修士論文紹介 of 電気制御システムコース
連携講座
【氏名】
- 橋本秀太郎君(システム情報科学専攻6期生,2011年3月修了)
【研究テーマ】
- オントロジーに基づく知識情報処理によるリモートセンシングデータからの変化判読の自動化
【研究の概要】
- 私の研究では,リモートセンシング(人工衛星に搭載されたセンサから地上を観測する技術)によって得られた複数時期の衛星画像から,その場所で発生した地物変化を判読するという作業の自動化を目指しています.リモートセンシングは広域を均質かつ定期的に観測することができるという利点を持ち,衛星画像を用いた変化判読は地図更新,土地利用調査,そして災害時における被害状況把握などに応用されています.近年,技術の高度化によって詳細かつ膨大なデータ収集が行えるようになってきましたが,その反面,判読には多大な労力を要するようになり,専門家による判読と同等以上の変化判読が可能な自動的手法が求められています.
- この問題に対し本研究では,専門家による変化判読をコンピュータ上でエミュレートするというコンセプトに基づいた,知識情報処理による変化判読アプローチを提案しています.専門家による変化判読では,持っている知識によって判読対象の地物変化がどのようなものなのかを理解し,その地物変化を判読するための証拠となる情報を衛星画像中から抽出し,抽出された情報から地物変化の存在についての仮説を形成する推論を行っています.この変化判読をエミュレートするために,(1)オントロジーとヒューリスティクスという2種類の知識からなる知識ベースによって判読対象を理解しつつ判読プロセス自体を推論する手法,(2)色・形状や周囲との関係などの定量的情報を衛星画像から抽出するためのピクセル/オブジェクトベース画像解析手法,そして,(3)ベイジアンネットワークを用いて不確実性を考慮しつつ妥当な解を推論する手法をそれぞれ考案し,これらの手法を組み合わせた変化判読アプローチを構築しました.この変化判読アプローチを用いて災害事例における変化判読を行った結果,専門家と同等以上の判読結果が得ることが可能であることが実証できました.
- 大地震や集中豪雨のような広域災害が発生したときには,早く正確な被害状況把握が効率的な救助活動や避難誘導に繋がり,被害拡大を抑えることができます.本研究をさらに深めて実用化することで,従来は人の手で行っていた災害監視を含めた変化判読の効率を飛躍的に向上させ,防災・減災に役立たせることができればと考えています.
【苦労した点,楽しかった点】
- できたばかりの講座であったために先輩の研究成果やノウハウの蓄積が少なく,修士課程2年間でほぼゼロから成果をまとめあげなければならなかった事がとても苦労しました.分野の研究動向調査から未開拓問題の考察,解決策の立案,プログラム実装および検証までの研究プロセスをひと通り経験しました.その苦労のおかげか,研究を始めたばかりの頃は試行錯誤を繰り返してすぐに行き詰まる事が多かったのに対して,今では論理的に考えながら問題をひとつひとつ克服できるようになり,またそれを楽しむことができるようにもなってきました.難しい問題ほど,解決できたときの達成感はひとしおでした.
【研究活動記】
- 修士1年にシステム情報科学専攻に入学し,JAXA連携講座であるシステムセンシング情報学講座の研究を選択しました.連携講座には研究室が無く,専攻内の他研究室に所属しながら研究を行うことになります.僕の場合はシステム環境情報学研究室に所属しながら,システムセンシング情報学講座の研究を行っていました.JAXAの先生方との研究の打ち合わせはメールやWeb会議にて行ってきました.ほかにも,所属研究室の先生にも研究を見てもらうことができ,ここまで全く支障なく研究を進めてくることができました.また,1年のうち1ヶ月ほどはJAXAの筑波宇宙センターに滞在して刺激的な環境で研究を進めることができました.
- 研究開始時には恥ずかしながらリモートセンシングについての知識が全く無く,最初はリモートセンシングについての基礎的な勉強や調査だけを行い,研究テーマを決めることができたのは7月になりました.その後も研究テーマの関連研究調査などを修士1年の12月頃まで続けました.この辺りから徐々に新しい内容に踏み込むようになりました.修士2年の5月頃までにピクセル/オブジェクトベースの画像解析と推論とを組み合わせた変化判読手法を提案し,7月にはそれを国際会議にて発表しました.その後,不確実性を考慮した推論手法,オントロジーとヒューリスティクスを採用した推論手法を提案し,1月にそれらの手法の検証実験を行い,修士論文にまとめました.修士論文は100ページを超える大作で,これを2週間足らずで書き上げたのは辛かったですがいい経験になりました.
【研究を終えてみて】
- 修士課程の研究を通じて様々な知識を身につけることができましたが,その中で最も学ぶことができて良かったと思える知識は「考え方」だと思います.これは言葉で具体的に述べることが難しい暗黙知なので,自分の力で研究をやり遂げることでしか身につけることができないのですが,あらゆる場面で役に立たせることができる知識です.この2年間は大変でしたが,こうして振り返ってみると本当に貴重な経験だったと思います.
【後輩たちへ一言】
- 常に目的意識を持つことがとても大切です.同じことをするのでも,目的意識の有無によって得られる結果は雲泥の差となります.貴重な時間を最大限に活かせるよう頑張ってください.