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条件に縛られず判別可能な一般標本化定理で
サンプリングデータ処理のプロセスを大幅に効率化

写真:博士(工学)田中 章

情報科学研究科 情報理工学専攻
数理科学講座  情報数理学研究室・准教授

博士(工学)田中 章

プロフィール

1994年3月、北海道大学工学部情報工学科卒。1996年3月、同大学院工学研究科情報工学専攻修士課程、2000年9月、同システム情報工学専攻博士後期課程修了。1996年〜1998年、松下通信工業株式会社勤務。
2000年より同大学院工学研究科助手。以後、同情報科学研究科助手、助教を経て2011年より准教授。電子情報通信学会、日本音響学会、米国音響学会、IEEE会員。

一般化の決め手となった再生核ヒルベルト空間論

情報数理学研究室ではどのようなことを研究しているのですか。

田中 コンピュータに関する現象を扱っていますが、中でも工学的対象を数理的な手法によって解析し、その構造とメカニズムを解明することをテーマとしています。他の工学と比べて数学が重要な役割を果たす場面が多く、数学を活用するというよりは新しい数学的な定理を証明することが主な仕事です。

具体的には、デジタル信号処理に重要な「標本化定理」に関する研究です。標本化定理とは、もともとは通信の分野で使われたもので、理論自体は1900年代初頭に生まれています。

音声や音響などのアナログ信号をデジタル信号に変換する際、連続したアナログ信号をある一定の間隔でサンプリング(標本化)します。これを再構築することで元の音声を表現するのですが、どのくらいの間隔(周波数)でサンプリングすればよいかを示すのが標本化定理です。現在よく使われている標本化定理(シャノンの定理)は、信号に含まれる最大周波数の2倍の周波数でサンプリングすれば、元の信号を完全に再構成できるとされていています。しかし、シャノンの定理は帯域制限された信号の場合にのみ使える定理であり、発展が効きませんでした。

私が取り組んでいる研究では、帯域制限という条件に縛られず、より広範な信号を対象とした一般標本化定理の構築を目指したものです。決め手となったのは「再生核ヒルベルト空間論」で、これを取り入れることにより、個々の関数に依存せず、標本点と再生核からのみ標本化定理が成立するかどうかを判別することができるようになりました(解説1)。2010年に、この式に関する論文を発表しています(解説2)。

再生核ヒルベルト空間論を取り入れた標本化定理は、サンプリングしたデータの蓄積や伝送を高効率化できると考えられます。信号の特性を把握し、それに合わせた標本化定理を導出できれば、従来のように2倍の周波数でなくてもサンプリングが可能になるかもしれません。最近は通信速度も上がっていますし、ストレージの容量も大きいので、デジタルデータが多少大きくてもかまわないという考えもあるかもしれませんが、なるべく少ないサンプルで表現できるのであれば、その方が効率はいいはずです。

産学協同研究から生まれた写真復元システム

今回の研究成果はどのような分野に応用可能ですか。

博士(工学)田中 章

田中 サンプリングしたデータから元の信号を再構成する問題は、線形システムの逆問題と捉えることもできるのですが、その応用例として画像処理や画像解析などがあります。本研究を応用した実用化の事例としては、 (株)アイワードと産学共同研究で開発した写真再現技術「デジタイズ・ワークフロー(解説3)」があります。これは、経年変化により退色したカラー写真の色をコンピュータで復元するもので、デジタル化した画像データをソフトウェア上に構築した復元モデルに基づいて画像全体の色合いを復元していきます。一般的な画像復元は、経験や勘を頼りに手作業で行われることが多いのですが、この技術では空の青や木々の緑などすでに分かっている色を手がかりに、退色した色から元の色を計算して復元します。

また、標本化定理と密接な関係がある機械学習の研究にも取り組んでいます。機械学習も音声や画像と共通する部分が多く、サンプル源からいくつかのデータをサンプリングし、他のデータと比較しながら正しいかどうかを推定・判別します。ここでも再生核ヒルベルト空間を用いたデータ処理が行われるのですが、理論的な裏付けの解明が十分になされていません。今回構築した一般標本化定理は、標本化や機械学習、信号復元・再構成等のさまざまな分野の問題が統一的に解釈できることが明らかになっており、機械学習における定式化にも大いに役立つと考えています。

数学と工学をつなぐ領域で実社会に貢献

先生の研究が目指していることはどんなことですか。

博士(工学)田中 章

田中 一般標本化定理には、今までの標本化の証明のプロセスを大きく変える可能性があります。一般標本化定理は、標本点と再生核のみから標本化定理が成立するかどうかを判別することができ、具体的な再生核にも依存しないものです。このため、対象に特化した条件を使って一から証明しなければならなかった旧来の標本化定理に比べ、より簡単に求める結果を得ることができます。例えるなら、今まで地上から打ち上げていたロケットを宇宙ステーションから発射させるようなものです。標本化定理の新しい枠組みを形成するものとして、今後の発展が期待できます。

私は、本研究室の出身でずっと情報系の分野に携わってきました。当初は画像復元技術を研究していたのですが、技術に必要な理論を突き詰めていくうちに標本化定理という枠組みが重要であることに気づき、今はそこを集中してやっています。数学ばかり扱っているので理学系の研究のようにも見えますが、音声や画像のデジタル化技術という点では非常に実社会に近く、人々の暮らしに役立つ技術の開発ともいえます。さまざまな産業に応用できる可能性があるので、実用化へ向けた研究にも取り組んでいきたいと思っています。

解説

解説1:再生核ヒルベルト空間論によるサンプルからの信号再構成過程

図
再生核ヒルベルト空間と標本点が決まると左図のSという部分空間が決まる。再構成信号は元の信号をSに正射影したものとなるが、これが元の信号と一致すれば完全再構成される、すなわち標本化定理が成立したことになる。

解説2:再生核誘導型標本化定理

参考文献:PDFはこちら

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解説1で述べた、正射影したものと元の関数が一致するための必要十分条件が、この論文の定理4で与えられる。標本点の位置と再生核自体からなる式をチェックするだけで標本化定理が成立するか判別可能。

解説3:デジタイズ・ワークフローによる褪色画像の復元

図
左の褪色画像を復元した様子。画面下側で、オレンジやキウイ、バナナ、紫キャベツ等の色を指定すると、今回開発した復元モデルに従って、全画像の色が復元される。