language
注意事項
当サイトの中国語、韓国語ページは、機械的な自動翻訳サービスを使用しています。
翻訳結果は自動翻訳を行う翻訳システムに依存します。場合によっては、不正確または意図しない翻訳となる可能性があります。
翻訳サービスを利用した結果について、一切を保証することはできません。
翻訳サービスを利用される場合は、自動翻訳が100%正確ではないことを理解の上で利用してください。

単電子トランジスタとその集積化技術の開発で世界をリード
ITとナノテクの融合でブレイクスルーを起こす

写真:博士(工学)福井 孝志

情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻・教授
量子集積エレクトロニクス研究センター長

工学博士福井 孝志

プロフィール

1975年、北海道大学大学院工学研究科応用物理学専攻修士課程修了。同年、日本電信電話公社(現・NTT)武蔵野電気通信研究所で半導体のレーザーの研究開発に従事する。83年、工学博士(北海道大学)の学位を取得。NTT基礎研究所のグループリーダーを務めた後、91年、北海道大学量子界面エレクトロニクス研究センターの教授に就任(01年、量子集積エレクトロニクス研究センターに改組)。現在は同センター長と情報科学研究科教授を兼任。91年にSSDM Paper Award 受賞。オランダのアイント・フォーフェン工科大学の客員教授も務めている。

ナノの領域へ到達したLSIの集積度

ここ数年「ナノテクノロジー」という言葉が一般にも広まり、とくにバイオ・医療分野での研究開発が脚光を浴びていますが、ITの分野でも活発な研究が進められていますね。

福井 1958年にジャック・キルビーが半導体集積回路を開発してから半世紀が過ぎ、その間集積回路は急速に微細化・高集積化を成し遂げてきました。現在では1センチ四方の中に1億個以上の回路素子が詰め込まれた大規模集積回路(LSI)も登場し、素子の大きさはミクロンからナノメートルの世界へ足を踏み入れています。半導体業界のロードマップでは2014年頃にゲート長11ナノメートルの中央演算装置(CPU)の実現が描かれていますが、ナノ領域での半導体デバイスの作製にはさまざまな課題が立ちはだかっているのが現状です。

そのひとつが製造工程の問題。現在一般的に使われている微細加工技術はトップダウン方式と呼ばれ、シリコンウエハにリソグラフィ技術で直接回路パターンを書き込むものですが、産業ペースで実現できる加工サイズは35ナノメートル程度が限界と言われています。

もうひとつは高集積化による消費電力の増加と発熱の問題です。通常の半導体デバイスではトランジスタ1個に数千個の電子が関わり、1億個近いトランジスタが搭載されているLSIでは当然消費電力が大きくなります。しかも、それが1センチ四方の中に集積されているとなると発熱量も膨大です。さらなる微細化を実現するためには、従来の集積回路とは異なる新しい動作原理のデバイスが必要になると考えられ、その担い手として期待されているのがナノテクノロジーなのです。

消費電力や発熱の問題は地球環境やエネルギー資源の問題にも関わってきますね。では、新しい動作原理のデバイスとはどのようなものが考えられるのですか。

写真:博士(工学)福井 孝志

福井 現在、国内外の研究機関で開発に取り組んでいるのが、LSIに供給する電流と電圧を減らす、つまりトランジスタの動作に関与する電子の数を少なくする技術です。なかでも、たった1個の電子でトランジスタのオン・オフを制御する「単電子トランジスタ」が注目され、これが実現すると消費電力が従来の1万分の1程度に低減できると予想されています。

電子1個でオン・オフを制御する究極のデジタルデバイス

写真:博士(工学)福井 孝志

福井 単電子トランジスタは、非常に小さな半導体の基盤上に直径10ナノメートルほどの導体島(ドット)をつくり、そこに電子を1個ずつ出し入れすることでオンとオフの状態をつくり出します。電子が入るとドットのポテンシャルが上がるため他の電子が入れなくなる「クーロンブロッケード現象」を利用した方法で、究極の省エネ型トランジスタとも言われています(解説1)。

単電子トランジスタの理論自体はすでに80年代末に提案されていましたが、室温で動作するにはドットのサイズを10ナノメートル程度に加工しなければならず、当時の技術では実現不可能とされていました。90年代に入り微細加工技術が発達したことによってさまざまなナノ構造の作製が可能になり、世界各国で単電子トランジスタの実現に取り組むようになったのです。

それでも、当初つくられた単電子トランジスタはたった1個しかなく、偶然の産物として実現した例もあり、回路素子として利用できるものではありませんでした。物理学的な理論を実証するだけでなく実用化への道を模索するためには、集積回路として使えるものをつくらなくてはなりません。私たちは複数の単電子トランジスタを集積し、論理回路として機能する単電子トランジスタの開発を目指しました。一般的な半導体デバイスのほとんどはシリコンでつくられているため、多くの研究者がシリコンを素材とした単電子トランジスタに取り組みましたが、私の研究室では「化合物半導体」というガリウムやインジウムなどの金属との化合物を素材としています。

先生はNTT研究所での半導体レーザーの開発をスタートに、30年以上にわたって化合物半導体の研究に取り組んでこられました。化合物半導体による単電子トランジスタにはどのような優位性があるのでしょうか。

福井 トランジスタを集積するには、トランジスタ同士の位置関係を精密に設計する必要があります。しかし、先ほどお話ししたように従来のトップダウン方式では数10ナノメートルという微細加工はできません。ここで活躍するのが、トップダウンとは逆に原料となる原子や分子の結晶を自己組織化的に成長させてナノ構造を組み上げる「ボトムアップ方式」です。

化合物半導体はボトムアップによる極微な回路ネットワークの形成に適しており、作製技術も成熟しています。私たちはトップダウンとボトムアップを組み合わせた「有機金属気相選択成長法(解説2>)」という技術を用い、ドットの直径や導線の線幅が数10ナノメートルで、しかもきちんと配置が設計されたナノ構造を実現しました。2003年の実験では4個の単電子トランジスタを集積したAND/NAND論理回路動作の確認に成功しています。さらに05年には3個のトランジスタで動作するAND/XORの1ビット加算機の作製にも成功しました。

これらの実験結果はアメリカ物理学会が発行する学術論文誌「APPLIED PHYSICS LETTERS」で紹介され、単電子トランジスタを集積した論理回路の電子顕微鏡写真が表紙を飾っていますね。(写真1)。まさに究極のデジタルデバイスを実現した世界的な研究実績だと思います。

APPLIED PHYSICS LETTERSの表紙
写真1/APPLIED PHYSICS LETTERSの表紙

21世紀のキーテクノロジーとして

単電子トランジスタの実現は、現在の情報技術に強いインパクトを与えるものだと思うのですが、実用化の可能性についてはどのように考えられているのでしょうか。

写真:博士(工学)福井 孝志 3

福井 現在使われているパソコンのCPUには1億個以上のトランジスタが集積されており、これを今すぐ単電子トランジスタに置き換えるというのは容易なことではありません。近年は、集積化に適したシリコン単電子トランジスタやカーボンナノチューブを素材とした単電子トランジスタの開発なども行われていますが、これらも今すぐ実用化に結びつくものではなく、今後の研究開発の進展が待たれています。

しかし、これらの研究の重要性はこれまで予測でしかなかったものを現実につくり出し、理論を実証することにあります。単電子トランジスタの実現は、トランジスタの動作に関わる電子を極限まで減らしていったとき、実際にどんな現象が起こるのかを探査しておくテストデバイスとしての役割を担っています。文部科学省でも情報処理・通信分野におけるナノデバイス・材料・システムの研究開発を重点目標に掲げ、この分野に大規模な研究予算を投じています。将来を見据えた萌芽的な研究として高く評価されているのです。

北大は、ナノテクノロジー分野ではすでに先端的な研究体制を築き、量子集積エレクトロニクス研究センター、ナノテクノロジー研究センター、触媒化学研究センターなどさまざまな施設が研究に取り組んでいます。その中で、情報科学研究科におけるナノテクノロジーはどのような展開を見せるのでしょうか。

福井 ナノテクノロジーの応用分野は幅広く、IT、バイオ・医療、環境・エネルギーなど多岐にわたります。情報科学研究科としてはITのハードウェアを担うという意味でのナノテクノロジーを指向していますが、総合大学としての強みを活かし、幅広い分野の研究者が有機的に連携することで、まったく新しい理論や技術が生まれる可能性もあります。ナノテクノロジーが21世紀のキーテクノロジーになることは間違いなく、現代社会が抱える諸問題を飛躍的に改善するようなブレイクスルーを起こすことが、私たち研究者の使命であると考えています。

解説

解説1:「単電子トランジスタの仕組み」

ソース電極とドレイン電極の間にトンネル障壁を挟んで直径10ナノメートル程度の導体島(ドット)を置く。ドットに電子が1個流入するとドットのポテンシャルが上がり、クーロンブロッケード現象によって他の電子が入れなくなる。ゲート電極に加える電圧によってドットの中の電子を制御し、これにより電流のオン・オフが決まる。4個の単電子トランジスタを使ったAND/NAND論理回路や、3個の単電子トランジスタを使ったAND/XORの1ビット加算器では、回路のアーキテクチャを従来の論理ゲートから単電子に適した「二分決定グラフ方式」に変えている。

解説2:「有機金属気相選択成長法」

化合物半導体の薄膜結晶成長法の一種で、原料としてガス状の有機金属化合物と水素化合物を用い、加熱した基板結晶上に水素をキャリアガスとした原料を送り、熱分解した原料ガスが薄膜となって成長する。本研究では、従来の半導体加工に使われる電子線リソグラフィとエッチングによって幅150ナノメートルの回路図を描き、その上にGaAs(ガリウムヒ素)の結晶を成長させた。結晶方位や温度などの条件を調整して結晶の成長方向を制御することにより結晶は山形に成長し、山の尾根にあたる部分は幅が数10ナノメートルにまで小さくなる。この構造に導線となる金属を蒸着することで単電子トランジスタを作製する(図1)。

図:有機金属気相選択成長法によるナノ構造の形成
図:有機金属気相選択成長法によるナノ構造の形成