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マクロスケールからミクロスケールまでを対象に
環境と人間に寄与するデジタルエンジニアリング技術の開発

写真:博士(工学)金井 理

情報科学研究科 システム情報科学専攻 
システム創成情報学講座 システム情報設計学研究室・教授

博士(工学)金井 理

プロフィール

1982年、北海道大学 工学部 精密工学科卒。1984年、同大工学研究科 精密工学専攻修了。以後、同大工学部 精密工学科助手、東京工業大学機械工学科助教授を経て、2007年同大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻教授に就任。研究テーマは大規模環境3次元レーザ計測、CAD、デジタルエンジニアリング、形状モデリングなど。IEEE、精密工学会、日本機械学会、日本設計工学会、地理情報システム学会 所属。

早急な対応が求められる社会インフラの老朽化
施設の維持管理に役立つ大規模環境の3次元計測

大規模環境の3次元計測とはどのようなものですか。

金井 システム情報設計学研究室では、長年3次元CADの研究、主にリバースエンジニアリング(製品・部品を3次元で計測しコンピュータ上に3Dモデルを生成する技術)を扱っています。この技術は自動車や電化製品など工業製品の設計や評価に使われることが多かったのですが、近年は土木建築の分野でも活用されるようになってきました。土木建築分野で求められているのは、中・長距離レーザ計測で得られる地表面や市街地、屋内環境の表面を離散的に計測した大規模点群データから、特定の種類の物体を自動で認識する技術です(解説1)。ここに私たちの研究内容が応用できると考え、3年ほど前から本格的に取り組んでいます。

大規模環境の3D計測が注目されている背景には、高速道路やトンネル、橋といった社会インフラの老朽化問題があります。2012年に起きたトンネルの天井落下事故が示すように、日本の高度成長期に建設された社会インフラの多くは急速に老朽化が進んでいます。また、化学工場などの大型プラントも同様で、老朽化に起因する事故が最近増加しています。今後、いかにして安全性を担保しつつ、計画的な維持管理と改修によって施設の長寿命化を図るかが社会的に大きな課題となっています。社会インフラやプラントの計画的な維持管理・改修のためには、今後、施設の現況を反映した(as-built)な3次元モデルを構築し、施設管理や改修履歴情報をモデルの属性として付加して長期管理することが不可欠となります。こうした社会的ニーズに応えるのが大規模環境の3D計測とモデリング技術であり、私たちの取り組んできたリバースエンジニアリングの技術がその問題解決に役立つと期待されています。

このような大規模環境の3次元モデリング技術は土木建築だけでなくさまざまな分野で研究されていますが、これまで色々な学会がそれぞれ独自の視点で研究を行っており、相互の連携は十分とは言えませんでした。社会インフラの老朽化への対応は急務であり、優れた技術を速やかに実用化することが求められるため、我々が中心となり精密工学会内に専門委員会を2年前に新たに設置し、土木情報、建築情報、ロボティクス、画像処理、写真計測などの研究者、また建設、土木、プラント、測量、レーザ計測機、ソフトベンダーなどの企業技術者と産学連携を現在進めています。

億単位の膨大な計測点群から形状の特徴を抽出・分類・認識する技術の開発

具体的にはどのような研究が行われているのですか。

写真:博士(工学)金井 理

金井 レーザスキャナで得た情報を施設管理や改修履歴のデータとして活用するためには、解決しなければならない課題がいくつかあります。そのひとつが、1億点を優に超える膨大な計測点群から自動的に3次元モデルを生成するための形状処理技術の開発です。単なる点の集まりでしかないものを、壁や柱、パイプ、ドア、窓といった個々の物体として認識し、それらの空間的な関係性を特定する必要があるのです。現状ではこれらの作業を人間の手で行うことが多く、計測点群から3Dを書き起こすのに1〜2カ月、大型プラントなどでは半年かかる場合もあります。私たちの研究室では、このプロセスを自動で高精度に行うための形状特徴抽出と物体認識の技術を開発しています(解説2)。

工業製品のリバースエンジニアリングと大きく異なるのは、形状特徴抽出で求められた部分点群領域に対しラベル付けを行う点です。例えば、道路の両脇に立っているものの形状を抽出するだけでなく、それらを「電柱」「街灯」「標識」「ポスト」「ガードレール」などに分類する必要があるのです。これらの物体は寸法や形状にバリエーションが多く、高精度で認識するのが難しい部分でもあります。私たちは、個々の形状の特徴を属性として持たせ、さらに電柱の立っている間隔などの配置のルールを導入することで、より高い認識精度を実現しました。また化学プラントの計測点群では、配管系統のもつ形状や接続性の特徴に合わせた認識アルゴリズムを開発し、こちらも極めて高い認識精度を達成しています。また、同じ場所を何度か計測すると、GPSのドリフトの影響などでズレや誤差が生じることがあります。これについても私たちが開発したアルゴリズムで自動的に補正できるようにしました。

こうした研究開発の結果、プラントの配管に特化したもので90%以上、市街地の柱状物体(電柱、街灯、標識)の自動抽出と分類において92%以上の認識率を達成しました。これは、世界的に見ても高精度な結果であり,その成果に対し精密工学会より論文賞を頂いております。しかし、実用レベルで利用するために,企業側は100%に近い認識率を求めていますので,今後も精度を高めていくことが必要です。社会インフラの老朽化問題も切迫していますし、GIS関連企業やプラントの設備メーカーなどからは今すぐにでも使いたいという要望もあるので、それらの企業と共同研究しながら5年後をめどに実用化を目指しています。

レーザスキャンから生成された環境の中で人間にとってのアクセシビリティを評価

今後はどのような研究を進めていく計画ですか。

写真:博士(工学)金井 理

金井 大規模環境は、構造物や設備があるだけのものではなく、実際にはその中で人間が動き生活しているものです。人間にとってその環境が使いやすいか、支障なく利用できるかどうかを検証することにも私たちの技術が利用できるのではなかいと考えています。例えば、建物の中の階段の位置やステップの高さ、障害物の有無などが人間の歩行にどのように影響するかをシミュレーションするものです。現在研究を進めているのは、レーザスキャンから生成した環境の中に「デジタルヒューマン」という人間のモデルを投入して実際に歩行させ、例えば建物自体の使いやすさをデジタルヒューマンに評価させようという手法です(解説3)。現在は標準的な人間モデルでシミュレーションを行っていますが、将来的には高齢者や障害を持った方などのモデルも導入し、建物環境に潜む人間に対するリスクを推定し、よりよい実環境の構築に役立てたいと思っています。

解説

解説1:大規模環境の3D計測

地上設置型、航空機搭載型、車載型などの3次元のレーザスキャナで100m〜1kmの長距離・広範囲をスキャンし、1分間に1億個ほどの計測点群を構成。これらは単なる点の集まりなので、施設・設備管理のための3Dデータとして活用するには、形状を抽出し、個々の物体を分類・認識することが必要になる。

図:大規模環境の3D計測
図:大規模環境の3D計測

解説2:形状特徴抽出と物体認識

形状特徴抽出では平面・円筒面といった比較的単純な形状を扱う。ただし、工業製品のリバースエンジニアリングとは異なり、①点群の数が数億と膨大、②メッシュを作ることが難しい、③点の密度が均一ではない、④ノイズが多い、⑤オクルージョン(手前の物体にレーザがブロックされ陰の部分が測れないこと)などの点から、ノイズ除去などの前処理が必要になる。本研究では、独自のアルゴリズムを開発し、プラントの配管系統との自動認識で90%以上、市街地の柱状物体(電柱、街灯、標識)の自動抽出と分類で96.2%の認識率を得た。

図:形状特徴抽出と物体認識
図:形状特徴抽出と物体認識

解説3:計測点群上での人間行動シミュレーション

大規模実環境のレーザ計測点群上に人間モデルを使った自律歩行シミュレーションにより、環境の「歩きやすさ」「転倒リスク」等を評価可能

図:計測点群上での人間行動シミュレーション
図:計測点群上での人間行動シミュレーション
動画:工学部 歩行シミュレーション
動画:情報科学研究科 歩行シミュレーション