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ナノフォトニクスが切り開く
次世代光ネットワーク技術の最先端

写真:工学博士 小柴 正則

情報科学研究科 メディアネットワーク専攻・教授

工学博士小柴 正則

プロフィール

1976年北海道大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程修了。同年から北見工業大学講師、77年から助教授を務め、79年北大助教授、87年同教授、2004年同大学院情報科学研究科副研究科長、2006年同研究科長に就任。現在、光ネットワーク、ナノフォトニクス、光・電波サイエンス、非線形光学、コンピュータシミュレーションなどに関する研究に従事するかたわら、電子情報通信学会理事、同学会エレクトロニクスソサイエティ会長、映像情報メディア学会副会長、IEEE LEOS Japan Chapter 委員長などを歴任。電子情報通信学会業績賞、同学会論文賞(3回)、同学会エレクトロニクスソサイエティ賞、IEEE東京支部学術活動功績賞などを受賞。電子情報通信学会フェロー、IEEEフェロー、OSA(アメリカ光学会)フェローなどに選出。

ユビキタス社会の先に見えてくるもの

最近は、一般家庭にもブロードバンドが普及し、「光」という言葉も定着しつつありますが、今、光ネットワーク技術の最先端では、どのような研究が行われているのでしょうか。

写真:工学博士 小柴 正則

小柴  光通信の研究開発は、もともと日本が先導的な役割を果たしてきたという経緯があり、産学官のいずれも世界トップクラスの技術力を持っています。北海道大学でも光分野の先端技術開発に取り組み、多くの成果をあげてきました。現在は、それらのシーズが情報科学研究科で情報系分野と融合し、通信、エレクトロニクス、ITを含めた総合的な見地から次世代光ネットワークの実現に向けた研究が進められているところです。

光ネットワークはユビキタス社会において不可欠な技術であり、一般家庭に光ファイバを普及させるFTTHサービスも急速に拡大しています。しかし、ここには大きな課題が立ちはだかっています。今後さらに光ネットワークが普及すると、ネット上に流通する情報量は膨大なものになり、いわゆる「ムーアの法則」を上回ってしまうと考えられているのです。現在使われている光ファイバは、波長分割多重方式(解説1)で1本当たりテラ伝送(1秒間に1兆個の光パルス伝送)を実現していますが、それはすでにファイバの能力を限界まで使い切っている状態です。また、スイッチングやルーティングといったネットワーク転送機能は電気信号により処理されており、いずれ、これらの電気的な信号処理が光信号の速さに追いつかなくなると予測されています。

その中で、次世代光ネットワーク高速化のキーテクノロジーの一つとして注目されているのがフォトニック結晶(解説2)を利用した新しい光技術です。フォトニック結晶自体は自然界にも存在するのですが、近年、ナノテクノロジーの進化に支えられ、ナノフォトニクス技術が急速に発展し、ナノサイズのフォトニック結晶が人工的に作れるようになりました。これにより、従来の光ファイバでは実現不可能な特性を持った全く新しい光ファイバや超小型光回路をはじめとするさまざまな光デバイスの実現が期待されています。

光の屈折率を制御するナノサイズの周期構造

写真:工学博士 小柴 正則

小柴 フォトニック結晶は、私たちの日常生活の中でも目にすることができます。例えば、蝶(写真1)の翅やオパールという宝石の、あのきれいな色は、いわゆるブラッグ反射によって、ある特定の波長の光が特定の方向に強く回折あるいは反射されることによって発現するものです。このように、特定の波長の光だけを反射・透過する周期構造を持つものをフォトニック結晶と呼びます。1次元的な周期構造のものはすでに実用化され、誘電体多層膜フィルタなどに利用されていますが、私たちが研究しているのは2次元、3次元の周期構造を持つフォトニック結晶で、これを利用すると、新しい光ファイバや光回路をつくることができます。中でも、フォトニック結晶ファイバは最も実用化が近い技術として研究開発が進んでいます。

蝶の写真
写真1

従来の光ファイバは直径約125マイクロメートル(1マイクロメートルは千分の一ミリメートル)のガラス繊維で、中心部に光を通すコアと呼ばれる部分があり、その周囲に屈折率の異なるクラッド層があります。フォトニック結晶ファイバも基本は同じですが、クラッド領域に複数の空孔が規則的に並んでいます。この空孔が光の波長に応じた周期構造になっていて、空孔の大きさや配列をうまく調整することで光の屈折率を制御することができます。フォトニック結晶ファイバには、コアがガラス製の全反射タイプと、コアが空洞になっているバンドギャップタイプの二種類があり(写真2)、従来のファイバにはない特性をいくつも持っています。

フォトニック結晶ファイバの写真
フォトニック結晶ファイバの写真

光の損失・分散を自在に操るフォトニック結晶ファイバ

具体的にどのような特性を持つのでしょうか。

小柴 最も大きな特徴は、光の損失を極めて小さくでき、また、高速伝送の妨げになる分散を自在にコントロールできるという点です。普通の光ファイバでは伝送できない波長の光を通すことができたり、曲げによる損失をほぼゼロに抑えることができます。バンドギャップタイプのものは、コアが空洞になっていますが、空気中では光の屈折率が小さくなります。光は屈折率の大きなところに閉じこめられる性質があるので、本来ならコア部に光は閉じこめられないはずですが、周囲のクラッド層がフォトニック結晶になっているため、ブラッグ反射の原理で光は外で出ることができません。しかも、地上で光の損失が最も小さいのは空気なので、コア部を通る光はほとんど損失することなく伝搬していきます。つまり、フォトニックバンドギャップファイバは、人類が手にするであろう究極の低損失伝送路になりうるということです。

フォトニック結晶ファイバは、従来の光ファイバに比べて、どのような利点があるのでしょうか。

図1/極低曲げ損失グラフ
図1/極低曲げ損失グラフ

小柴 まず一つは、クラッド層にある空孔のおかげで、曲げに強いという点です。従来の光ファイバは、曲げ半径が20ミリメートル以下になると曲げ損失が急激に増大します。そこで配線の際の曲げ半径の限度が30ミリメートル程度に設定されています。しかし、フォトニック結晶ファイバは曲げ損失が少なく、ほぼ直角に曲げることが可能です(図1/極低曲げ損失グラフ)。したがって、高密度配線や屋内での引き回し・配線が容易になります。

二つ目は、単一モードで伝送できる波長領域が従来型より、はるかに広いという点です。従来のファイバは、波長が1.3~1.7マイクロメートルの近赤外領域の目には見えない光を使用していますが、フォトニック結晶ファイバでは、可視光の領域である0.4マイクロメートルくらいまで利用することができます。利用できる帯域が広がれば、まさしく周波数資源の有効利用にもつながります。その他にも非線形性を柔軟に制御できる、高い偏波保持性を実現できるなどの利点があり、素性のよいガラスを素材としていることで、揺らぎのない精密な加工ができます。

こうした特性はフォトニック結晶光回路にも大きなメリットをもたらします。冒頭でもお話ししたように、現在使われている光ファイバは波長分割多重によって1本のファイバに波長の異なる光を多重化して伝送しています。しかし、多重数が多くなると、伝送の入口と出口で光を合分波している光合分波器のサイズが大きくなってしまうという問題があります。これを解決すると考えられているのがフォトニック結晶光回路です。フォトニック結晶を使えば、光の通り道を直角に曲げても光はそのまま損失することなく伝搬するので、従来の集積回路と同程度のサイズの光回路を構成することができます。これは将来の超高集積光回路のプラットフォームとして使えるのではないかと考えられています。

誕生から10年、社会に役立つ技術への展開を

次世代光ネットワークの主役として期待の高まるフォトニック結晶技術ですが、製品化・実用化の面では、どのような展開が予想されるのでしょうか。

小柴教授

小柴 フォトニック結晶のコンセプトが誕生してから約15年、最初のフォトニック結晶ファイバが誕生してから約10年になります。光通信技術は国の政策の一つでもあり、ナノフォトニクスの分野も産学官が率先して基礎研究を行ってきました。これからは実際に世の中に役立つ製品をつくり出す時期になってきていると思います。すでに、NTTでは全反射タイプであるホーリーファイバの実用化を進め、アクセス系でのサービス開始を目指した準備が進められています。私たちの研究室でも、フォトニック結晶ファイバの実用化を目指した研究フェーズへ移行しつつあります。ファイバだけでなく、フォトニック結晶光回路の開発にも取り組み、波長分割多重に耐えうる超小型光回路の研究開発を進めています。また、フォトニック結晶ファイバは通信以外の分野でも応用の可能性が広がっています。こうした応用分野の広がりも視野に入れつつ、社会に役立つ技術として結実させたいと考えています。

解説

解説1:「波長分割多重方式」

光ファイバを使った通信技術の一つで、WDM(Wavelength Division Multiplexing)ともいう。複数の光(波長の異なる光)を同時に伝送することで、1本のファイバに、より多くのデータを乗せることができる。合波器によって多重化した光信号を光ファイバに乗せて送信し、受信先の分波器で再び元の複数の光信号に分離する。現在、光の合分波には、主にAWG(Arrayed Waveguide Grating)、いわゆるアレイ導波路回折格子が用いられているが、波長多重数が増えると、デバイスのサイズも大きくなってしまう。フォトニック結晶光回路は、光の通り道を直角に曲げても光をその通り道に沿って無損失で伝送できるデバイスであり、波長多重の増加にも耐えうる新技術として注目されている。

解説2:「フォトニック結晶」

フォトニック結晶とは光の波長程度の周期構造をもつ結晶で、1次元、2次元、3次元の構造が存在する。原子核の周期ポテンシャルによって電子のエネルギー準位にバンドギャップが生じるのと同じように、フォトニック結晶中に電磁波のフォトニックバンドギャップが生じるため、点欠陥や線欠陥など、任意の欠陥部分をつくりこむことで、光の閉じこめ、急峻な曲げ・分岐などを容易に実現できる。ナノテクノロジーの発達によって、ナノメートルサイズの周期構造を人工的に作れるようになり、フォトニック結晶ファイバでは、直径125ミリメートル程度の断面中に数十から百を超える数の空孔を持つものが実現している。

図解:フォトニック結晶
図解:フォトニック結晶