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より広く、より多彩に広がるゲノムの世界
最先端の解析技術を駆使し進化の謎に迫る

写真:博士(理学) 小柳 香奈子

情報科学研究科 生命人間情報科学専攻・准教授

博士(理学)小柳 香奈子

プロフィール

京都大学大学院理学研究科博士課程修了、2001年より生物情報解析研究センターでヒト遺伝子の統合データベース構築に携わり、2002年にヒト遺伝子の統合データベース構築を目的とした国際共同研究プロジェクト(H-Invitational)に参画。ヒト完全長cDNAとゲノム配列の比較によるデータ整備などに従事。国内外の研究者とともに約4万件の完全長cDNAのアノテーションを行った。2003年奈良先端科学技術大学院大学助手を経て、2004年より北大情報科学研究科准教授に就任。現在の研究テーマは、ゲノムのコンピュータ解析によるヒトやウィルスの遺伝情報の進化過程の解明など。

技術革新により研究領域と応用範囲が飛躍的に拡大

現在のゲノム研究は主にどのようなことが行われているのでしょうか。

小柳 ゲノムとは生物の細胞の中に存在する全遺伝情報(DNA)のことで、ヒトゲノムは約30億個ものヌクレオチド(アデニン<A>、グアニン<G>、シトシン<C>、チミン<T>の4種類の塩基がある)からなり、その中に約22,000個の遺伝子が含まれています。2003年にヒトゲノムの塩基配列が完全に解読(塩基配列決定)されましたが、解読には十数年という時間と数千億円のコストを要し、世界各地の研究機関が共同で取り組んできた一大プロジェクトでした。その後、技術革新が急速に進み、今ではヒトゲノム塩基配列を決定するのに必要な時間は数日、コストは数十万円程度にまで短縮されています。

ゲノム塩基配列の決定が容易にできるようになったことで、ゲノムの研究領域や応用範囲が格段に広がりました。ヒトゲノムに含まれる遺伝子が、体内のどの場所でいつどんな機能を持っているかということも次第に明らかになっています。個人個人のゲノムを解読することもできるようになり、遺伝情報から病気のリスクや体質などを調べることも可能です。

しかし、ヒト全遺伝子の中で機能や役割が解明されているのは全体の半分程度で、まだ分かっていないこともたくさんあります。技術的に調べることができなかった、あるいは調べるのに膨大な時間やコストがかかっていたものが、短時間かつ低コストで解析できるようになったため研究のスピードが速まり、次々と新しいことが発見され、さらに新たな疑問や課題が浮かび上がってきます。ゲノムに関する知見は爆発的に増える一方なのです。

遺伝子の違いから進化の過程を推測

そのような状況の中、小柳先生の研究室ではどのような研究に取り組んでいるのですか。

写真:博士(理学) 小柳 香奈子

小柳 私が所属しているのは生命人間情報科学専攻のゲノム情報科学研究室で、「進化」という観点からゲノムをとらえ、ゲノムと表現型(病気や身体の特性など)の関連や生物多様性を理解することを目的としています。さらに、ゲノム研究に有用なツールの開発なども行っています。

「進化」の観点からゲノムをとらえるというのは、様々な生物のゲノムを比較し、類似性や違いがそれぞれの生物の進化にどのような影響をもたらしているかを解明することです。例えばある遺伝子についてヒトとチンパンジーで塩基配列の違っている箇所があるとすると、その違いはいつ頃発生したのか、それがヒトとチンパンジーの表現型にどのように影響しているのかを推測します。

また、同じ種類の生き物でも世代を重ねるごとに受け継がれる遺伝子が少しずつ変わっていきます。変わることにより環境の変化や生存競争の中で生き残る能力を高めてきたと考えられるので、過去と現代の生物の遺伝子を比較すれば、どの遺伝子が環境適応力の強化に役立っているかを発見することができるでしょう。このように生物の遺伝子を比較することで、進化の過程を解明する手がかりが得られるのです。ゲノムデータベース(解説1)などに登録されているゲノム情報を使って統計的に解析していきますが、まだ登録されていない遺伝子を比較する場合には、研究室内のシーケンサー(塩基配列の自動読み取り機)を使ってサンプルの塩基配列を決定することもあります。

「はやり目」の新型ウイルスの発見と分類

具体的にどのような研究成果がありますか。

小柳 最近のトピックスとしては、医学部と共同で行ったアデノウイルスの研究があげられます。アデノウイルスは肺炎や結膜炎など感染症の原因となるウイルスで、中でも暑い時期に流行する「はやり目(流行性角結膜炎)」を引き起こすタイプは感染力が強いのが特徴です。本研究で、日本で発見された新種のアデノウイルスと既存のアデノウイルスの全ゲノム塩基配列を比較したところ、新種では他のアデノウイルスと遺伝子組換えを多数行っていることが分かり(図1)、組換えの回数や場所が感染力の強さに関連があるのではないかと考え、より詳細な研究を進めています。

アデノウイルスの遺伝子組み換え
(図1)アデノウイルスの遺伝子組み換え

新型アデノウィルスのゲノム進化過程。他の型との間で組換えが起きたと考えられるゲノム領域を色づけして示した。円は他の型との組換えイベントを表す。

多様な専門分野へアクセスできる環境で次なるステップへ

今後はどのような研究テーマが考えらますか。

写真:博士(理学) 小柳 香奈子

小柳 例えば先ほどのアデノウイルスでいえば、全国の研究機関から年代別のサンプルを提供していただいて、1980年頃から現在までの遺伝子の変化を追跡するという研究を進めています。さらに海外のサンプルとの比較を行い、地域による違いなども解析してみたいと思っています。こういった研究を通じて、日本における強い感染力や発症の原因となるゲノム領域を特定できればと思っています。これはアデノウィルスの例ですが、このようにして、進化の観点からゲノムと表現型の関連を理解していきたいと思っています。

研究室ではヒトやイネのゲノム研究や深海底の新種探索プロジェクト(解説2/写真1)など、研究の分野も内容もバラエティ豊かです。様々な生物や生命現象を研究できるのがゲノム研究の魅力の一つだと思います。ゲノム研究は研究対象が多種多様ですが、情報科学研究科は工学のみでなく理学や農学などさまざまなバックグラウンドを持った先生方が集まっていますし、画像分析や統計処理などコンピュータを駆使した解析・分析手法も利用しやすいので、膨大なデータを扱う研究には最適な環境といえるでしょう。10年前にはできなかった研究が、今では技術的にも知見的にも実現可能になっています。

解説

解説1:ゲノムデータベース

インターネット上には世界各国の大学や研究機関で解析したゲノム情報のデータベースが多数存在しており、それらを効率良く利用できる統合データベースの構築も進んでいる。その中のひとつであるヒトの遺伝子と転写産物を対象とした統合データベース「ヒト遺伝子アノテーション統合データベース(H-InvDB)」では、ヒトのすべての転写産物の配列をあらゆる手法で解析することにより、ヒト遺伝子の構造をはじめとするさまざまな情報を精査し、遺伝子他に関する注釈付け(アノテーション情報)を提供している。

解説2:深海底の新種探索プロジェクト

水産学部との共同研究で、深海底の泥をロボットを使って採取し、泥の中から得られた様々な生物個体の遺伝情報解析を行うことで、新種探索を試みるプロジェクト。

深海底探索に用いられるROV(有索無人潜水艇)
(写真1)深海底探索に用いられているROV(有索無人潜水艇)