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コヒーレントX線が解明する未知の領域
最先端施設を活用し画期的な研究に取り組む

写真:博士(理学) 西野 吉則

情報科学研究科 生命人間情報科学専攻・教授

博士(理学)西野 吉則

プロフィール

1991年、東京理科大学理学部物理学科卒業。1996年、大阪大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程後期修了。博士(理学)。高輝度光科学研究センター、ドイツ電子シンクロトロン研究所 ハンブルク放射光研究所、理化学研究所 播磨研究所 放射光科学総合研究センターを経て、2010年から北海道大学電子科学研究所教授に着任。専門は放射光・自由電子レーザーなどのコヒーレントX線を用いた新しい計測技術の開発及び生物学などへの応用研究。

ナノメートルの領域を詳細に映し出す新しい顕微鏡

コヒーレントX線とはどのようなものですか。

西野 コヒーレントというのは、物事がばらばらに起こるのではなく、結びつきをもって調和している状態のことです。コヒーレントな光の典型例はレーザーです。レーザーでは、波(電磁波)の位相(山や谷の位置)がきれいにそろって調和しています。X線も光の一種ですが、コヒーレントなX線を発生させるのは非常に難しく、世界で初めてX線レーザーを発生させることに成功したのは2009年のことです。

X線は0.1ナノメートル程の波長を持ち、普通の光学顕微鏡では見ることができない200ナノメートル以下の構造も観察できます。また、X線は透過性に優れているため、電子顕微鏡では難しい厚い試料の内部の観察にも適しています。ところが、X線は透過性が高すぎて、細胞などのマイクロメートルサイズの試料はほとんど素通りしてしまいます。

この領域の可視化を実現する画期的な技術として期待されているのがコヒーレントX線です。コヒーレントX線を利用した顕微鏡はマイクロメートルを超える細胞や結晶化できない試料の内部構造を高分解能で観察することができ、これまで見えなかった世界に光をともす技術として世界的な注目を集めています。(解説1

染色体に関する定説をくつがえす新事実の発見

コヒーレントX線はどのように使われているのですか。

写真:博士(理学)西野 吉則

西野 まず、コヒーレントX線を作るには大型の施設が必要で、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8(http://www.spring8.or.jp/ja/)やX線自由電子レーザー施設SACLA(http://xfel.riken.jp/)などを使って実験を行っています。これらは、コヒーレントX線を使うことができる、世界でも数少ない最先端の研究施設です。

2012年に私たちが発表した染色体に関する研究成果では、これまで定説とされていたことが覆されるほどの大きな発見がありました。従来、染色体はDNAが規則正しいらせん状の階層構造を形成すると考えられており、分子細胞生物学の教科書にもそう書かれています。しかし、今回SPring-8を用いた実験で染色体の内部構造を詳しく解析することができ、じつは染色体はかなり「いい加減な」状態で収納されていることがわかりました(解説2)。

また、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いた、複雑系生体分子の構造可視化法の構築を目指した研究では、XFELがフェムト秒(1フェムト秒は1000兆分の1秒)の発光時間を持ち、さらにコヒーレントであることを活用したパルス状コヒーレントX線溶液散乱法の研究に取り組んでいます。XFELの発光時間であるフェムト秒は、溶液中で分子が動くよりも短い時間スケールです。XFELの超高速フラッシュで試料を照らすことにより、これまでは反応前と反応後しか観察できなかったものも、反応中の様子のスナップ写真を撮影することができるようになります。(解説3

私たちの研究室ではさらに、X線レーザーを使いやすいように加工する光学素子や、測定装置・デバイスなどの開発も行っています。イメージング(可視化)するための試料、光学素子、デバイスなどの開発には、ナノメールレベルの加工・観察が不可欠で、北海道大学のオープンファシリティ(解説4)を利用しています。

さまざまな分野で謎の解明に活躍するコヒーレントX線

コヒーレントX線は今後どのような分野で利用が期待されていますか。

写真:博士(理学)西野 吉則

西野 自然界にある無数の原子・分子は、同種のものであれば、どれも同じ構造を持っています。例えば、遺伝情報を担うDNAは、誰のものであっても同じ分子構造を持っています。このように同じ分子の部品を使うことにより、遺伝情報が世代を超え忠実に受け継がれるのです。これに対して、マイクロメートルよりも大きなもの、例えば細胞には一つ一つ個性があり、これが自然の多様性を生んでいます。個性のない原子・分子が組み合わさることにより、どのようにして個性が生まれるのか、その謎を解く鍵を握っているのがコヒーレントX線だと考えています。

今までは、電子顕微鏡を使ってもX線顕微鏡を使っても、生きている状態の生物試料を高分解能で観察することはできませんでした。しかし、前述のパルス状コヒーレントX線溶液散乱法を使うと生きている生物試料の像をとらえることが可能になります(X線を当てると試料は破壊されるが、その直前の状態をとらえることができる)。細胞の内部構造を、丸ごと、結晶化させずに観察することができれば、生物学の研究に新しい発見をもたらすことになるでしょう。さらに、エネルギー問題や環境問題、地球や宇宙の謎を解明するなど、さまざまな分野に貢献できると期待しています。

本研究室では、学内外の多くの研究者と専門分野を超えてコラボレーションし、世界に誇れる先端的な施設を最大限に活用しながら、こうした新しい領域に挑んでいきたいと考えています。コヒーレントX線はまだ生まれたばかりの研究分野ですので、若い研究者の皆さんにもぜひ取り組んでほしいと思います。

解説

解説1:コヒーレントX線を利用した顕微鏡(X線回折顕微法)

レンズの代わりにコンピュータを使い、X線の波(電磁波)の位相(山や谷の位置)の変化を見ることで試料の内部構造を立体的に映し出す。試料にコヒーレントX線を照射すると、分子や細胞内部の物質に当たり、X線が散乱する。その散乱パターンを測定し、コンピュータで解析することで、物質の内部構造を明らかにする。

X線回折顕微法の概念図と、測定によって得られたヒト染色体の輪切り像
(写真1)X線回折顕微法の概念図と、測定によって得られたヒト染色体の輪切り像

解説2:定説をくつがえす染色体構造の解明

DNAは直径2ナノメートルの細い糸で、ヒストンと呼ばれる糸巻きに巻かれて、直径約11ナノメートルのヌクレオソーム線維を作ります。現在広く受け入れられている定説では、ヌクレオソーム線維がらせん状に規則正しく折り畳まれて直径約30ナノメートルのクロマチン線維ができ、さらにクロマチン線維がらせん状に規則正しく巻かれて階層構造を形成するとされてきた。今回、研究グループは、直径約30ナノメートルのクロマチン線維の証拠の一つとされてきたX線散乱に現れるピークが、染色体の本体ではなく、染色体の表面に付着したリボソームによることを突き止めた。さらに、独自に開発した超小角X線散乱装置を用いることで、従来は測定が難しかった1マイクロメートルほどの大きさをもつ染色体の全ての長さスケールにわたるX線散乱測定が可能になった。この結果、定説から予想される約100ナノメートルや約200〜250ナノメートルなどの線維の存在を示す散乱ピークは観察されなかった。今回の一連の結果は、定説のモデルにあるクロマチン線維も、クロマチン線維がさらに規則正しく束ねられた高次の構造も存在しないことを示している。

ヌクレオソーム線維
(図1)ヌクレオソーム線維(赤い線)が染色体の中に不規則に収納されている。染色体には、コンデンシン(青色)やトポイソメラーゼIIという蛋白質が軸のように存在する。
「著書のページ」
(図2)(A)染色体に対して、SPring-8のBL29XUで超小角X線散乱測定を行った。染色体直径に相当する1マイクロメートルまでの範囲を調べたところ、定説で予想される、約100ナノメートル、約200-250ナノメートルの散乱ピークは観察されなかった(B)。

解説3:X線自由電子レーザー(XFEL)を用いた複雑系生体分子の構造可視化法

図はパルス状コヒーレントX線溶液散乱法の模式図。特別に開発した環境セル(試料ホルダ)に金のナノ粒子集合体やバクテリアなどの生物試料を封入して、X線自由電子レーザー施設SACLAを用いて、パルス状コヒーレントX線溶液散乱測定を行った。測定の結果、試料が破壊される前の状態からのコヒーレントX線回折パターンをXFELのシングルショットで計測することに成功。環境セルや溶液からのバックグラウンド散乱の影響は観察されず、開発した環境セルが高精度のパルス状コヒーレントX線溶液散乱測定に適していることが示された。

パルス状コヒーレントX線溶液散乱法の模式図
(図3)パルス状コヒーレントX線溶液散乱法の模式図

解説4:北大オープンファシリティ

北海道大学が保有する高度な研究設備を、学内外の研究者も利用できるシステム。本研究では、レーザー描画装置/プラズマCVD装置/反応性イオンエッチング装置/電界放射型走査型電子顕微鏡/顕微ラマンマイクロスコープシステム/カラー3Dレーザー顕微鏡/走査型プローブ顕微鏡などを利用している。

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