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気球を使った災害に強い情報配信システムと
救助・復興を支援する「がれき工学」の創成

写真:博士(工学)小野里 雅彦

情報科学研究科 システム情報科学専攻 
システム創成学講座 システム環境情報学研究室・教授

博士(工学)小野里 雅彦

プロフィール

1983年、東京大学工学部精密機械工学科卒業。1985年、同大学院工学系研究科精密機械工学専攻修士課程修了。1985年より同工学部助手、1993年に博士(工学・東京大学)。1994年、大阪大学工学部電子制御機械工学科助教授。1997年、同大学院工学研究科電子制御機械工学専攻助教授。2003年、北海道大学 学院工学研究科システム情報工学専攻教授。2004年より同大学院情報科学研究科システム情報科学専攻教授。

物理世界と仮想世界をつなぐ新しい知識活動支援の枠組み

システム環境情報学とはどのような学問ですか。

小野里 「環境」というと自然環境やエコロジーなどを思い浮かべるのではないかと思いますが、当研究室が扱う環境とは、私たちを取り巻く物理的な世界とコンピュータを中心とした仮想的な世界を指し、この2つを結びつけることで新しい生活の仕方や仕事の仕組みを作る、あるいは活動するための場を作ることが主な方向性です。

近年特に大きな変化を見せているのがサイバーフィールドです。これまでコンピュータ上に構築する仮想フィールドは、人間が実フィールドを観察・認識し、そこから得た情報を人間の手で入力することにより仮想モデルを構築していました。実フィールドに変化が起きた場合も人間が修正を加えなければ仮想フィールドに反映させることができません。しかし、最近は実フィールドに設置された各種のセンサやクラウドなどから直接に実データを得ることができ、実フィールドで起きている変化を時々刻々と自動的に仮想フィールドに反映させることが可能になっています。逆に、仮想フィールド内のモデルを変えることで実フィールドでの振る舞い(交通信号の点滅の間隔、工場の機械の動き方など)を操作することもできるようになりました。 そこでの人間は、実と仮想のフィールドをつなぐ主体的な存在ではなく、双方の接点で実フィールドを観測したり、仮想フィールドを利用したりするユーザの立場にシフトしつつあります。人間と機械の関与の仕方はここ数年急激に変化しており、その勢いは産業革命並みといえます。

写真:博士(工学)小野里 雅彦

このような大きなトレンドの中で、科学技術の進展にともない知のフロンティアは急速に拡大して開拓されています。それで「明日の世界は今日の世界より広い」と素朴に考えがちですが、現実には技術の発展から抜け落ちたり取り残されたりしている領域があり、そこに深刻な問題が存在している場合があります。そのひとつが災害時における被災地への情報伝達システムです。

現代版火の見櫓を実現する災害用係留型情報気球「InfoBalloon」

被災地への情報伝達システムとはどのようなものですか。

写真:博士(工学)小野里 雅彦

小野里 私は大阪大学在職中の1995年、阪神・淡路大震災を神戸市東灘区で経験しました。地震の直後から多くの報道機関などのヘリコプターが飛来しましたが、家が倒壊したり停電している被災者はその映像を見ることはできません。それどころかヘリコプターの音ががれきの中から助けを求める人の声をかき消し、救助活動に支障が出ることさえありました。電話やインターネットも通信回線の断絶や停電などで使えず、被災地内での有効な情報手段は避難所の掲示や張り紙でした。最も情報を必要としている被災者が、最も情報を得られない状況に置かれていたのです。これは、2011年に起きた東日本大震災の時もほとんど改善されておらず、被災者の多くが情報から疎外されていました。

この経験から、被災者が必要とする情報は被災地で被災者みずからが獲得し、共有するしかないと考えました。そのヒントとなったのが、かつて集落(地域共同体)の中心部に設けられていた「火の見櫓(ひのみやぐら)」です。火の見櫓は、火事などの災害が起きると半鐘を打ち鳴らして非常事態を地域住民に知らせ、高い場所から見渡して周囲の状況を把握することができます。昭和の初期までは各地で有効に活用されていましたが、市街地に高層ビルが建ち並ぶ現代ではほとんど使われなくなりました。

それに代わる現代版火の見櫓として考案したのがInfoBalloon(インフォバルーン)(解説1)です。InfoBalloonは、ヘリウムガスを入れた気球を地上にロープでつなぎ止めて使用する係留型の気球で、①扁平構造の気球本体部、②平行3本ロープによる係留部、③地上からの高圧直流による電力供給の3点が大きな特徴です。この研究で重要だったのは、余計なものをできるだけ削ぎ落としていくことでした。最少の仕組みで安定した動作が確保できなければいざというとき役に立ちません。コスト・信頼性・使いやすさすべての面においてシンプルかつロバストであることが不可欠なのです。

1997年に初期型のInfoBalloonを開発して以来、毎年改良を続けていますが、その度によりシンプルになっています。2006〜2014年にかけて、せたな町や北大構内でフィールド実験を行い、係留方式の検討や風向風速に対する気球挙動の計測などを行いました(動画1)。

学問から見落とされてきたがれきの知見を蓄積する「がれき工学」

「がれき工学」という言葉はあまり聞いたことがないのですが。

写真:博士(工学)小野里 雅彦

小野里 「がれき」は人工物が災害や破壊によって発生したものです。自然科学者は地震のメカニズムや予測を研究し、土木や建築の研究者はがれきにならないように丈夫な素材や構造の技術を開発しています。しかし、すでにがれきになってしまったものを対象とした研究はほとんど行われてきませんでした。

阪神・淡路大震災の直後から、がれきの下に閉じ込められた人々を救出するためのレスキューロボットの開発が盛んに行われるようになりましたが、レスキューロボットの機能や性能を評価するために必要な作業環境の情報、つまりがれきに関するデータがほとんどないのが現状です。

私はレスキューロボット開発の前提として、「がれきに関する10の問い(図2)」を考えました。これらの単純ですが重要な問いに自信を持って答えられるような専門家は今のところいません。前述した知のフロンティアから取り残された領域のひとつであったわけです。レスキューロボットを実現するためには、この10の問いに答えられるような知見を学問的に蓄積することが必要です。これを私は「がれき工学」と名付けました。また、我々日本人が使う「がれき」という言葉のニュアンス(人工構造物が災害や事故、戦闘などによって破壊された後の残骸)を包括的に表現する英語表現が見当たらなかったため、英語の論文を書くときにも「Gareki Engineering」とそのまま使うことにしました。

がれき工学は非常に研究しにくい性質を持っています。災害などでがれきが発生しても、それは一刻も早く片付けられるべきものであり、じっくり観察したり分析したりする時間はありません。救助を待っている人がいるような場合はなおさらです。それががれきの研究が進まなかった要因にもなっています。 実際のがれきを使って研究するのは機会やコストの面で難しいため、私たちの研究室ではコンピュータの仮想空間の中で倒壊プロセスシミュレーションを使い、「デジタルがれき」を作って分析する手法を採用しています(解説2)。ここで得たデータを基に、レスキューロボットをがれきの中で活動させるシミュレーションや、レスキュー隊員が救助活動に使用するショアリング(倒壊建物などの安定化技術)の評価などを行っています。

がれきに関する研究はまだ始まったばかりです。例えば、地震による倒壊でできたがれきと津波よってできたがれきでは性質や扱い方が異なり、発生のメカニズムや対応に関するニーズも多種多様です。がれき工学は社会的意義の大きい分野ですが、その特殊な性質から産業界とのコラボレーションが難しく、産学連携が生まれにくい分野でもあります。だからこそ大学で担うべきであり、時代に流されることなく継続していく学問領域であると考えています。研究室に所属する学生たちも社会に役立てたいという意欲を持って研究に取り組んでおり、今後の展開に期待を持つと同時に、多くの方に「がれき工学」の有用性を知ってほしいと思います。

解説

解説1:InfoBalloon(インフォバルーン)

1996年から研究開発を続けている係留気球型のヘリウムガス気球。名称はInformationとBalloonをつなげた造語である。①扁平構造の気球本体部、②平行ロープによる係留部、③地上からの高圧直流による電力供給の3点が大きな特徴で、気球を扁平構造にすることで翼効果による揚力が発生し、風に対する安定性を向上させている。さらに、3本の平行ロープを可動式の地上係留部に固定し空中での気球位置の安定化を実現。地上係留部の必要設置面積は約6m四方である。InfoBalloonは、避難所などの上空に係留し、被災地の上空でランドマーク、無線通信中継、連続的監視、情報配信などを行うことを想定している。また、平時にも防犯・防災、農林水産業、情報通信などに活用することが期待されている。

図
図1:InfoBalloonのコンセプト
動画1:北海道せたな町梅本牧場上空

図2:がれきに関する10の問い

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解説2:倒壊プロセスシミュレーション

仮想空間の中にさまざまな木造家屋の構造を模擬したモデルを作り、そこに地震の波形を加えて倒壊させ、中の構造を分析する。(動画)物理エンジンをつかって計算している。3種類の家屋で比較、分析。結果のデータベース化を進めている。

動画2:倒壊プロセスシミュレーション
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図3:倒壊プロセスシミュレーション