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知識メディア技術を基盤としたく
パーペイシブ・コンピューティングの実現

写真:工学博士 田中 讓

情報科学研究科 コンピュータサイエンス専攻・教授 知識メディア・ラボラトリー長

工学博士田中 讓

プロフィール

1972年京都大学電気工学科卒業、74年同大学院電子工学専攻修士課程修了。工学博士(東京大学)。74年から北海道大学工学部助手、同講師、同助教授を経て、90年同教授に就任、現在に至る。96年より北海道大学知識メディアラボラトリー長。情報処理学会、日本ソフトウェア科学会、人工知能学会、米国IEEE各会員などを歴任。94年にIntelligentPadの開発に関して日経BP技術賞大賞受賞。2002年度採択「21世紀COEプログラム:知識メディアを基盤とする次世代ITの研究」の拠点リーダーを努める。

あらゆる情報知財が遍在するユビキタス知識環境

先生は1980年代から知識メディアについて研究されていますが、私たちを取り巻く情報社会は現在どのような段階にあるとお考えですか。

田中 さまざまな情報機器やメディアが普及し、ITを用いた情報の集積・加工・伝達のスピードと量はますます増大しています。Web上にはさまざまなデータやツール、マルチメディアコンテンツ、サービスなどが存在し、有線・無線で結ばれたネットワークを介して利用されています。ユビキタスとは「遍在する」という意味ですが、今後は情報機器やネットワークといったハードウェアだけでなく、そこで生成され流通するさまざまな「知識(ミーム)」(解説1)も社会に遍在するようになると考えられています。私たちはこのような環境を「ユビキタス知識環境」と呼んでいます。

しかし、そこには一つの問題が立ちはだかっています。Web上に存在する無数の情報・サービス・ツールの中から、私たちが必要とするものを適切に見つけ出し、自在に組み合わせ、新しい知識へ創成するための技術が確立されていないという点です。高度情報化社会と言われる現代ですが、実際は情報端末の機種やアプリケーションの種類・バージョンなどによって、利用できる範囲が限定されています。多種多様なミームが存在していても、それはすべて与えられたものでしかないのです。私たちの研究室では1980年代からこの課題に取り組み、Web上に存在するミームの自在な再編集・再流通を可能にする知識メディアの研究を行なってきました。

それが1987年に考案された「インテリジェントパッド(IP)」ですね。

(図1)インテリジェント・パッドの仕組み
(図1)インテリジェント・パッドの仕組み

田中 IPは、既存のデータやプログラムを紙(パッド)を切り貼りするように簡単に合成・編集し、アプリケーションやWebサービス、ブラウザ機能などをプログラムを書き換えることなく簡単に合成できるシステムです(図1)。IPを3次元に拡大したインテリジェントボックス(IB)では、3次元オブジェクトのボックスをパッドと同じように画面上で合成させ、プログラミング経験のない人でも3次元ソフトウェアが簡単に構築できます。

アメリカの株式情報を提供するサイトから企業名と株価を表示するウインドウを切り取り、別のサイトからは米ドルを日本円に換算する計算機能を切り取って、一つのパッドの上に並べると、企業名を入力するだけで、その企業の現在の株価を日本円で表示させることができる。

IBの特徴的なところは、データベースに蓄積されたデータをインタラクティブに可視化できる機能を持つことです。たとえば、ユネスコのサイトにある世界遺産の地図と、別のサイトから切り取ってきた各国の国民一人当たりのGDPの数値を合成し、3次元画像として描画することができます(図2)。また、Web上に公開されている複数のデータベースや関連情報サイトから、必要な情報を切り取り、その場でシステムを構築して可視化することも可能です。目で見たり、手で直接触れることのできない物理現象を仮想環境の中でインタラクティブにシミュレーションすることができるのです。こうした技術は、バイオインフォマティクス分野での活用が期待されています。さらに、合成パッド・合成ボックスをWeb上にプールし、インターネットを通じて自由に交換・売買できる「ピアッツァ」(解説2)も構築しています。

(図2)インテリジェント・ボックスによる3次元表現
(図2)インテリジェント・ボックスによる3次元表現

ユネスコのホームページに公開されている世界遺産に関する情報と、ローカルのデータベースにある国民一人当たりのGDPの数値を組み合わせ、一つのテーブル上で合成・可視化している。

知識と機能を自在に連携させるフェデレーションアーキテクチャの開発

IPやIBはすでに技術として確立されていますが、今後の展開としてはどのようなことが考えられますか。

田中 当初、IPやIBはミームメディアとして活用することを目的としていました。しかし、ユビキタス時代が目前となった現在、単なる再編集・再流通よりもっと高い次元での知識の「フェデレーション(連合体)」が求められるようになっています。フェデレーションとは、いま目の前にあるものをその場で組み合わせ、すぐに使えるようにすることです。情報だけでなく、遍在する情報機器のネットワーク構成が動的に変化するのです。IPやIBのアーキテクチャはこうしたニーズにも十分応えられます。例えば、私たちが開発したシステムでは、ユーザーがワイヤレスのLANカードを装着したパソコンを持って入室すると、室内のシステムが入室した人物を認識します。入室者がパソコンからピアッツァにアクセスすると、その場で利用可能なサービスが登録されているWebページに自動的に飛ぶようになっており、Webページの中からスライドショーのプロキシをコピーして開くとスライドショープレゼンテーションのサービスをパッドとして受け取ることができます。ユーザーはパッドにパソコンのデータをドラッグ&ドロップするだけでスライドショープレゼンテーションができるようになっているのです。

通常は、自分のパソコンを持ち込んでも会場に設置されているシステムとのコネクションが適合しなければ利用できませんが、IPを使えばその場でコネクションフリーの状況をつくり出せるのですね。

田中 私たちは、パソコン以外にもPDAや携帯電話、組込み型コンピュータ、サーバなどさまざまな情報機器を使っています。今後はスマートチップやスマートダストと呼ばれるような、センサー・処理機能・通信機能が一体化した超微小コンピュータも普及するでしょう。コンピュータが微小化されれば壁や床、机、書類などあらゆるものに埋め込んでネットワークを構築することができます。私は現在「21世紀COEプログラム」の「知識メディアを基盤とする次世代ITの研究」という拠点のリーダーを務めていますが、ここでは知識メディア、量子集積エレクトロニクス、知的通信の3分野が連携し、超微小コンピュータも含めたユビキタス知識環境の実現とフェデレーションを即時に形成するソフトウェア技術の研究開発を進めています。

田中教授

思考のための道具が人類を進化させる

繋ぐことを想定していなかったさまざまな知識やサービスをその場で簡単に連携させてしまうというのは、まさにユビキタスの時代のあるべき姿と言えますね。こうした研究開発の背景にはどのようなビジョンが描かれているのでしょうか。

田中 私が志向しているのは「考えたことがその場で実現できる世界」です。現在のコンピュータでは「これとこれを組み合わせて新しいことを実験してみたい」と思ってもすぐには実行できません。プログラムを改良したり、新しいアプリケーションを開発しなければならず、ある程度の時間と労力がかかってしまうからです。新しいソフトが完成するまでは、実験も思考も一時的にストップしてしまうのです。私たちは思考がストップする時間をできるだけ短くし、考えながらツールを作る、できたツールを使ってすぐに新しいことが試せる、そこからまた新しい仮説を立てていく、そんなことが可能になる環境を実現したいと考えています。

ユビキタス知識環境では、Webだけでなく家庭にある電化製品や道路・建物といった環境そのものにも多種多様なコンピュータが組み込まれ、常に何らかの形でサービスを提供している状況が出現します。そういう状況を「パーベイシブ・コンピューティング」といいます。私は、一般の人々も自在なフェデレーションを利用できるパーベイシブ・コンピューティングの実現を目指しています。

コンピュータの専門家ではない人々にも簡単に新しいソフトウェアやアプリケーションをつくり出せる。そんなことが可能になるとしたら、どんな社会になっていくのでしょうか。

田中 思いついた瞬間にそれが実現できる。あるいは考えるスピードと同じ早さで新しい環境をつくり出し、そこからまた次の発想が生まれてくる。これは、人類が今まで手にしたことのないまったく新しいツールと言えます。思考するための道具が進化し、人間の思考と同じスピードでアイディアを形にしていくことができれば、そこから生まれてくる情報知財もこれまでとはまったく違う新しい形態になってくるはずです。私自身も、IPやIBを使って仕事をするようになり、考え方や発想そのものが大きく変わってきました。新しい道具が人間の思考そのものを変えていくかもしれないのです。これはまさに、人類が「新しい進化の時代」を迎えたと言えるのではないでしょうか。

二つ目は、単一モードで伝送できる波長領域が従来型より、はるかに広いという点です。従来のファイバは、波長が1.3~1.7マイクロメートルの近赤外領域の目には見えない光を使用していますが、フォトニック結晶ファイバでは、可視光の領域である0.4マイクロメートルくらいまで利用することができます。利用できる帯域が広がれば、まさしく周波数資源の有効利用にもつながります。その他にも非線形性を柔軟に制御できる、高い偏波保持性を実現できるなどの利点があり、素性のよいガラスを素材としていることで、揺らぎのない精密な加工ができます。

こうした特性はフォトニック結晶光回路にも大きなメリットをもたらします。冒頭でもお話ししたように、現在使われている光ファイバは波長分割多重によって1本のファイバに波長の異なる光を多重化して伝送しています。しかし、多重数が多くなると、伝送の入口と出口で光を合分波している光合分波器のサイズが大きくなってしまうという問題があります。これを解決すると考えられているのがフォトニック結晶光回路です。フォトニック結晶を使えば、光の通り道を直角に曲げても光はそのまま損失することなく伝搬するので、従来の集積回路と同程度のサイズの光回路を構成することができます。これは将来の超高集積光回路のプラットフォームとして使えるのではないかと考えられています。

解説

解説1: 「ミーム(Meme)」

ミーム(Meme)は「文化遺伝子」」と訳され、人類が保有する知識や文化が、生物の遺伝子と同じように自己複製・自然淘汰・突然変異を起こしながら進化し、受け継がれていくものと捉えられている。コンピュータとメディアの進歩は多様なマルチメディア情報をエンドユーザーが自在に編集することを可能にしたが、近年はマルチメディア情報だけでなく、各種ツールや膨大な実験データなども再利用・再編集可能な形態で学際的かつ国際的に速やかに流通・交換されることが重要になってきている。田中教授の研究室ではWeb上に蓄積されているミームの再編集・再流通を容易にするミームメディアとミームマーケットのアーキテクチャを研究している。

解説2:「ピアッツァ」

パッドやボックスの交換・売買を行なうための場を提供するバザールや市場に相当するもの。市が立つ広場をインターネット上に構築できるようにし、個々の広場には誰もが自在にツールやドキュメントを出品できるようにする。ユーザーは目的に応じた広場へアクセスし、そこに出品されているオブジェクトをパッドの形式で自分の環境へ取り込み利用できる。田中教授の研究室ではこのような広場を「ピアッツァ」と名付け、そのアーキテクチャを研究開発した。