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妖精のようにやさしく見守るコンピュータ
安全で快適な暮らしを実現する近未来のIT社会を目指して

写真:博士(工学)工藤 峰一

情報科学研究科 コンピュータサイエンス専攻 
数理計算科学講座 情報認識学研究室・教授

博士(工学)工藤 峰一

プロフィール

1983年、北海道大学機械工学第二学科卒業。1988年、同大学大学院工学研究科情報工学専攻博士後期課程修了(工学博士)、同年助手(工学部情報工学科)、1994年助教授に就任。1996年4月〜12月、アメリカ・カリフォルニア大学アーバイン校客員助教授。2001年に教授に就任。2005年4月~2006年3月同大学大学院情報科学研究科副研究科長。専門分野はパタ−ン認識および計算論的学習理論に関する研究。応用として画像処理、音声認識、文字認識、データマイニングなどにも取り組んでいる。

文字・画像・音声など幅広い分野で活用されるパターン認識

先生の研究テーマであるパターン認識とはどのようなものですか。

工藤 私たち人間は、当たり前のように人の顔を見分けたり、「似ている、似ていない」などの判断・分類をすることができます。これをコンピュータで行うための基礎技術がパターン認識で、郵便番号の自動読み取りにはじまり、銀行などで見かける指紋・静脈の認証、デジタルカメラの顔認識機能、スマートフォンの音声認識など幅広い分野に応用されています。しかし、これらは私たちが日常的に行っている認識のごく一部でしかなく、人間の能力にはとうてい及ばないレベルです。それぞれの分野で精度向上を目指す技術開発が盛んに行われていますが、私たちの研究室では幅広い分野で活用する場合の土台となる部分や、識別のためのルールをコンピュータが自動的に獲得する機械学習の研究開発などを行っています。

ユーザに負担をかけず必要なレベルで認証を行うソフト認証

具体的にはどのような研究内容なのでしょうか。

写真:博士(工学)工藤 峰一

工藤 今注目しているのは個人の認証、つまり「この人は誰か?」という問題です。個人を特定する方法はいくつかあり、暗証番号やパスワード、IDカード、最近では指紋や静脈、光彩などのバイオメトリクス認証(生体認証)などが普及しています。バイオメトリクス認証は高精度ではありますが万能ではなく、一度登録すると変更が利かないため情報の扱いには厳重な注意が必要です。

また、認証の目的によっても扱い方が異なってきます。バイオメトリクス認証はセキュリティの確保が目的なので個人を厳密に特定しますが、家庭内や施設内に限定したサービス用であれば、それほど厳密な認証は必要ありません。例えば、家の中でテレビに座っている人を特定し、その人の好みに合った番組を勧めるなどパーソナライズされたサービスを提供する場合です。家庭以外にも図書館などの公共施設、介護やデイサービス施設など、場所や場面、必要度に応じて多様な認証方法を使い分けることが必要になってくると考えられます。

では、パスワードやIDカード、バイオメトリクス認証以外で、個人を特定するための材料として使えるものは何か? 私たちが着目したのは、日常生活の中で知らず知らずのうちにやってしまう仕草や行動、癖などです。しかも、カメラを使わずにセンサーを使って確実に個人を特定する手法を研究しています。そのひとつが、天井に取り付けた赤外線センサーで人の移動を感知・追跡する技術の開発です(解説1)。研究室に出入りする学生を対象にした実験では、2〜3人の学生が4〜5時間室内にいる状態で、ほぼ正確に一人ひとりを追跡・特定できました。

もうひとつは、圧力センサーによる認証(解説2)です。椅子に圧力センサーを取り付け、座る人のクセを読み取ることで認証を行います。座り方には意外と個性が出るもので、被験者がリラックスした状態であれば98%の精度で認証できることがわかりました。座り方の特徴を捉えることで個人認証する技術はおそらく世界初だと思います。

私たちがこだわったのは「カメラを使わない」という点です。防犯カメラなどは得られる情報も多く個人の特定も比較的容易です。しかし、家庭内にまでカメラを持ち込むとユーザに不快感を与える可能性があり、プライバシーの侵害やデータ漏洩などの懸念も生じます。センサーのデータであればその場にいる人間を特定するには十分に機能し、万が一外部に漏れても悪用される危険度は低いので安心です。バイオメトリクス認証のような精度の高いハードな認証に対し、ユーザのプライバシーを尊重しつつ個人を認証する方法として、これらを「ソフト認証」と呼んでいます。

見えないところからやさしく見守る妖精ITの時代へ

なぜセンサーを採用したのでしょうか。

写真:博士(工学)工藤 峰一

工藤 「わずらわしいことは避けたい」という思いがあったからです。独居老人の「見守り」などにITを活用する試みはいろいろありますが、デジタル機器に不慣れなお年寄りに特殊な装置を携帯・装着させたり、操作やルールを覚えさせるのは相当な負担です。ソフト認証なら、普段の生活そのままの状態でADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)を記録し、家族や介護サービス会社へ情報を送るといったことが可能になります。室内でのつまずきや転倒を検知すれば事故を未然に防ぐこともできると考え、転倒検出の研究なども進めています。

スマートフォンがユーザと会話し、ロボットが掃除をする現代、あらゆるものにコンピュータが搭載され日々進化し続けています。これからの時代は、コンピュータが生活の場には見えない状態になるでしょう。いちいちパスワードを入力したり、機器を操作する必要がなく、コンピュータの存在すら意識せずに情報やサービスを受けられるようになるのが、これからの情報社会のあり方ではないでしょうか。そんなイメージを表すものとして「妖精IT」(解説3)という概念を提案しています。

妖精ITは、「普段は隠れていて見えないが、常に見守っていて、必要があれば助けてくれる」というのがコンセプト。コンピュータサイエンスでは、高度な情報処理技術を極めるだけでなく、いかに私たちの生活に役立つ道具としてコンピュータを活用できるかを追求することも目的としています。それも、人間が機械に依存するのではなく、技術の方が我々の生活に歩み寄ってくることが理想です。コンピュータもセンサーも視界から消え去って、自然と一体化するようなIT環境を作り出す。それが、今の私のテーマです。

解説

解説1:赤外線センサーを用いたユーザ追跡システム

天井に設置された複数の赤外線センサーネットワークによりユーザの行動を感知・追跡するシステム。出入口の指静脈センサーで個人を特定し、入室後は赤外線センサーで移動を追跡する。複数のユーザが一箇所に集まったり、すれ違ったりした場合の証拠の復活など、改善すべき課題はあるが、2〜3人が4〜5時間利用する程度であればほぼ正確に認証・追跡できる。カメラによる監視ではないのでユーザへの心理的負担が少なく、情報漏洩のリスクも少ない。

写真1:赤外線センサーを用いたユーザ追跡システム
写真1:赤外線センサーを用いたユーザ追跡システム

解説2:圧力センサーを用いたユーザ認証システム

体重や座り方の違いを、椅子に付けた複数の圧力センサーでとらえユーザの認証を行う。前のめりに座ったり、後ろに寄りかかるなど、その人ならではのクセを読み取り個人認証の手かがりに利用する。10人程度なら98%の精度で認証が可能。監視されているという不安な気持ちにさせず、自然な振舞いからユーザを認識する方法として注目されている。

写真2:圧力センサーを用いたユーザ認証システム
写真2:圧力センサーを用いたユーザ認証システム

解説3:妖精ITのイメージ図

妖精ITは、天井赤外線センサーや椅子センサーなどで個人を認証し、行動や状態からユーザの求めているものを読み取り、必要に応じた情報やサービスをさりげなく提供するシステム。「環境知能」とも呼ばれているが、本研究室ではカメラを使わず、できるだけ少ない装置で認証・解析できるようなアプリケーションの開発を目指している。

図1:妖精ITのイメージ図
図1:妖精ITのイメージ図