language
注意事項
当サイトの中国語、韓国語ページは、機械的な自動翻訳サービスを使用しています。
翻訳結果は自動翻訳を行う翻訳システムに依存します。場合によっては、不正確または意図しない翻訳となる可能性があります。
翻訳サービスを利用した結果について、一切を保証することはできません。
翻訳サービスを利用される場合は、自動翻訳が100%正確ではないことを理解の上で利用してください。

プラズモニクスを活用した単一分子分光技術
社会に役立つ応用展開を目指した研究も推進

写真:博士(理学) 雲林院 宏

情報科学研究科 生命人間情報科学専攻
先端生命機能工学講座  バイオナノマテリアルズ研究室・教授

博士(理学)雲林院 宏

プロフィール

1997年、大阪大学工学部卒。1999年、大阪大学大学院工学研究科修士課程修了。2002年、東北大学大学院理学研究科博士課程修了。2002〜2004年、ベルギー カトリック・ルーヴァン大学博士研究員、2004〜2011年、同上級博士研究、2011年より同研究教授。2015年、北海道大学情報科学研究科教授に就任。

プラズモン導波路を用いた分光技術で単一の細胞を生きたまま操作・観察

雲林院教授の専門分野はどのようなものですか。

雲林院 もともとは単一分子分光の研究を行っていました。走査型プローブ顕微鏡(走査型トンネル顕微鏡)を用いて分子1個を分光あるいはイメージングする手法です。分子一つひとつの性質や挙動を直接見ることができるのは私にとっては非常に興味のある分野でした。

大学院で理学博士を取得した後、単一分子研究で世界的に有名なベルギーのルーヴァン大学でプローブ顕微鏡や蛍光イメージング、単一分子分光の研究に従事しました。2011よりルーヴァン大学理学部化学科の研究教授に就任し、2015年から北海道大学情報科学研究科教授も兼任しています

単一分子分光の研究の中で特に注目しているのがプラズモニクスです。プラズモニクスとは、金属中の自由電子が集団的に振動するプラズモンという状態を利用して、ナノ回路に光を伝搬させたり光の回折波長よりも小さな空間に光を閉じ込めたりする技術のことです。私たちの研究チームは、プラズモンの導波路となる金属ナノワイヤーの化学合成やその性能評価を行い、銀のナノワイヤーを用いたリモート励起表面増強ラマン分光の技術を開発しました(解説1)。

それはどのような仕組みですか。

博士(理学) 雲林院 宏

表面増強ラマン分光は、2つの近接した金属ナノ粒子に光を当てると粒子間にプラズモンが局在化し、そこで散乱する振動スペクトルの特長から分子の状態を知ることができます。しかし、従来の表面増強ラマン分光では、測定したい箇所に金属ナノ粒子を配置することが難しいという問題があります。それに対し、私たちの研究チームは、均一な結晶構造を持つ銀のナノワイヤーをプラズモンの導波路とし、ナノワイヤー上で伝搬型プラズモンを励起して光エネルギーを長距離に渡って伝搬させています。これにより、レーザー集光点から10マイクロミリメートル以上離れた位置でも表面増強ラマン分光が可能になり、(1)回折限界を破ることができ、(2)対象試料を直接レーザー光で照射する必要がなくなります。そのため、導波路もしくは光による試料の損傷を最小限に抑えることができます(図1)。

また、プローブの先端に取り付けたナノワイヤーは50〜80ナノメートルという非常に細いものです。従来のプローブは細胞表面を押したり、中に差し込んだりすると細胞自体に大きなダメージを与えてしまうのですが、私たちのナノワイヤーは細胞に差し込んでもダメージを与えることはほとんどありません。実際、ルーヴァン大学で行った実験では、ナノワイヤーを10〜30分間差し込んだままにしても影響はなく、抜いた後も元の状態を保ち、正常に分化することも確認しています。細胞を生きたままの状態で観測・操作し、その後の反応も生きたまま長期間観察できるというのは、これまでにない画期的な技術だと自負しています。

ルーヴァン大学ではこうした金属ナノワイヤーのプラズモン導波を活用した表面増強ラマン分光技術の研究を行い、北海道大学ではそれらを実社会に役立てるための技術開発や応用研究を行っています。

医療分野の技術革新を目指した
画期的な技術の研究開発

現在どのような研究を行っているのですか。

博士(理学) 雲林院 宏

雲林院 まず一つは遺伝子操作技術の革新につながる技術の開発で、特に目指しているのがiPS細胞の操作です。現在のiPS細胞は、必要な遺伝子を持ったレトロウイルスを体細胞に導入し培養して作製しています。しかし、培養した細胞すべてがiPS細胞になるわけではなく、細胞ががん化する危険性があるなど多くの課題も抱えています。

私たちが開発した金属ナノワイヤーを用いた技術を用いて、ウイルスを使わず、細胞一つひとつに遺伝子を直接導入する手法の開発を行っています。前述のようにナノワイヤーは細胞にほとんど影響を与えないので、遺伝子を入れ込む方法としては非常に確実で効果的であると考えています。今はまだマニピュレータを操作する技術者の熟練度などの影響で精度にばらつきがあるのですが、操作手順や設備・装置の高度化を図ることができれば大量生産も可能ではないかと考えられます。そのために必要な技術と知見を積み上げることが今の目標です。

もう一つは、高分子マテリアルを活用したドラッグデリバリーシステムの研究です。本研究室の猪瀬朋子助教が中心になって進めているテーマで、ガラス(シリカ)で作ったナノサイズのカプセルの中に抗がん剤を入れ、がん細胞をピンポイントで狙って投与する方法を開発しています(解説2)。特定のがん細胞を選択・接着する性質を持った数種類の高分子でカプセルの周囲を覆い、体内を循環している間は溶けず、がん細胞の中に入ったときだけ中の薬剤が溶け出す仕組みを考えています。

研究室では、高分子で覆ったカプセルを血液と似た性質の液体に入れ、中の薬剤の状態を数週間にわたって観察しました。その結果、血液中ではほとんど溶けないことを確認しています。さらに、がん細胞内に入った後の薬剤の効果も観察しています。光学顕微鏡を使い、がん細胞が薬によって縮小・消滅していく過程を確認しています。現時点では、従来の約1000分の1程度の抗がん剤で十分な効果を示唆する結果が得られています。

これらの研究は、今後どのような分野に活かされるのでしょうか。

雲林院 将来的には社会の役に立つ研究成果を出したい、そのための技術と化学を発展させたいという思いがあります。ナノワイヤーの合成やそれを使った分子の操作、プラズモニクスを用いた分光技術などは私が最も得意とする領域ですが、それだけでは具体的に社会に貢献できるわけではありません。細胞を生きたまま操作・観察することで何が可能になるのか、どんな画期的な技術が実現するのかということは、これから私たちが示していかなければならないでしょう。その一つが単一細胞レベルでの遺伝子操作の分野であり、そういうことができるようになれば私たちの研究の意義も生まれてくるのではないかと思います。私たちの研究は生物、化学、工学の研究者がコラボレーションして初めて成し遂げられるものです。これからもルーヴァン大学や北大、企業など多くの人々と協力しながら研究を進めていきたいですね。