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自ら学習・進化するシステムで新たな工学分野を創出
実社会に役立つ応用展開に期待

写真:工学博士 古川 正志

情報科学研究科 複合情報学専攻・教授

工学博士古川 正志

プロフィール

1973年北海道大学大学院工学研究科修士課程修了、同年旭川工業高等専門学校助手、78年同教授に就任。76~77年米国コーネル大学工学部機械航空学NSF研究員、81~82年英国イーストアングリア大学計算機幾何学プロジェクト客員教授を務める。世界初の3次元CADシステムの開発、インテリジェントCADの研究、GAの産業応用システムの産学協同開発、自律分散型システムにおける学習型マルチエージェントシステムの研究、自己組織化問題の解法の研究、複雑システムの研究などに従事。2006年、北大情報科学研究科教授に就任。第1回工作機械技術振興協会論文賞(80年)をはじめ多数の論文賞・貢献賞などを受賞。日本機械学会、精密工学会、情報処理学会、計測自動制御学会などに所属。

複雑な世界に存在する法則とメカニズム
その解明と工学的アプローチを目指す

最近は「複雑系」という言葉がさまざまな場面で使われるようになりましたが、複雑系工学は私たちの生活にどのように関わっているのでしょうか。

古川 「私たちの暮らす世界は複雑である」と言えば、ほとんどの人が「その通りだ」と思うのではないでしょうか。現代社会はまさに混沌としており、これまでの考え方や方法論では解決できない問題が世界のあちこちで起きています。複雑系工学講座は、このような課題に自律系工学、調和系工学、表現系工学、混沌系工学の4つ視点からアプローチし、新しい科学と工学の確立を目指して設立されました。その中で自律系工学は、自然界や人工物のシステムが自らをコントロールし、学習・進化していくメカニズムを研究しています。あるシステムを構成する要素が、それぞれの環境下で周囲を認識し、判断し、自身の行動を決定し、実行する。その結果が他と相互関係を持ち、さらに自身に還元され、要素を含むシステム全体が新しいものへと創発・進化する。これは、自然界では当たり前に見られる現象ですが、じつは人工物の世界でも同じようなことが起きています。たとえばインターネットは人間がつくり出した人工物ですが、個々の構成要素(サイトやユーザ)は利己的・自律的に行動しつつ、ネットワーク全体を進化・発展させています。このように、複雑なシステムの中には自然の法則に似ているものがあるのです。その理論と方法論を解明し、それを利用することで、自ら学習・進化するコンピュータやロボットなどの開発に役立てようというのが自律系工学研究室のテーマです。

Webの世界をヒトの脳のようにとらえる
グローバル・スケール・ブレイン

自律系工学研究室ではどのような研究が進められているのですか。

古川 現在、3つの大きなプロジェクトが進行しています。まずひとつは複雑ネットワークの解析・応用の研究です。ネットワークはノード(点)とノード間を関連づけるリンクによって構成されます。複雑ネットワークとは数億~数十億単位のノードを持ち、個々の関係性や振る舞いも均一ではないネットワークを指します。たとえば、人間の脳にはノード(脳神経細胞)が140億以上あり、リンクの総組み合わせ数は109~10にもなります。さらに、Webの世界では500億以上のサイトやホームページがノードとして存在し、無数のリンクでつながっています。このように巨大で複雑なネットワークでは、すべての関係性を列挙してネットワークの性質を調べることは不可能です。そこで、統計的な方法が使われるようになり、スモールワールドやスケールフリー(解説1)のような理論が登場しました。

本プロジェクトでは、世界に広がるWebネットワークを地球規模の頭脳(グローバル・スケール・ブレイン)としてとらえ、グラフ理論、進化・学習型エージェント技術、自己組織化マップなどの方法論によって、ネットワークがどのような性質を持ち、どのようなインテリジェンスを生み出すかを解明しようとしています。なかでも、人間のビヘイビア(行動パターン)に着目し、ユーザのビヘイビアを学習するソフトウェアの開発で大きな成果をあげ、画期的なWebサービスを提供する大学発ベンチャーも誕生しました。

コンピュータ内の地球で進化する人工生命体「アニボット」

具体的にどのような研究成果がありますか。

古川 2つ目のプロジェクトは「アニボット(Anibot/Animation Robotの略)」です。私はもともと3次元CADやインテリジェントCADの研究に携わってきた経緯があり、そこに人工生命技術とエージェント技術、学習理論を組み合わせてアニボットという技術の開発を始めました。これは、コンピュータの中に現実の世界と同じ物理法則を持つ空間をつくり、そこに人工生命(ロボット)を置くと、それ自身が動き方を学習し進化していくものです(図1)(図2)。環境となる空間には重力や水・空気の抵抗などが再現され、センサ・アクチュエータ・意思決定機能などを持ったロボットが周囲の環境を認識しながら遺伝的アルゴリズム(GA)に従って学習・進化していきます。従来のアニメーションは、アニメーターが一つひとつの動きを決定し、絵に描いたりコンピュータにプログラムして描画していきますが、アニボットはキャラクター自身が自らの動き方を決定します。アニメーターは「ここから向こうへ歩いて移動する」というような指示を与えればよいだけなのです。将来的には、プログラムの技術を持たなくてもコンピュータの中の世界に好きなキャラクターを置いてやれば、それ自身が自律的に動いてストーリーを展開していくようなソフトウェアを開発したいと考えています。

(図1)アニボットの基本的な動き

>>MP4形式(463kB)

地球の物理法則に則った空間に、球対や立方体をある高さから落下させる。落下した物体は重力や材質の特性に応じて「転がる」「はねる」などの動きを物理法則に従って自動生成される。

(図2)キャラクターの進化

>>MP4形式(1.5MB)

図1と同じ物理法則を持つ空間にワニのような形態をしたモデルを置いてみる。最初は不規則に四肢を動かすだけだが、遺伝的アルゴリズムに従って学習を繰り返しながら次第に歩き方を覚えていく。このモデルでは、およそ100世代程度の進化で普通に歩けるようになる。

エンタテインメント分野だけでなく、さまざまな分野での応用が期待できますね。

古川 現在は、重力や水・空気の抵抗など地球の物理法則と同じ環境をベースにしていますが、環境の設定を変えれば多様な物理法則のもとでのシミュレーションも可能になると思います。この分野に携わっている学生たちも意欲的に研究を進めています。

写真:工学博士 古川 正志

10万~100万規模の組み合わせを計算する
世界最速レベルのハイパースケール最適化

学習機能や人工生命というとSFに出てくるようなロボットをイメージしますが、自律系工学は私たちの身近なところで使われている技術なのですね。

写真:工学博士 古川 正志

古川 3つ目のプロジェクトである「ハイパースケール最適化問題」などは、まさにそうです。最適化とは、ある条件の中で最も適したものをコンピュータを使って見つけることです。たとえば、10カ所の都市を最短経路で回るルートを探すようなものです。10カ所を結ぶルートの組み合わせ総数は30万通りあり、そのすべてを比較して最も効率のよいルートを見つけます。15年ほど前から研究を始め、GAを使って最適化する「GAスケジューラ」に基づく産学応用開発を行ってきました。物流システムの効率化に非常に役立つことから、メーカーの配送センターや運送業界などで実用化されています。今までは人間が自分の経験則からスケジューリングしていたものを、コンピュータが最適化理論に基づいて計算できるようになったのです。しかし、GAを使った最適化では限界があることも分かってきました。工場の仕事の大規模スケジュールや暗号作成など、10万~100万規模の組み合わせ最適化には対応しきれないのです。そこで、GAと自己組織化学習を組み合わせ,それらををさらに進化させたアルゴリズム「局所クラスタリング組織化法(LCO/Local Clustering Organization)」を開発しました(解説2/図3)。これにより計算時間が大幅に短縮されます。3万都市を回る巡回セールスマンを想定した最適化の例題があるのですが、他の方法に比べて飛躍的に早く、しかも高い精度で最適化できることが検証されています。LCOは物流のみならず多様な分野に適用できる汎用的な解法なので、今後さらに研究を重ね、より実用的なシステムとして拡張させていきたいと考えています。

解説

解説1:「スモールワールド」と「スケールフリー」

「スモールワールド」

ダンカン・ワッツとスティーブン・ストロガッツによって提唱された概念。ネットワークは、あるノードから他の任意のノードに到達するまで、少数の中継ノードを経由するだけでよいという性質を持っていることを指す。

「スケールフリー」

大多数のノードは少数しかリンクされず、少数のノードに膨大なリンクが集中するような状態をいう。アルバート=ラズロ・バルバシらのグループがWeb上のサイトのリンク数を調査したところ、多数のリンクを持つサイトと少数のリンクした持たないサイトの分布がベキ分布(ロングテールとも言う)になることが判明した。ベキ分布は自然界にも多く、Webネットワークは自然の法則に通じる特性を持つと考えられている。

解説2:(図3)「局所クラスタリング組織化法(LCO)」

LCOのアルゴリズムは、局所的改善の繰り返しにより大域的改善を実現するリカッチ型学習方程式に基づいている。図3は、LCOを使って4900個の点を回るルートの最適化を行っているところ。数十秒で計算が完了する。

局所クラスタリング組織化法(LCO)
(図3)「局所クラスタリング組織化法(LCO)」