さあ、CGHの時代ですよ

北海道大学大学院 情報科学研究科 坂本雄児





ホログラムの目指すものの一つは、「実際と区別のつかない情景の表示」でしょう。 そして、「そこに相手がいて話しているのと区別のつかない立体通信」は計算機合成ホログラムの究極の目標の一つです。

計算機合成ホログラム(CGH:Computer-Generated Hologram)とはコンピュータで計算されたホログラムを意味する言葉です。 この技術はホログラムのパターンをコンピュータで計算します。 つまり、実際に撮影する物体がなくてもCGH技術を用いると仮想物体の立体画像を作り出すことができます。 これは、コンピュータグラフィックスが、計算機内部のデータから2次元の情景を作り出すことと似ています。

CGHが実用化されれば、仮想物体の立体像や科学計算結果の立体可視化のみならず、自由な仮想物体のディスプレイ、立体CADシステム、立体モニタ、立体画像ゲームや立体TVなど、夢は膨らんでいきます。 この夢に向かって、1960年代後半から1970年代にかけて・スくの研究者が実用化への研究を行い、優れた成果を挙げました。 しかし、30年以上前から研究されてきましたが、身の回りには実用化されたものは見当たりません。 それは、当時から越えることが困難な問題が立ちはだかっていたからです。 その一つは、コンピュータの能力です。 CGHは膨大な計算を必要とするため、当時の計算機技術では、活きている間には終わりそうもない程の時間がかかると予想されたことでしょう。 もう一つは、表示デバイスの問題です。 仮にホログラムのパターンが計算できても、それを表示するためにはデバイスが必要です。 このデバイスはμmオーダの解像度を持っていなくてはならず、当時、そのようなものはありませんでした。

しかし、当時に比べて、多くのコンピュータの性能を示す単位が、k(キロ)からM(メガ)そしてG(ギガ)と1000倍単位で変化してきました。 そして、今や身近にあるパーソナルコンピュータも以前のスーパーコンピュータと同じ能力を持つ時代になりました。 私自身もCGHの計算は、普通のパソコンを使い、コーヒーを一杯飲む程度の時間で計算できるようになってきました。 この調子だと、数年先にはリアルタイム表示も夢ではないでしょう。 また、表示デバイスも超音波変調素子(AOM)や液晶ディスプレイ(LCD)による表示が実現しつつあります。 最近の微細加工技術の進歩とともに、より実用的な立体像の表示が期待できるようになってきました。

そうです、来年とは言いませんが、5,6年後にはCGHを使った実用に近いシステムが実現できそうな状況が整ってきました。 今でも、パソコンと高精細印刷を用いて、簡単なCGHならば家庭でもできるのです。 この先には、過去に研究者達が夢見たホロTV、ホロCAD、ホロモニタ・・・が実現するかも知れません。 そのためには、まだまだ研究しなければならないことが沢山あるでしょう。 R2D2が写し出すレイア姫まで。