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金属ナノ構造体における電子の振る舞いを計測し
プラズモニック化学の新分野を切り開く

写真:博士(理学)上野 貢生

情報科学研究科 生命人間情報科学専攻
先端生命機能工学講座  バイオナノフォトニクス研究室・准教授

博士(理学)上野 貢生

プロフィール

1999年3月北海道大学理学部化学科卒業。2001年3月同大学院理学研究科博士前期課程化学専攻修了。2004年3月同大学院理学研究科博士後期課程化学専攻修了。2001年4月より日本学術振興会特別研究員DC、日本学術振興会特別研究員PDを経て、2006年4月より北海道大学電子科学研究所助手/助教。2009年より准教授。

金属ナノ構造体における光子の有効利用の研究

バイオナノフォトニクス研究室ではどのような研究をしているのですか。

上野 当研究室では「光子の有効利用」という概念を提唱し、光を用いた計測や加工、あるいは光エネルギーを電気や化学エネルギーに変換する光化学に関する研究を推進しています。特に重要なのが金属のナノ構造というもので、局在プラズモン共鳴(金属に光が当たると金属表面の自由電子がその影響を受け集団的な振動運動<プラズマ振動>を起こす現象)によって光を捕集・濃縮することが可能な光アンテナ(金属のナノ構造体)に着目し、「プラズモニック化学」という新しい研究分野を立ち上げました。

金などの金属のナノ粒子にレーザー光を照射すると、金属ナノ粒子表面に吸着した分子からラマン散乱光が増強される現象はすでに1970年代に発見されていますが、2000年頃にナノテクノロジーの発展期があり、金属のナノ構造が人工的に作れるようになると、金のナノ粒子のサイズや形状をコントロールすることでより強いプラズモン増強場が作れるようになってきました。私たちの研究室では2004年頃からこうしたナノテクノロジー技術を使って10ナノメートル以下の加工分解能で構造体を人工的に作製し、新しいデザインの構造体やそこで発生するプラズモン増強場の分光特性、さらにはそれらの光化学反応への展開などについて研究しています。

金属ナノ構造が示す光を捕集して、ナノメートルオーダーの微小な空間に濃縮する効果は、エネルギーの低い可視・近赤外光を用いて太陽電池や人工光合成、光センサ(化学センサ)の高感度化などを実現するものとして世界中の研究機関が取り組んでいるホットなテーマです。

近赤外線や可視光を活用した光リソグラフィと人工光合成

現在の研究テーマについてお聞かせください。

博士(理学)上野 貢生

上野 まずひとつが「光リソグラフィ」の技術です。光リソグラフィとは、細かい構造を書き込んだフォトマスクと呼ばれるいわゆる「鋳型」を光によって大量にコピーする技術です。通常は、コピーに使用する光源に真空環境下でなければ利用できない真空紫外光を露光用光源とした高額な露光装置を用いていますが、本研究では、波長が比較的長く通常の大気中でも利用できる近赤外光を用いて加工分解能の向上を実現しました(解説1)。

二つめは「人工光合成」の技術です。当研究室では、2010年に可視・近赤外光による水の酸化反応に基づく光電流を初めて計測することに成功しました(解説2)。この研究成果をもとに、2014年、全可視光の利用と発生した水素・酸素の分離を同時に可能にする人工光合成システムの開発に成功。チタン酸ストロンチウム単結晶基板の表面にプラズモン共鳴を示す金ナノ粒子を形成させ、基板の裏面には白金板を固定し、全可視光波長(450nm〜850nm)の光を用いて金ナノ粒子側で酸素発生を、白金側では水素を発生させることを実現しました。水素だけではなくアンモニアなどの水素エネルギー密度の高い化学物質への変換もすでに実現しており、水素を燃料とする車への搭載など、将来的な実用化にも期待がかけられています。

光電子顕微鏡で電子の動きを観測

これらの技術のベースになっているものはどのようなものですか。

博士(理学)上野 貢生

上野 開発した光リソグラフィ技術は、プラズモン増強としては損失となる光散乱成分を利用して転写する技術です。一方、人工光合成は金属ナノ構造による光吸収を利用した技術で、効率的に光を構造に閉じ込める必要があります。漏れ出たものを利用するものもあれば、閉じ込めたものを利用するものもあるというわけです。

こうした技術を可能にするには、そもそも金属ナノ構造における電子の振る舞いを計測する技術が不可欠であり、それが光電子顕微鏡(PEEM)です。当研究室では、金ナノ微粒子に誘起される電子のさざ波の観測や、集団運動の継続時間を追跡する観測などに取り組み、大きな成果をあげています(解説3)。

電子の振る舞いを詳細に計測することにより、金属ナノ構造体の設計指針を得ることが可能になり、結果的に太陽電池や人工光合成といった新しいアプリケーションの開発につながります。こうした基礎的な研究から人工光合成といった実用性の高い研究まで幅広い分野に関わっているのが当研究室の特徴であり、リーダーの三澤弘明教授をはじめメンバー一同、環境問題やエネルギー問題に寄与する研究に取り組んでいます。