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体内の分子を可視化するイメージング技術
世界最速の装置でキラルな分子を追跡

写真:博士(工学) 平田 拓

情報科学研究科 生命人間情報科学専攻 
生体システム工学講座 生体物理工学研究室・教授

博士(工学)平田 拓

プロフィール

1993年東京工業大学大学院総合理工学研究科電子システム専攻博士後期課程修了(博士(工学))、同年山形大学工学部助手、1996年山形大学工学部助教授、2007年山形大学大学院理工学研究科教授を経て、2008年10月から北海道大学大学院情報科学研究科教授。この間、1999年4月〜2000年3月米国ダートマス大学研究員。専門分野は、電子常磁性共鳴分光とイメージングに関する研究、計測工学。現在、内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラムの助成を受けて磁気共鳴分子イメージングの研究を展開している。

従来の10倍の早さで体内の分子を可視化

先生の研究室で行われている「磁気共鳴分子イメージング」とはどういう仕組みですか。

平田 簡単に言うと、体の中の分子を見えるようにするものです。生体内の構造を調べる技術としてよく知られているのは病院などで使われるMRIで、体内の水素の原子核を可視化する核磁気共鳴イメージングという技術を利用しています。私たちが手がけているのは水素原子ではなく不対電子(分子や原子の最外殻軌道に位置する対になっていない電子)を検出する方法で、電子常磁性共鳴または電子スピン共鳴(ESR)と呼ばれる技術です。

ESRイメージングは、電磁石の中にサンプルを入れて、サンプル内の電子が電磁波を吸収する様子を観測することで、標的にしている分子の位置や動きを画像化します。近年の研究ではESRイメージングの解像度向上や計測時間の短縮などに取り組み、従来の約10倍の早さで計測することを可能にしました(解説1)。これは世界最速のレベルです。

映像だけでなく音についても関心を持っています。目と耳は人間の知覚の双璧で、多くのメディアが映像と音を同時に発信しています。映像のみならず、音についても新しい技術や手法を創り出すことができれば、メディアの使い方を大きく変えられるのではないかと考えています。

また、磁場の強さ(=電磁波の周波数)を変えるとそれに呼応する電子が変わるため、磁場の強さを短時間で変えることにより、異なる種類の不対電子を持つ分子をほぼ同時に計測することができます。マウスを使った実験では、2種類の分子に振る舞いが異なる2つの電子を目印として付け、マウスの脳に入る分子と入らない分子の分布を同時に観察しました(解説2)。

さらに私たちはこの技術を利用して「キラリティー磁気共鳴分子イメージング」の研究に取り組んでいます。

キラルな分子を同時に観測。謎の解明の手がかりに

キラリティー磁気共鳴分子イメージングとはどのようなものですか。

写真:博士(工学) 平田 拓

平田 薬などを合成しようとするとき、つながっている原子は同じでも立体的に見ると鏡に映したように反転している分子が同時にできることがあります。これをキラルな分子(解説3)と呼び、この特徴をキラリティーと言います。見た目はそっくりですが、片方は薬としての効き目があっても、もう片方は効き目がないなど特性に違いがあるので、この2つの分子を体内で見分け、ふるまいの違いを観察することは創薬や医療の分野で重要な課題となっています。

キラリティー磁気共鳴分子イメージングは、世界最速のイメージング技術と電子に目印をつけ分子を区別する技術を融合させ、キラルな分子双方を「同時に」に観察できる非常に画期的な技術になると期待しています。実際に、試験管の中にあるキラルな分子を高速で観察し、分布の違いを測定することに成功しています。

体内に薬として効く分子と効かない分子が同時に存在する場合、それを同時に見分ける方法として有効なものはほとんどありませんでした。効く・効かないの区別はできても、互いに影響し合っているのか、あるいは片方だけ存在する場合と両方存在する場合で効き目に違いがあるのかといったこともよく分かっていません。キラルな分子のふるまいを同時に観察できるということは、そうした謎を解き明かす手がかりになると考えられます。

また、薬の中には短時間で消えてしまうものもあり、数秒間というわずかな時間で測定できるイメージング技術は、薬が消えていくプロセスを解明することにも役立つでしょう。

分野の枠を超えて医薬・医療の分野に貢献

今後、キラリティー磁気共鳴分子イメージングはどのような分野に応用されるのでしょうか。

写真:博士(工学) 平田 拓

平田 キラリティー磁気共鳴分子イメージングの研究は「日本学術振興会 最先端・次世代研究開発支援プログラム(通称NEXT)」に採択されており、2014年3月までの予定で研究が継続されます。次のステップとしては、生きたマウスの体内でのキラルな分子の観察・測定を実現したいと考えています。

私はもともと電気や通信が専門で、キラリティー磁気共鳴分子イメージングも工学的な面からアプローチしていました。しかし、前述のようにキラルな分子のふるまいを解明することは創薬や医療の分野での貢献度が高いと考えられますので、さまざまな分野の専門家と協力し、人々の健康に役立つ技術開発に取り組んでいきたいと思っています。

解説

解説1イメージング法の高速化の研究

科学技術振興機構 先端計測分析技術・機器開発事業(要素技術プログラム)、「高速電子常磁性共鳴イメージング法の開発」(研究代表者:平田拓、2008/10~2012/3)

生体物理工学研究室ホームページ「電子常磁性共鳴スペクトロスコピー&イメージング」

解説2:生きた動物の中で動く分子を追跡

マウスの頭部で目印をつけた分子の分布を、電磁波を使って測定。脳に入る分子は脳の形に広がり、脳に入らない分子は脳を避けて広がっているのが分かる。

生きた動物の中で動く分子を追跡
生きた動物の中で動く分子を追跡

解説3:キラルな分子

人間の右手と左手のように、構成要素や並び方は同じでも、鏡に映したように反転している状態を鏡像異性体といい、そのような特徴をキラリティーという。キラルな分子は、密度や温度に対する性質、伝導率など物理的な特徴は同じだが、薬としての効果が異なる場合がある。

キラルな分子
キラルな分子