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ネットジャーナル50

医療分野の技術革新を目指した
画期的な技術の研究開発

――現在どのような研究を行っているのですか。

博士(理学) 雲林院 宏

雲林院 まず一つは遺伝子操作技術の革新につながる技術の開発で、特に目指しているのがiPS細胞の操作です。現在のiPS細胞は、必要な遺伝子を持ったレトロウイルスを体細胞に導入し培養して作製しています。しかし、培養した細胞すべてがiPS細胞になるわけではなく、細胞ががん化する危険性があるなど多くの課題も抱えています。

 

私たちが開発した金属ナノワイヤーを用いた技術を用いて、ウイルスを使わず、細胞一つひとつに遺伝子を直接導入する手法の開発を行っています。前述のようにナノワイヤーは細胞にほとんど影響を与えないので、遺伝子を入れ込む方法としては非常に確実で効果的であると考えています。今はまだマニピュレータを操作する技術者の熟練度などの影響で精度にばらつきがあるのですが、操作手順や設備・装置の高度化を図ることができれば大量生産も可能ではないかと考えられます。そのために必要な技術と知見を積み上げることが今の目標です。

もう一つは、高分子マテリアルを活用したドラッグデリバリーシステムの研究です。本研究室の猪瀬朋子助教が中心になって進めているテーマで、ガラス(シリカ)で作ったナノサイズのカプセルの中に抗がん剤を入れ、がん細胞をピンポイントで狙って投与する方法を開発しています(解説2)。特定のがん細胞を選択・接着する性質を持った数種類の高分子でカプセルの周囲を覆い、体内を循環している間は溶けず、がん細胞の中に入ったときだけ中の薬剤が溶け出す仕組みを考えています。

研究室では、高分子で覆ったカプセルを血液と似た性質の液体に入れ、中の薬剤の状態を数週間にわたって観察しました。その結果、血液中ではほとんど溶けないことを確認しています。さらに、がん細胞内に入った後の薬剤の効果も観察しています。光学顕微鏡を使い、がん細胞が薬によって縮小・消滅していく過程を確認しています。現時点では、従来の約1000分の1程度の抗がん剤で十分な効果を示唆する結果が得られています。

――これらの研究は、今後どのような分野に活かされるのでしょうか。

雲林院 将来的には社会の役に立つ研究成果を出したい、そのための技術と化学を発展させたいという思いがあります。ナノワイヤーの合成やそれを使った分子の操作、プラズモニクスを用いた分光技術などは私が最も得意とする領域ですが、それだけでは具体的に社会に貢献できるわけではありません。細胞を生きたまま操作・観察することで何が可能になるのか、どんな画期的な技術が実現するのかということは、これから私たちが示していかなければならないでしょう。その一つが単一細胞レベルでの遺伝子操作の分野であり、そういうことができるようになれば私たちの研究の意義も生まれてくるのではないかと思います。私たちの研究は生物、化学、工学の研究者がコラボレーションして初めて成し遂げられるものです。これからもルーヴァン大学や北大、企業など多くの人々と協力しながら研究を進めていきたいですね。

(2016/10/18)

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