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新しい光の科学技術を目指して
ナノとバイオが産み出す量子ドットの可能性

写真:博士(工学) 村山 明宏

情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻 集積システム講座 集積プロセス学研究室・教授

博士(工学)村山 明宏

プロフィール

1985年東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻修士課程修了。旭硝子株式会社研究開発部にてエレクトロニクスナノ材料の研究に従事。1995年東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士課程(工学)修了。米国アリゾナ大学客員研究員、東北大学多元物質科学研究所准教授、経済産業省NEDOフォーカス21プログラムプロジェクトリーダーなどを経て、2008年から現職。2012年、北海道大学第1回研究総長賞を受賞。

電子の量子力学的な性質を光の科学技術に生かす量子ドットの研究

村山先生の研究室ではどのような研究を行っているのですか。

村山 私たちが当たり前のように使っているコンピュータやモバイル機器、家電製品などを支えるエレクトロニクスでは、電子の有無やそのスピン状態により情報を処理し保存しています。また、電子による電気信号を光の強度に変換し、光通信を使って世界中に伝えています。すなわち、コンピュータで処理されインターネットで伝達される情報のリアルな「実体」とは、電子回路を流れる電子であり、また光ファイバを伝わる光です。

私たちの研究室では、従来の技術や材料では達成できないような新しいエレクトロニクス素子の動作原理の探求を最終目的として、新しい材料とその作製プロセスの研究を行っています。研究上の特長は、電子の持つ量子力学的な性質を活用していくことにあります。ミクロな世界で電子が示すトンネル効果や磁石としての性質を示す源であるスピン状態といった量子力学的な性質を、実際のエレクトロニクス素子や光を利用するエレクトロニクス技術(フォトニクス)に生かしていくために、主として材料サイドからの基礎的な研究を行っています。

その究極のモデルが「一つの電子に情報を書き込み光で伝える技術」(図1)です。エレクトロニクスでは電子を使って回路を動かしたり光を発生させると言いましたが、このような電子は、皆さんが物理や化学で習う原子構造の中に存在している電子より大きく拡がっています。そこで、原子や分子を並べてナノ構造(1ナノメートルは原子10個ほどの大きさです。)を作ることによってはじめて閉じ込めることができます。川の流れ(電流)からごく少量の水(電子)を汲み出すためには、とても小さな容器(ナノ構造)を用意する必要があるとでも言いましょうか。このようにしてナノ構造に閉じ込めた1個の電子が情報や光を発生するための単位になれば、桁違いに少ないエネルギー(消費電力)で多くの情報を扱うことができるようになります。

ひとつの電子に情報を書き込み光で伝える技術
(図1)一つの電子に情報を書き込み光で伝える技術

さまざまな量子ドットを産み出すナノテクノロジー、バイオテクノロジー

電子を閉じ込めることができるナノ構造とはどのように作るのですか。

写真:博士(工学)村山 明宏

村山 近年、ナノテクノロジーの発展により、ナノメートルを単位として大きさが表されるような極めて小さな人工の構造体を作ることができるようになりました。この小さなナノ構造を使いますと、先ほど述べましたように、その中に電子を閉じ込めるとともに、自由に出し入れしたり、さらにこの電子から光を発生させることができます。
そして、このような小さなナノ構造では、電子の振る舞いに量子力学的な性質が強く現れてきます。この意味で、この小さなナノ構造のことを「量子ドット」(解説1/図2)と呼んでいます。量子ドットにはさまざまな材料や作り方があり、さらに大きさや配列の違いにより電子の振る舞いがいろいろと変わってきます。量子ドットは、電子の量子力学的な性質を調べるという物理学の観点から興味が持たれていますが、同時にごく少数の電子で動くエレクトロニクス素子の材料としても大変魅力があり、世界中でさかんに研究されています。例えば光エレクトロニクス技術への応用を考えますと、これまでにない画期的な性能のレーザー素子や高効率の太陽電池が実現できると大いに期待されています。私たちの研究室では、量子ドットの新しい作り方と光エレクトロニクス素子として利用するための基礎研究に取り組んでいます。

量子ドットはその直径が10ナノメートル程度という極めて小さなサイズです。10ナノメートルは原子の数で言いますとだいたい100個くらいに相当しますから、一つの量子ドットにはその3乗で最大100万個くらいの原子が含まれています。エレクトロニクスで利用する電子は、原子中の電子と違ってこの量子ドット中で拡がっていますから、100万個の原子の中に一つでも不純物が含まれますと原理的には素子としての働きに問題が生じる可能性があります。そのため不純物が全くない(と言えるくらいの)環境で作らなくてはなりません。そこで、私たちは、宇宙空間に近い超高真空状態を作り出しその中で半導体などの量子ドットを合成する「分子線エピタキシー装置」(解説2:写真1)を使っています。さらに、複数の分子線エピタキシー装置を連結し大気にさらすことなく超高真空下で試料を搬送できるような装置も導入しました。このような装置により、高純度の量子ドットを単に作製するだけではなく、極めて純度の高い他の材料とも積層することができます。また、実際に作製した量子ドットの光学特性についても詳しく調べています。例えば、半導体量子ドットと金属の磁性体を積層した新しい磁性ハイブリッド半導体量子ドットを研究しています。金属磁性体は磁石ですから電子のスピン状態が規則的に揃っています。そこで、このスピンの揃った電子を半導体量子ドットに注入できれば、電子のスピン状態という情報量を持った光を発生させることができます。作製した試料の光学特性に電子の持つスピン情報が実際に含まれているかどうかについては、ちょっと複雑ですが独自の測定システム(解説2:写真1)を構築して研究を進めています。この研究は、学術振興会科研費基盤研究(S)に採択されています。

また、バイオテクノロジーを利用して量子ドットを作製することも試みています。これは、科学技術振興機構CRESTの共同研究者として行っている研究です(解説3/図3)。球殻状タンパク質の内部空洞構造を設計し、この内部空洞を、量子ドットを作製するための鋳型(テンプレート)として利用します。バイオテクノロジーを用いることにより、分子構造すなわち原子1個のレベル(~0.1 nm)で大きさの揃った量子ドットを「自然に」かつ大量に合成できます。既に光学特性の優れた量子ドットの作製に成功しており、現在レーザー素子や太陽電池への応用を検討する段階まで進んでいます。この方法は今までの半導体微細加工技術にはない優れた特長を持っており、個人的にも非常に楽しく進めている研究です。

持続可能なエネルギー消費社会の実現をめざして

量子ドットを活用したエレクトロニクス研究ではどのようなことが期待されますか。

写真:博士(工学)村山 明宏

村山 情報を作り出し伝えるためには、多数の電子の流れである電流すなわち電気が必要です。エレクトロニクス機器にはたくさんの素子が使われており、それぞれが電気によって動いています。一つひとつの素子は小さく消費電力が少なくても、日本中ではものすごくたくさん使われていますから、日本全体での電力消費は莫大になります。持続可能なエネルギー消費社会を実現するという観点からは、エレクトロニクス素子の「消費電力を如何に少なくするか」が重要な社会的要請になっており、抜本的なブレイクスルーが強く求められています。これまでは、今までにない新しい機能性を発現させるという観点でさまざまな電子・光学材料や素子の研究がなされてきました。もちろん、このような努力は今後も必要です。しかし、これに加えて消費電力を大幅に減らすような、それも1割2割ではなく1/10や1/100も減らせるような抜本的な技術の研究が極めて重要になってきます。そのような目的からも量子ドットのようなナノ構造には大きな期待がかかっていると思います。

量子ドットに限らず、新しいナノ材料の研究は、物理学や化学、材料・物質科学にとどまらず、バイオ工学や生物学など様々な学問分野にまたがる可能性を持った拡がりを持っています。また、光との関わりで言いますと、様々なレーザー素子や高効率の太陽電池の実現など重要な研究課題がたくさんある分野ですので、ぜひとも多くの学生や研究者の皆さんに取り組んでほしいと思います。

解説

解説1:量子ドット

一般的には数ナノメートル程度という極めて小さなサイズで、電子の持つ量子力学的な性質が強く現れる人工的な材料。非常に少ない数の電子を用いて電気信号や光信号を作り出したり、逆に受け取ることができる。量子ドットを用いることで、電子や光のミクロな世界での振る舞いを調べることができる。エレクトロニクス分野では、今までにない新しい機能を持つデバイス材料として、あるいは消費電力の大幅な削減効果が期待されており、半導体量子ドットを活用したレーザーの研究は実用化の段階にまで進んできている。

(図2)量子ドットのモデル
(図2)量子ドットのモデル

解説2:実験装置

分子線エピタキシー装置(左写真)

宇宙空間に近い真空を作り出し、極めて不純物の少ない条件で半導体や金属磁性体などのエレクトロニクス材料を合成することができる比較的大型の実験装置。

光学特性の測定システム(右写真)

量子ドットの光学特性(発光や光吸収)に含まれている様々な電子の情報(電子の状態やエネルギー、スピン状態)を総合的に評価する独自の測定システム。電子の状態は刻一刻と変化するため、フェムト秒~ピコ秒領域の時間特性をリアルタイムで測定することができる。ちなみに1ピコ秒の間に光は0.3mmしか進むことができない。

実験装置
(写真1)実験装置

解説3:バイオテクノロジーを利用して作製する量子ドット

球殻状タンパク質分子をバイオテクノロジーにより大量に複製し、内部空洞に金属イオンを吸着させる。このタンパク質の外側には、お互いには反発し基板表面にはしっかりと吸着する分子鎖を持たせている。この分子鎖の性質によりタンパク質は、最も高密度になるように一層だけ吸着する。タンパク質を除去すると、内部の金属ナノ粒子をテンプレートとして活用できる。この上から薄膜を除去する処理を行うと、金属ナノ粒子で隠された薄膜部分が残り円盤状量子ドットの二次元配列が作製できる。タンパク質の大きさは分子構造で「自然に」決まっているため大きな可能性を持っている。(JST-CREST「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」寒川チーム)

図3バイオテクノロジーを利用して作製する量子ドット
(図3)バイオテクノロジーを利用して作製する量子ドット