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IoT/CPS時代の次世代システム制御理論の構築
エネルギー問題の解決にも役立つ新しい理論を目指して

写真:博士(工学) 小林 孝一

情報科学研究科 システム情報科学専攻
システム創成学講座  システム制御理論研究室・准教授

博士(工学)小林 孝一

プロフィール

1998年法政大学工学部システム制御工学科卒業。2000年同大学院工学研究科システム工学専攻修士課程修了。2000年〜2004年新日本製鐵株式会社勤務。2007年東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻博士後期課程修了、博士(工学)。2007年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教を経て、2015年より北海道大学大学院情報科学研究科准教授。計測自動制御学会、システム制御情報学会、電気学会、電子情報通信学会、IEEEの会員。

遺伝子ネットワークの制御問題を効率的に計算

小林先生の主な研究テーマについてお聞かせください。

小林 システム制御理論は、エアコンの温度設定などのように私たちの身近なところで使われています。私の研究では,システム制御理論をベースに、遺伝子ネットワークの制御、ハイブリッドシステム、エネルギー管理システムへの応用展開など、社会のさまざまな場面に役立つ理論の構築を目指しています。

まず、遺伝子ネットワークの制御について説明します。がんなどの病気は、遺伝子レベルでみると細胞内の特定の遺伝子が発現することによって細胞ががん化して広がります。遺伝子には相互作用があるので、がんに関する遺伝子を直接調整することができなくても、周辺の関連する遺伝子に何らかの調整を加えると、がんの遺伝子の活動を抑制できると考えられています。私たちは、遺伝子の発現や相互作用の数理モデルを用いた基礎理論を研究しています。がん細胞の活動をどうやって抑えるかという研究はすでに多くの研究者が取り組んでいますが、遺伝子数が多い場合、モデルが複雑になり、普通のパソコンでは計算が困難になります。私たちの研究では、ブーリアンネットワークによるアプローチを取り入れ、従来よりも処理を簡略化することを可能にしました(解説1)。

この手法の特徴は、ブーリアンネットワークの演算部分を無視してグラフ構造だけを見て制御できるかどうかを判定することです。演算の部分を見る必要がないので計算はかなりシンプルになります。近似的な解ではありますが、ある程度の予測を立てることができるので、すべての組み合わせを網羅して計算するよりはかなり高速化できます。他にも、確率的な挙動をもつブーリアンネットワークの制御、条件を満足するブーリアンネットワークを生成する逆問題などに取り組んでいます。これらの研究成果はAutomatica (Special issue on systems biology)、IEEE/ACM Transactions on Computational Biology and Bioinformaticsなどに掲載されています。

離散と連続が混在するハイブリッドシステム

ハイブリッドシステムとはどのようなものですか。

博士(工学)小林 孝一

小林 自動車の仕組みを例にすると分かりやすいのですが、マニュアル車の場合、ギアの1速、2速というのは離散的な値です。1.2速といった中間的な値は取りません。一方、アクセルやブレーキの操作は連続的な値を取ります。自動車というシステムは離散値と連続値の両方を使って制御されているのです。また、製鉄所などでは生産ラインを流れてくる材料の識別は離散的で、加熱炉の燃焼制御や自動板厚制御は連続的です。多くのシステムはこのように離散(オートマトン)と連続(微分方程式)が混在していることが多いのです。

従来は、それぞれ別のシステムとして制御しているのですが、ハイブリッドシステムでは離散値の数式と連続値の数式を融合したひとつのシステムとして扱います。実は、二足歩行のロボットもハイブリッドシステムです。ロボットの足を上げる動作の運動方程式と、両足をついたときの運動方程式などを切り替えることで連続的に動かしているのです。

ハイブリッドシステムの解析や制御の問題は、混合整数計画問題(整数値を取る変数と実数値を取る変数が混じっている問題)に帰着されます。複雑なシステムでは混合整数計画問題を解く計算時間が問題となります。私たちの研究では、混合理論動的システムに組み込める有向グラフの数理モデルを提案し、計算時間を約20分の1に短縮することを実現しました(解説2)。

自動車や機械などの動作を制御するだけでなく、人間の意志決定と行動の同時最適化にもつながるのではないかと思っています。車の運転を想定した場合、ハンドルを右に切るか左に切るかの判断は離散的、実際にハンドルを動かしたりアクセルやブレーキを踏む動作は連続的です。これもハイブリッドシステムの一種であり、人間の行動をモデル化するのに役立つのではないかと考えています。

需要制御のためのリアルタイムプライシング

エネルギー管理への応用展開とはどのようなものですか。

博士(工学)小林 孝一

小林 エネルギー管理は現代社会で最も重要な課題です。私たちが取り組んでいるのは、需要と供給のバランスに応じてリアルタイムに電力価格を変動させるシステムの構築です。真夏や真冬など季節的に電力需要が高まり供給量の限界が近づいてきたとき、一時的に電力価格を上げ、通信ネットワークを通じて各家庭や事業所に通達します。それを見た利用者に使用量のセーブを促し電力需要を抑制するという仕組みです(解説3)。国内で実証実験も行われており、エネルギー問題の解決策のひとつになるのではないかと期待されています。

使用量に応じて電力価格をリアルタイムで設定することを「リアルタイムプライシング」と呼びますが、これをすべて自動で行うことも可能です。各家庭や事業所で電力価格の上限を決めておき、それを超えると使用量を抑えるようにするのです。これは、じつはエアコンの温度設定と理論的に同じもので、システム制御理論の応用展開の一例となります。現在は,価格の上昇と電力使用量の適正なバランスをどうモデル化するかという問題に取り組んでいます。この研究は京都大学,鳥取大学と共同で進めており,今後は社会実装に向けたシステム開発を目指していきます。

物理系(電力の供給や使用)と情報系(使用量に応じた電力価格の算出と通達)が融合したシステムは、サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical Systems:CPS)と呼ばれています。遺伝子ネットワークの制御においても、物理系を遺伝子ネットワーク,情報系を制御問題を計算する計算機とすることで、CPSとして捉えることができます。また,ハイブリッドシステムはCPSの数理モデルとしても注目されています。さらに、エネルギー管理ではIoT(Internet of Things:モノのインターネット。さまざまな機器が通信ネットワークを通じて情報交換する仕組み)が重要となっています。IoT/CPSが当たり前になる時代では、物理系や情報系といった異質なコンポーネ ントが複雑に絡み合うシステムが対象になります。私たちは、エネルギー管理の応用展開などを通して、IoT/CPS時代の新しいシステム制御理論の構築を目指しています。

解説

解説1:ブーリアンネットワークによるアプローチ

1960年代に提案されている数学的モデルで、ネットワークの構造を考慮した最もシンプルなものである。ブーリアンネットワークを使って制御問題を解く手法は2000年代中頃から盛んに使われるようになっている。

参考リンク 小林孝一,平石邦彦:アトラクターに着目したブーリアンネットワークの設計,システム/制御/情報,Vol. 59,No. 7,pp. 250-255 (2015)

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解説3:リアルタイムプライシング

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