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排除から有効活用への大胆な転換
生物に学ぶ「ゆらぎ」の利用法

写真:博士(工学)葛西 誠也

情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻
量子情報エレクトロニクス講座  量子知能デバイス研究室・教授

博士(工学)葛西 誠也

プロフィール

1992年北海道大学工学部電気工学科卒業。1994年同大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了、1997年同博士課程修了。1997年〜1999年NEC 光・超高周波デバイス研究所勤務。1999年北海道大学大学院工学研究科助手、2001年〜2004年北海道大学大学院工学研究科および量子集積エレクトロニクス研究センター助教授、2004年北海道大学大学院情報科学研究科および量子集積エレクトロニクス研究センター准教授、2014年より現職。この間2007年〜2011年JST さきがけ「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」研究者(兼任)、2009年〜2010年マレーシア工科大学客員教授。IEEE、応用物理学会、電子情報通信学会、日本化学会所属。

邪魔だと思われていた「ゆらぎ」を逆に利用する

量子知能デバイス研究室で取り組んでいるテーマはどのようなものですか。

葛西 研究室の主な研究テーマは、情報やエネルギーに関わる生物の機能や特徴を半導体電子デバイスを通して再現し、電子工学的に使えるようにすることです。キーワードとなるのは「ゆらぎ」。これまであらゆる電子機器は雑音、ふらつき、ばらつきといったゆらぎを排除することに力を注いできました。しかし、昨今はゆらぎの影響がますます大きくなり排除しきれなくなってきています。例えばハイブリッドカーでは、モーターを駆動するために大電流・大電圧を頻繁にON/OFFするのですが、このときに大きな電磁雑音が車内で発生します。この雑音が車内のさまざまな電子回路に影響をおよぼします。近年開発が進められている自動運転技術などはさまざまな操作を緻密に電子制御するため、こうしたシステムに悪影響を与えるような雑音はやっかいな問題になります。

また、コンピュータやスマートフォンに搭載されているマイクロプロセッサもゆらぎに大変苦慮しています。一度の充電で長時間使えるようにするにはプロセッサの駆動電圧を下げる必要がありますが、電圧を下げると内部信号が小さくなるため相対的に雑音の影響が大きくなりエラーを起こします。エラーを起こさないようにするには電圧を大きくしなければならず、消費電力を減らすことが難しいのです。

私たちの研究室では、こうしたゆらぎと共存したり逆に利用したりすることを目指しています。そのお手本となるのが生物です。生物はゆらぎが大きい自然環境のなかで生き延びるために長い歳月をかけてさまざまな能力を獲得しています。例えばザリガニが水中で敵を察知するような能力もゆらぎを利用しています。こうした能力の原理を学び、電子的に再現し工学的に使えるようにするのが研究テーマです。生物のシステムの基本要素をさぐり、その特性(しばしば単純な非線形関数)をナノデバイスで再現し、これを組み合わせることで生物の機能を実現することに取り組んでいます。

雑音を足すことで検知が可能になる確率共鳴デバイスの開発

具体的にはどのようなものがありますか。

博士(工学)葛西 誠也

葛西 情報エレクトロニクスの3つの基本要素は①検出、②伝達、③処理です。これらの要素についてゆらぎと共存協調する生物のやり方に倣った電子システムやデバイスの研究開発を行っています。

まず挙げられるのが確率共鳴です。確率共鳴は自然界にもよくある現象で、雑音によって微弱な信号を検知可能なレベルにまで向上させる能力をもっています。人間を含めさまざまな生物の感覚器や情報処理機能に確率共鳴が関与していると言われています。私たちはこれを電子的に再現し応用する研究を進めています(解説1)。確率共鳴を応用した電子機器の開発はかなり難しかったのですが、私たちは普段よく使われている半導体トランジスタで確率共鳴が起こせることを初めて実験的に示しました。トランジスタはコンピュータやスマートフォンの中に数億個という単位で使われています。身近なデバイスで確率共鳴を起こすことができることがわかり、現象を電子機器で利用する可能性がいっきに広がりました。

身の回りには多くの雑音があるため、雑音を利用するというコンセプトは多くのメーカーが興味を示しています。私たちはそうしたメーカーとの共同研究を行っています(解説2)。また、筋肉を動かすときに発する微弱な電気信号を確率共鳴によって取り出すマン・マシンインタフェースの開発にも取り組み、ロボットアームの動作につなげる研究なども行っています(解説3)。

ただし、現時点では原理を十分には理解できていません。電子機器を設計・実用化するために使いやすい理論的な枠組みをつくることが重要です。今後は原理の解明と設計におけるモデルの構築にも取り組んでいく考えです。

生物に倣った電子ブラウンラチェットとアメーバ型コンピュータ

他にはどのようなものがありますか。

博士(工学)葛西 誠也

葛西 2つめはブラウンラチェットを応用した電子デバイスの開発です。ブラウンラチェットとは生物の筋肉の動力源となる分子モーターのメカニズムです。私たちは分子モーターの仕組みにならい、低エネルギーで電流を生成する素子の開発を行っています。

電子機器の中では電子が行き来することで信号を伝達していますが、実は1つ1つの電子はランダムな動きをしていて雑音の源になっています。電子ブラウンラチェットはゆらいでいる電子から使えるエネルギーをとりだします。ラチェット機能をいかに電子的につくり出すかがカギとなりますが、本研究では半導体ナノワイヤに非対称形状電極を多数設けることでふらつく電子を一つの方向に導く手法を考案しました(解説4)。半導体内部の電子の動きを理解して構造設計し、半導体ナノテクノロジーをつかって構造を実現しました。このデバイスは室温で動作するためさまざまな電子機器に組み込むことができます。これは世界初の研究成果といえます。電子機器の中で発生する雑音を排除するのではなく、逆にエネルギー源として使う。こうした仕組みが実用化されればエネルギーの有効利用が飛躍的に向上すると期待できます。

3つめはアメーバ型コンピュータの研究です。これは、「巡回セールスマン問題」や「ナップサック問題」と呼ばれる最適化問題に関わるテーマです。最適化問題を解くためにコンピュータは単純に1からトライアンドエラーを繰り返して答えを探すため、変数が増えると組合せの数があっという間に増えて膨大な計算時間を要します。これは組合せ爆発と呼ばれ、現在のコンピュータではこの爆発を抑えきれません。最近、生物のアメーバはうねうねした動きをすることでコンピュータよりも少ない数のトライアンドエラーで最適化することができることがわかってきました。これをアメーバ型計算と呼んでいます。しかし、生物のため動きは遅く一つのトライにかかる時間が長くなってしまいます。アメーバの動きを電子デバイスで高速に再現しようというのが電子アメーバです(解説5)。

アメーバ型計算機のような非ノイマン型コンピュータは、律儀に問題を解こうとするノイマン型コンピュータよりも効率よく最適化問題を解くことができると言われており、次世代のコンピュータとして大きな期待がかけられています。しかしなぜ効率がよいのかはまだ解明されておらず研究の途上です。非ノイマン型である生物の計算能力を宿した電子デバイスを開発し、そこにある原理を解明することは、結局「生物って何?」という疑問の答えを追い求めることかもしれません。

解説

解説1:確率共鳴

雑音によって微小信号に対する応答が向上する現象。本研究では従来不必要とされていた雑音を利用することで、電子機器などの微弱な信号に対する応答を向上・最適化する。確率共鳴はしきい値をつくることで起こすことができる。本研究ではしきい値特性を持ったトランジスタを集積することでより精度が高く、幅広い周波数に対応できる確率共鳴を起こすデバイスの開発に取り組んでいる。

参考リンク:JSTサイエンスニュース「確率共鳴を利用する電子ナノデバイスの開発」

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解説2:自動車ヘッドライトハレーションのもとでの対象物検出

センサの前で人型を左右に移動させる。通常は背後の強い光に反応して全灯(白飛び)の状態になってしまうが、雑音を付加することによって人型の部分を検知することができるようになる。こうしたセンサを自動車に搭載することで自動運転装置などの安全性向上に寄与すると考えられ、自動車メーカーとの共同研究が進められている。

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解説3:ロボットアーム制御

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解説4:電子ブラウンラチェット

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解説5:アメーバ型コンピュータ

アメーバのうねうねした動きには伸びている部分と縮んでいる部分もある。電子アメーバでは、この伸びている部分を「1」、縮んでいる部分を「0」と見なすことで「探している状態」を表現している。

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