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医療に貢献する工学技術で世界をリード
診断・治療の高度化を可能にする光と超音波

写真:博士(工学)工藤 信樹

情報科学研究科 生命人間情報科学専攻 
バイオエンジニアリング講座 人間情報工学研究室

准教授・工学博士工藤 信樹

プロフィール

1982年、北海道大学工学部電子工学科卒。1987年、同大学院生体工学専攻修了。1987年、(株)東芝医用機器技術研究所。1995年、北海道大学工学部助手。以後、大学院工学研究科、同情報科学研究科を経て、2009年、情報科学研究科准教授に就任。研究分野は医用システム、医用生体工学。日本超音波医学会、日本生体医工学会、IEEE、電子情報通信学会、日本音響学会などに所属。


写真:博士(工学)加藤 祐次

助教・博士(工学) 加藤 祐次

プロフィール

1989年、東北大学工学部通信工学科卒。1994年、同大学院工学研究科電気及通信工学専攻修了。1994年、同工学部助手。1995年より北海道大学工学部助手。2007年より同大学院情報科学研究科助教。研究分野は医用生体工学、応用光学など。日本生体医工学会、レーザー学会、電子情報通信学会、応用物理学会所属。

医療・医用分野で期待の高まる光と超音波の応用技術

人間情報工学研究室ではどのような研究をおこなっているのですか。

博士(工学)加藤 助教

工藤 生命人間情報学専攻ではゲノムや細胞・分子などバイオロジーの基礎から、医療で活用できる工学まで非常に幅広い分野を扱っていますが、私たちの研究室では一番出口に近いところ、研究成果を医学のために活かし、患者さんに役立つ技術の開発を担っています。

病院で使われている機器には診断に使われるものと治療に使われるものがあり、日本の医療機器産業の中でもCTやMRIといった診断分野では世界をリードする高い技術を持っています。近年は診断から治療へのシフトが起こっており、さらに診断と治療を融合した技術や機器の開発・高度化にも力を注いでいます。

加藤 その中でも当研究室で主に扱っているのは光と超音波です。光の医療への応用は比較的早いのですが、情報産業で光が使われるようになったことで光技術そのものが急速に進歩し、新しい光技術を医療に応用する研究開発も盛んに進められてきています。

工藤 超音波を使った診断技術も歴史が古く、1970〜1980年代から超音波診断装置が広く使われ、技術も成熟しています。私たちが取り組んでいるのは、それらの技術をもとにさらに高度な診断技術の開発と治療への応用です。

光を利用して生体内部を透視・再構成するイメージング技術の開発

光を応用した医用技術にはどのようなものがありますか。

博士(工学)加藤 助教

加藤 私たちが研究しているのは光を使った診断技術です。まず一つが「光透視」。例えば手を見る場合、可視光では表面だけしか見えません。X線を使うと中の骨などを見ることができますが、放射線被ばくなど人体への影響があります。本研究室が着目しているのは近赤外光(波長700〜1200nm)と呼ばれる光で、生体透過性が比較的高く、X線より安全で、MRIなどに比べて比較的簡易な装置で構成できる点が特長です。うまく活用すれば、体内臓器や生体機能の計測を可能にする新しい診断技術に使えると期待されています。 本研究室では、生きたラットの脳を近赤外光で透視し、刺激に対する反応を観察することに成功しています(図a)。人間の腕を透視する実験では、67ミリ(成人の肘ぐらい)の厚さまでは見えることが確認できました(図b)。

近赤外光の波長を変えるといろいろな情報が見えてくることも特徴的です。スペクトルの違いによって動脈と静脈の違いを判別したりすることができます(図c)。さらに、可視光と近赤外光を左右の目で同時に見る装置を作り、手の位置感覚をつかみながら内部の血管を観察することが両目でできるようなシステムも考案しました(動画d)。

二つ目は「光CT」です。X線CTはすでに普及していますが、それと同じように光で断層撮影する技術です。しかし、光はX線のように直進せず生体に吸収または散乱される性質があります。イメージとしては、牛乳のような白濁した溶液中にナイフを入れてもその形状をはっきり捉えることができないという状態です。これを解決するため私たちは光の伝搬や散乱の特性を解析し、断層像を再構成するアルゴリズムを独自に開発。このアルゴリズムを用いたソフトウェアで光透視3次元イメージング技術を開発しました(解説1)。

表層の部分的な断層像を撮影する技術の開発も行っています。ピコ秒からフェムト秒という短いパルス光を照射し、検出される際の時間差を測定して内部の構造をイメージングするものです(解説2)。

生体内部からの光を検知してイメージングする「蛍光イメージング」も研究しています。蛍光薬剤を体内に入れ、見たい箇所を3次元イメージングできるようにする技術です。これも私たちが独自に開発したアルゴリズムを応用しています(図e)。

今後はこれらの技術の精度をさらに上げ、医用的な用途に応じて発展させていきたいと考えています。光を使った診断や計測は、比較的簡易な装置で行うことができ、体への負担も軽減できます。このような技術は日常的な健康管理に役立つのではないかと期待されるので、実用化を目指した研究開発を進めていく予定です。

微小気泡とパルス超音波によるソノポレーションの撮影に成功

超音波の分野ではどのような研究が行われていますか。

写真:博士(工学)工藤 教授

工藤 微小気泡と超音波を用いた細胞治療の技術です。微小気泡とは直径1〜2ミクロン程度の小さな気泡で、毛細血管も通ることができます。特殊な加工をすることで生体内に入っても30分〜1時間ぐらいは安定して存在し、超音波を強く反射・散乱するため超音波診断の造影剤として使われています。こうした微小気泡の利用が可能になったことも大きなブレイクスルーなのですが、私たちはさらに微小気泡を治療に活用する技術の開発に取り組んでいます。

細胞に超音波を照射すると細胞膜に小さな穴が開き、通常は入らない薬や遺伝子が細胞内に入り込みます。この現象をソノポレーションと呼び、抗がん剤のドラッグデリバリシステム(薬を必要な組織にのみ作用させる技術)や、細胞への遺伝子導入などの応用が期待されています。しかし、ソノポレーションを起こすには強い超音波を連続的に照射しなければならず、生体にダメージを与えてしまいます。このため、繰り返し使用することが難しく、より負担の少ない手法の実現が求められていました。

私たちは、細胞のそばに微小気泡を置くと短いパルス超音波でもソノポレーションが起きることを世界に先駆けて発見し(解説3)、これを用いた安全なin vivo(生体内)ソノポレーションを提案しました。さらに、高速度カメラを使ってソノポレーションの様子を撮影することに成功。数マイクロ秒という短い時間に気泡が膨張・収縮し、細胞に作用を与える様子を実際に見ることができました(解説4)。

気泡にパルス超音波を照射することで細胞膜に穴ができることは確認されたものの、薬や遺伝子がどのようなメカニズムで細胞内に取り込まれるのかはまだ解明されていません。気泡に蛍光試料を付けた実験では、蛍光試料が必ずしも取り込まれるわけではないことが確認されています。気泡の動きや細胞膜との関係を解明し、細胞内に確実に薬や遺伝子を到達させる方法については今後も研究を続けていく必要があります。

将来的には、がん治療への応用を目指しています。がん細胞は他の細胞に比べ血管の内皮細胞の結合が粗く、サブミクロン程度の大きさの気泡が血管の隙間からがん組織内へ入り込むことが知られています。これを利用して、治療薬をがんに集積させる手法の開発を他大学との共同研究で進めています。また、がん細胞の表面の特徴的なタンパクと結合する気泡をつくり、がん細胞だけを狙うターゲティング気泡の研究も行っています。 これらの技術が実用化できれば、10回程度の通院でがん治療ができるようになり、患者の負担もかなり軽減されると考えられます。今後は生体細胞での観察や蛍光観察などを行い、より確実な技術の確立を目指しています。

生物学や薬学などとのコラボレーションで新たな道を拓く

医用技術の研究や開発にはどのような魅力がありますか。

工藤 産業界の発展を見てみると、医療機器のような高度な装置を開発する研究活動が技術の高度化をリードし、他の電子産業を牽引してきました。そこで実現された技術がコンシューマ向けの電子機器に応用され、市場に応じたパフォーマンスやコストで展開されていきます。医用機器の技術開発は今でもがわが国の電子産業の最先端を走り続けているパワフルな分野であり、医学のみならず幅広い分野と連携する面白い研究ができます。最先端の電子情報技術に興味があり、同時に多様な分野へも関心を広げていきたいと考えている学生さんにとっては非常に魅力ある研究分野だと思います。

解説

図a:近赤外光透視イメージングによる実験動物の脳活動の観察

図a

図b:近赤外光透視によるヒト前腕部の血管イメージング

図b

図c:多波長光源によるヒト前腕部血管の動静脈判定(図右)

図c

動画d:近赤外光(左)と可視光(右)による同時血管観察装置を用いた模擬血管からの採血の様子

図e:散乱体内棒状蛍光体3次元イメージング例(左:観察像をそのまま再構成した結果、右:開発した手法による再構成結果)

図c

解説1:散乱抑制法と3次元イメージング

散乱抑制法を応用・発展させた光透視三次元イメージング技術を開発。マウス程度の小動物腹部の臓器の3次元イメージングは、そのままでは3次元化が不可能であるが(図左)、この技術により光吸収が大きい臓器である腎臓や肝臓などの3次元イメージングが可能となる(図右)。

図1

解説2:局所光断層イメージング

人体等の大きな対象に対する完全な光断層撮影はまだ多くの課題がある。そのため、本研究室では、生体組織の深さ数センチ以上分解能1ミリ以内を目標とした局所光断層撮影技術の開発を行っている。数ピコ秒以下の光パルスを入射し、数百ピコ秒から数ナノ秒の後方散乱光を検出し時間分解解析と開発した再構成アルゴリズムにより、生体模擬試料内部の局所断層撮影に成功している。

図2

解説3:微小気泡とパルス超音波を用いたソノポレーション

顕微鏡で捉えたソノポレーションの様子。直径0.1mm程度の細胞に、直径1ミクロン程度の気泡が2個付着している。パルス超音波を照射すると,気泡があった位置に細胞膜穿孔を生じるが、気泡のない部位には全く損傷がおきない。特定の細胞にのみ付着する機能を持つ気泡を使うと、がん細胞などの治療の対象とする細胞のみに薬物を導入できる可能性がある。

解説4:ソノポレーションの実際

1秒間に400万コマ撮影できる高速度カメラで捉えたソノポレーションの様子。気泡の膨張・収縮によって生じる周囲液体の流れが細胞に機械的作用を与えると考えられる。ソノポレーションにより細胞膜に穿孔ができる現象についてはおおまかな予測はできていたが、実際の様子を明らかにした重要な結果である。