電気エネルギー変換研究室


電気エネルギーは,水や空気のようになくてはならない存在です.パワーエレクトロニクス(PE)技術は,この電気エネルギーを自由に制御する技術であり,省エネのキーテクノロジーです.「PE技術による環境負荷の低減」を合言葉に研究に取り組んでいます.


【研究紹介】

再生可能エネルギー利用導入の急速拡大を促進

-Universal Smart Power Module(USPM,
ユニバーサルスマートパワーモジュール)の開発-

近年,再生可能エネルギーの大量導入に向けたエネルギーマネジメントシステムの実現が検討されています。現状,電気エネルギーの発生・伝達・利用の各段階で使用されている電力変換器はアプリケーション毎に電気・磁気・熱設計などの高度な専門知識を基に専用設計されています。しかし,今後予想される再生可能エネルギーの大量導入に対して高度な技術を持った開発者の不足やそれによる開発スピードの低下が懸念されています。そこで,アプリケーションに応じて電力変換器を専用設計するのではなく,様々なアプリケーションの電力変換器を低コストで実現可能な高い機能性,汎用性に富むパワーエレクトロニクスの基本機能をモジュール化した回路:Universal Smart Power Module (USPM,ユニバーサルスマートパワーモジュール)を開発が注目されています。USPMを複数組み合わせることで,様々な電力変換システムを構築可能で,高度な専門知識が不要で,開発スピードの向上が期待できます。

図1に,本研究室で実際にUSPMを複数並列接続して実現した三相デュアルアクティブブリッジコンバータの実験装置を示します。使用したUSPMはハーフブリッジモジュールです。ハーフブリッジモジュールの半導体スイッチのスイッチング特性のばらつきによらず,並列接続されたハーフブリッジモジュールの電流均等化が達成できるスイッチングタイミング制御を新たに提案し,小容量のハーフブリッジモジュールを複数並列接続するだけで30 kWの大容量三相デュアルアクティブブリッジコンバータを試作・開発しました。


図1 USPMを用いた30 kW三相デュアルアクティブブリッジコンバータ

我々が提案するスイッチングタイミング制御によって電力変換器の電流バランス制御を行った場合においても,制御の過渡状態で発生する横流を抑制するために結合インダクタが必要です。結合インダクタに単なるインダクタを用いると,各変換器の定格出力電流が流れても磁気飽和を発生しない大型のコアが必要となります。そこで,インダクタ同士を磁気的あるいは電気的に接続した結合インダクタとすることで,バランス電流による磁束を除去し,小型のインダクタで横流を抑制する手法が提案されています。中でもインダクタ同士を巻線で結合する手法は特別な磁性体コアを使用しないことから構成が容易です。その従来法として,各変換器の出力にcurrent transformer(CT)を接続し,CTの二次巻線を全て直列接続して短絡するというものがあります。この手法は各結合インダクタに発生する磁束を横流成分のみとすることができ,任意の並列数に対して同じ小型のインダクタを追加することで構成できるという利点がありますが,出力電流に直流成分を含むアプリケーションでは,コアに直流バイアス磁束が発生して磁気飽和するため適用できないという欠点があります。

そこで我々は,小型のコアを使用でき,モジュール化にも優れ,直流電流が流れるアプリケーションにも適用可能でUSPMと親和性が高い,結合インダクタ回路を提案しています。図2に提案する結合インダクタ回路の実機を示します。提案回路はUSPMの並列数が増加しても同じ結合インダクタを追加することで拡張でき,結合インダクタのサイズを最小化できます。さらに,提案回路に少数の部品を追加することで,提案回路に使用するDC-CT以上の周波数帯域を持つ電流センサとして機能することが可能です。


図2 結合インダクタ回路

USPMは内閣府科学技術・イノベーション推進事務局戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の研究プロジェクトの一部として,2018年度にスタートした大型研究プロジェクトです。同プロジェクトに共同で参加している研究グループが開発を行っているUSPM向けコントローラは日経エレクトロニクス及び日経クロステックに取り上げられるなど,非常に注目を浴びております。現在,この研究成果を実用化するために,内閣府の補助金を受けながら,企業と共同開発を推進しています。

プリント基板を用いた空芯プレーナインダクタの開発

電力変換器の小型化には,半導体スイッチのスイッチング周波数の高周波化に加えて低損失なインダクタが望まれています。高周波数では磁性コアの鉄損が課題となり,磁性コアを用いない空芯インダクタが適用されます。しかし,巻線に発生する高周波うず電流損が低損失化の壁となっています。そこで,我々はプリント基板を用いた空芯プレーナインダクタのうず電流を低減可能な新たな巻線構造を提案しています。

図3に提案してる撚線構造の空芯プレーナインダクタのモデル,図4にうず電流を低減するために撚線構造の空芯プレーナインダクタの巻線要素を2分割したモデルを示す。巻線は2層プリント基板で構成されています。提案構造では,インダクタの中心点に対して円対称に一定角度で巻線要素が配置されています。これにより,各巻線が発生する磁界が等しくなり,巻線要素が円対称に配置されていることから,全ての巻線要素に同じ磁束が鎖交します。この結果,全ての巻線要素のインピーダンスが等しく,図4に示すようにうず電流を低減するために巻線要素を分割しても分割巻線のインピーダンスも等しいです。したがって,分割した巻線の電流は均等であり,従来の螺旋構造において巻線分割をした場合と比べて交流抵抗が小さいという特長があります。


図3 提案する撚線構造の空芯プレーナインダクタ


図4 提案する撚線構造の空芯プレーナインダクタの巻線要素を2分割した場合

これまでに,提案構造の空芯プレーナインダクタの試作機を製作し,その性能を実験によって評価しています。(図5参照)


図5 試作した空芯プレーナインダクタ


【設備・機器紹介】

インピーダンスアナライザ,光アイソレーションプローブ,高周波アンプ,3Dプリンタ

120 MHzまでのインピーダンスが測定可能なKeysight製インピーダンスアナライザE4990Aを保有しています。半導体デバイスや受動部品の寄生パラメータを高精度で測定可能で,ノイズフィルタや高周波インダクタのパラメータ測定には必要不可欠な装置です。また,半導体デバイスのスイッチング波形を高精度に測定可能なTektronix製光アイソレーションプローブ(第1世代,第2世代)を複数台保有しており,高速なスイッチング波形を正確に測定できる環境があります。その他,エヌエフ回路設計ブロック製高速バイポーラ電源 HSA4101(DC~最高10 MHz出力)やRaise3D製3Dプリンタ N2(デュアル)を保有しており,高周波トランスの負荷試験や治具製作で活躍しています。


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