歴史的建造物でワインと美術、そして記憶が交差する特別展を開催中

北海道大学 北海道ワイン教育研究センターで、北海道立三岸好太郎美術館による「mima移動美術館2026 in 北海道大学『北海道大学創基150周年記念事業 好太郎と北大』」が開催されています。
北海道ワイン教育研究センターは、1901(明治34)年に建てられた「旧札幌農学校昆虫学及養蚕学教室」を保存改修し、2023年に開設された施設です。保存改修には工学研究院 建築都市部門 建築デザイン学研究室が携わりました。歴史的建造物としての価値を守りながら、現代の研究・交流拠点として新たな役割を担っています。
今回は、2000年に国の登録有形文化財となった歴史的建造物で美術作品を展示する試みについて、北海道ワイン教育研究センター長の曾根輝雄 教授と、保存改修に携わり、本展にも協力した建築デザイン学研究室の内藤誠人 助教にお話を伺うとともに、7月5日に開催された「日曜アート・トーク」も取材しました。

ワインが人・文化・地域をつなぐ
北海道ワイン教育研究センターでは、北海道のワイン産業の発展に向けた教育・研究活動に加え、「北大ワインテイスティング・ラボ」を通じて、市民や観光で訪れた人々にもワイン文化に親しんでもらう活動を行っています。
北海道ワイン教育研究センター長で農学研究院の曾根輝雄 教授は、「この展覧会をきっかけに、この場所でワインを楽しんでくださる方が増えることも期待しています。味や香りを楽しみながら美術作品を鑑賞できる場所は、なかなかありません。ここでしかできない新しい体験を味わっていただければと思います」と話します。
センターでは、日曜午後にトークイベントを定期的に開催し、ワインや食文化など幅広いテーマを取り上げています。今回の特別展に合わせて開催された「日曜アート・トーク」も、その取り組みの一つです。
曾根教授は、「ワインはいろいろなものとつながる可能性を持っています」と語ります。
「食との組み合わせはもちろん、美術や音楽など、さまざまな文化や体験とともにワインを味わうことで、新たな魅力や楽しみ方が生まれます。ワインが人と人をつなぎ、様々な分野を結びつけます。この建物もまた、人や文化をつなぐ役割を果たしていると思います」。
こうした体験を通して、「また訪れたい」、「ここで新しい催しを開いてみたい」と思う人が増え、この場所から新たな交流や文化が生まれていくことを期待しています。

大学の価値を未来へ受け継ぐ保存改修
一方、建築の視点からこの建物と向き合ってきた工学研究院 建築都市部門 建築デザイン学研究室の内藤誠人 助教は、歴史的建造物を活用する意義について次のように話します。
「1901年当時の建築技術を知ることができますし、そこから時代ごとの改修や価値観の変化も見えてきます。そのうえで、現代の技術によって耐震補強や断熱改修を行い、どのように未来へつないでいくかを研究し、実践することができました。学生にとっても貴重な教材となっています」
改修前、この建物は耐震基準などの問題から一般公開が難しい状態でした。しかし、改修によって再び多くの人が訪れる場所へと生まれ変わりました。
内藤助教は、改修後に訪れた卒業生との交流も印象に残っていると言います。
「『昔ここで授業を受けた』、『ずっと気になっていた』と話してくださる方がいました。この建物を使っていた人も、そうでない人も、それぞれに思い入れがあります。それはいまも建物が残っているからです。これこそ建物が持つ力であり、大学の大切な資産なのだと改めて感じました」。
さらに、内藤助教は、この建物が北海道ワイン教育研究センターとして活用されるようになったことで、本来この場所が持っていたつながりが再び生まれたことに大きな意味を感じています。
昆虫学教室の初代教授・松村松年博士は、この建物で研究を行い、隣接する石造りの収蔵庫に昆虫標本を保管していました。現在、その収蔵庫にはワインが保管されています。
「研究と収蔵という当時の関係が、いまはワインの研究と収蔵という形で再びつながっています。ワインセンターになって良かったと思う理由の一つです」
さらに今回の展覧会によって、松村松年博士と交流のあった画家・三岸好太郎との縁も改めて浮かび上がりました。
内藤助教は、本展覧会について「この場所で、やるべくして行われているように感じます」と話しました。

この場所で味わう美術体験
7月5日に開催された「日曜アート・トーク」には、定員20人を大きく上回る47人が参加し、会場は満席となりました。
トークでは、北海道立三岸好太郎美術館の井内佳津恵 学芸員と、文学研究院の今村信隆 教授が登壇し、画家・三岸好太郎と北海道大学との関わりや、この場所だからこそ生まれる美術鑑賞の魅力について語りました。


前半は、井内学芸員が「好太郎と北大の素敵な関係」と題して講演しました。
講演では、好太郎が北大周辺で育ち、キャンパスを遊び場として過ごしたことや、昆虫学教室の初代教授・松村松年博士との交流から、晩年の代表作「蝶と貝殻」シリーズにつながる着想を得たことが紹介されました。
また、今回の特別展開催にあたり、壁に穴を開けることができない登録有形文化財という制約の中、展示方法や照明、温湿度管理など、美術館とは異なる環境で作品を安全に展示するため、約1年をかけて準備を進めてきたことも紹介されました。
一方で井内学芸員は、美術館以外の場所で作品を展示したことで、「作品がより輝いて見える」体験をしたといいます。「好太郎と松村博士のつながりも、この建物で作品を見ることで、より実感できます 」と、この場所で展示する意義を語りました。
つづいて、文学研究院の今村教授が「おいしく楽しむ 芸術とミュージアム」と題し、芸術を「味わう」ことについて、哲学と美術史の視点から講演しました。
今村教授は、「味覚を『味わい』と言い換えると、絵の味わい、空間の味わい、短歌の味わいというように、五感全体で考えることができます 」と語り、芸術鑑賞は視覚だけでなく、五感を通して豊かに体験するものであると紹介しました。
さらに、近代のミュージアムは静かな鑑賞空間として発展してきた一方で、江戸時代には作品を眺めながら語り合い、お茶やお酒を楽しむ文化があったことを解説。「何かを排除することで特別な場所をつくるのではなく、魅力によって人が自然と集まってくるようなミュージアムがあっても良いのではないか」と、これからのミュージアムのあり方について語りました。
アート・トーク終了後には、多くの参加者がテイスティング・ラボでワインを楽しみながら、講演の感想や作品について語り合う姿が見られました。そこには、曾根教授が思い描く「ワインが人や文化をつなぐ場」が広がっていました。


過去・現在・未来がつながる場所
決して大規模な展覧会ではありません。しかし、この場所で作品と向き合うことで、三岸好太郎や松村松年博士、この建物で学び、研究を重ねた人々の物語が、時代を越えて自然とつながっていきます。
建築とワイン、美術、歴史が重なり合う北海道ワイン教育研究センターで、この場所だからこそ生まれる特別な時間を、ぜひ体感してみてください。そして、こうした体験が、様々な分野や社会とつながり、新たな価値を生み出す、工学の魅力にも触れるきっかけとなれば幸いです。
【工学研究院 広報コーディネーター 川本 真奈美】

mima移動美術館2026 in 北海道大学「北海道大学創基150周年記念事業 好太郎と北大」
会 期:2026年6月26日(金)– 2026年8月31日(月)
※プロモーションホールでの展示は7月20日まで会 場:北海道大学北海道ワイン教育研究センター
主 催:北海道立三岸好太郎美術館共 催:北海道大学北海道ワイン教育研究センター、北海道大学大学院文学研究院・大学院文学院・文学部協 力:北海道大学大学院工学研究院建築デザイン建築デザイン学研究室後 援:三岸好太郎美術館後援会
特別展関連事業 日曜アート・トーク
日 時:7月5日、19日、8月9日 各日曜日 午後2時~3時(約1時間)講 師:今村信隆 氏(北海道大学大学院文学研究院芸術学研究室教授)、井内佳津恵 氏(北海道立三岸好太郎美術館学芸員)会 場:北海道大学北海道ワイン教育研究センタープロモーションホール(定員20名、先着順)
関連リンク
特別展
https://artmuseum.pref.hokkaido.lg.jp/mkb/exhibition/program/361
日曜アート・トーク
https://artmuseum.pref.hokkaido.lg.jp/mkb/event/latest/355
