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海外での学びを経て研究に対する思いを育む
半導体スピントロニクスの分野で画期的な技術を提案

写真:博士(工学) 古賀 貴亮

情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻
先端ナノエレクトロニクス講座  ナノエレクトロニクス研究室・准教授

博士(工学)古賀 貴亮

プロフィール

1992年3月東京大学工学部卒。1994年4月ストックホルム王立工科大学大学院 工学研究科修士課程修了。
2000年4月 ハーバード大学大学院工学及び応用理学研究科博士課程修了。2000年4月博士(応用物理学)学位取得(ハーバード大学)。2000年5月より、NTT物性科学基礎研究所 リサーチアソシエイト、(独)科学技術振興機構さきがけ研究者を経て、2004年4月北海道大学大学院情報科学研究科准教授就任。

ハーバードとMITでの出会いから
熱電物性への研究に没頭

これまでの経歴と研究内容についてお聞かせください。

古賀 学部生時代から「海外で学びたい」という思いが強く、大学院はストックホルム王立工科大学へ進学しました。博士課程はハーバード大学へ進み、そのうち3年半MITのミルドレッド・ドレッセルハウス教授の研究室で熱電材料の研究に従事しました。ハーバードとMITでは授業や博士論文研究の相互乗り入れが認められていたのです。当時、ドレッセルハウス先生は「カーボンナノチューブの女王」と呼ばれた権威で、ナノ材料研究で多大な功績を挙げている方です。日本の大学教育とは全く違う大胆でチャレンジングな研究方法は、その後の私の研究活動に大きく影響しました。残念なことにドレッセルハウス先生は2017年2月、86歳でお亡くなりになり、学会誌に追悼文を書かせていただきました。

当時の研究室は新しい分野を立ち上げていた時期でした。熱電材料は熱を電気に変える技術で、すでに1990年代に完成していますが、ナノテクノロジーを使った手法はまだ登場しておらず、ナノレベルでの熱電効果研究の黎明期にありました。

熱電物性への興味を掻き立ててくれたのは、私と入れ替わりに研究室を卒業されたヒックス博士の博士論文でした。当時はまだ世間に注目されている分野ではありませんでしたが、その論文は教科書に載っているような理論で展開されているにも関わらず、教科書に載っていない全く新しいことが書かれていたのです。あまりにも斬新だったので「本当なのか?」という疑問もありましたが、非常に興味深いと思ったので博士論文のテーマもこの分野に決めました。博士論文では超格子構造を用いた熱電物性最適化の手法を開発・実践し、「キャリアポケットエンジニアリング」と名付けました。この実績で1999年の国際熱電学会ではBest Paper Awardを受賞しました。

日本の研究機関で半導体スピントロニクスの研究に従事

帰国後の研究活動について教えてください。

博士(工学) 古賀 貴亮

古賀 2000年5月に帰国し、NTT物性科学基礎研究所の研究員になりました。そこでは新田淳作先生(現・東北大学工学研究科教授)のもとで半導体スピントロニクスの分野に携わりました。半導体スピントロニクスについて専門的に学んだ経験はなかったのですが、それまでやってきた熱電物性と共通するベースが(偶然)あり、研究分野間の移行は比較的スムーズにできました。また、さまざまな実験手法を学ぶこともできました。更に、海外からトップレベルの研究者が集まり、講演を聞いたり直接指導を受けることができたもの貴重な経験でした。

NTT物性科学基礎研究所で4年間研究に従事したのち、2004年に北海道大学へ移り、スピントロニクスの研究を続けています。2011年には、NTTと共同で電子スピン制御の物性定数を解明しました(解説1)。半導体量子井戸内で電子のスピンが変化することは分かっていたのですが、電子スピンの制御・操作のしやすさを表す指標となる「スピン軌道相互作用係数」の正確な数値は知られていませんでした。私たちの研究では、ゲート電圧を変化させることによって、(1)チャンネル内の電子スピンの回転を、回転方向も含めて制御できる、(2)あるゲート電圧においては、電子スピンの回転をほぼ止めることができる、という2つの結果を実証しました。電子スピンを制御する物性定数を精密に決定できたことは、新たな半導体デバイスの開発に寄与する成果として注目されています。

半導体スピン効率の最大化に成功
スピン数密度が1万倍以上に

現在はどのような研究を行なっているのですか。

博士(工学) 古賀 貴亮

古賀 2011年の成果は電子スピンの制御・操作に関する研究の第一段階で、それ以降はスピン軌道相互作用を効果的に活用し、電子のスピン状態に応じて伝導電子をふるいにかける新手法の研究に取り組みました。2011年当時は10nmの厚さの量子井戸が1枚の状態で実験を行いましたが、次の段階では2つの量子井戸(二重量子井戸)を用いたデバイスで、電流誘起のスピン数密度(CISP)を理論予測しました。その結果、半導体二重量子井戸におけるCIPSは、半導体における従来観測値の1万倍以上に増大することが判明しました(解説2)。

二重量子井戸でのスピン数密度の飛躍的な増大効果の予測は、1枚の量子井戸で実証したスピン制御をエンジニアリングに応用できる可能性を示唆しています。将来的には量子コンピューターを筆頭とする次世代電子デバイスの開発につながると期待されていますが、現在はまだ基礎研究の段階です。理論通りに動かすことができれば実用化の可能性は高まりますが、解明されていない部分も多いので、今後も基礎研究の地道な継続が必要です。

解説

解説1:電子スピン制御の物性定数を解明

インジウム、ガリウム、ヒ素をベースとした半導体量子井戸(図2)において、半導体の基本物性の一つである「スピン軌道相互作用」の大きさを精密に決定する実験にはじめて成功。半導体内の電子スピンを、ある特定方向を軸に回転させたり、回転を止めたり、逆回りに回転させたりするといった電子スピンの自在な制御がトランジスタのゲートによって可能であることを実証した。

プレスリリース:電子スピン制御の物性定数を解明〜次世代電子デバイスの研究・開発を加速〜

解説2:半導体における最大効率のスピン生成法を提案

インジウム、ガリウム、ヒ素をベースとした半導体二重量子井戸において、「スピン軌道相互作用」を効果的に活用し、電子の持つスピン状態に応じて伝導電子をふるいにかける新手法を理論的に考案。特に、量子井戸面に平行に外部磁場を印加することで、伝導電子のスピン選別の機構が明確に示された。半導体二重量子井戸において「スピン軌道相互作用」がパリティの異なる2つの波動関数を結びつける事実に着目して進められた。その結果、半導体二重量子井戸系をサブミクロンスケールで加工することにより、「エデルシュタイン効果」と呼ばれる電流誘起によるスピン生成効果が、従来半導体での観測値の少なくとも1万倍に達することが理論的に明らかにされた。

プレスリリース:半導体における最大効率のスピン生成法を提案