秒エクサ(10の18乗)ビットレベルの伝送容量が不可欠になると考えられており、世界各国でトータルなシステムの実現に向けた研究が進められています。今後は、国際競争なども見すえながら産学官協同で進めていくべき研究であり、私たちの研究室でも、社会インフラを担う重要な技術であるという自覚を持ちつつ取り組んでいます。

解説

解説1:SDMの種類

SDMには①マルチコア(1本の光ファイバにシングルモードのコアを複数通す)、②マルチモード(ひとつのコアに複数のモードを通す)、③マルチコア&マルチモード(1本の光ファイバにマルチモードのコアを複数通す)の3種類がある。

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解説2:SDM伝送の課題

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解説3:SDM用光ファイバの種類と特徴

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