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流体シミュレーションをベースにコンピュータグラフィックスを描画
物理法則を崩すことなく、自由にデザインできる技術の開発

写真:博士(工学) 土橋 宜典

情報科学研究科 メディアネットワーク専攻
情報メディア学講座  情報メディア環境学研究室・准教授

博士(工学)土橋 宜典

プロフィール

1997年、広島大学大学院工学研究科博士課程修了。同年、広島市立大学情報科学部助手。2000年、北海道大学大学院工学研究科助教授(現・准教授)。2008年より同大学院情報科学研究科准教授。専門はコンピュータグラフィックスに関する研究。2014年の文部科学省文部科学大臣表彰科学技術賞「CG映像制作のための演出技術の数理モデルに関する研究」をはじめ受賞多数。アメリカのコンピュータ学会(ACM)のコンピュータグラフィックスを扱うSIG(分科会)「SIGGRAPH」で、10本以上の論文を採択されている。

3DCGを自在に作成できるシミュレーション技術の開発

情報メディア環境学研究室はどのような研究を行なっているのですか。

土橋 本研究室ではコンピュータグラフィックス(CG)、画像・映像処理、大量データの可視化、音声等幅広い分野の研究を行っています。近年、CGは飛躍的に発展し、エンターテインメント分野の映像制作をはじめ、社会のさまざまな場面で活用されています。しかし、3DCGのような3次元情報の操作は簡単ではなく、形状・カメラ・照明・材質などに関する膨大なパラメータを人間が用意しなくてはなりません。さらに物理法則に基づいた精密な映像を作成するためには、長い計算時間が必要です。そのため、映像制作のような創作活動を支援する技術としては簡単に使いこなすことはできないのが現状です。

私たちの研究では、3次元空間の情報を自由に操作し、簡単にCG映像を作成する仕組みを研究開発しています。

研究室では、企業との共同研究などいろいろなチームを組んで、(1)物理ベースビジュアルシミュレーションとそのコントロール、(2)効率的でリアルな輝度計算と編集、(3)画像を用いたインタラクティブな3次元形状のモデリング、(4)デジタルファブリケーション、(5)空間ユーザーインタフェースなどのテーマを含むCG全般の研究に取り組んでいます。

特に、物理方程式をベースにした流体シミュレーション技術の研究開発に力を入れています。流体シミュレーションはCGに限らず流体力学の分野でも使われており、そういう研究ではより現実に即したシミュレーション、例えば船の設計などに利用されています。一方、私たちが扱うCGの場合はどちらかというと映像表現が主なターゲットになるので、アートやクリエイティブの現場での映像表現を支援するツールの開発を目指しています。

シミュレーションのプロセスと計算時間を大幅に短縮

具体的にはどのような研究を行っているのですか。

博士(工学) 土橋 宜典

土橋 最近の研究成果としては、複数の画像を表示するリフレクタの開発があります(解説1)。一般的な印刷技術である紫外線プリンタ(UVプリンタ)を用いて、対象物体の表面上に立体的な微細構造をプリントし、見る角度や光の当て方によって異なる画像を表示することができます。従来、名刺や文字板、封筒、プラスチックケースなど異なる材料で作られた物体にリフレクタを印刷するのは困難だったのですが、UVプリンタで凹凸のある微細構造を作成することでどんなものにも印刷することができます。シールやステッカーなどにも簡単に印刷できるので、幅広い応用展開が期待できます。

また、アメリカのアニメーション制作会社とも共同研究を行っています。アニメーションの中で煙や雲、水などを表現する際、従来は安価なシミュレーションで大まかな流れをデザインし、後処理的に詳細な動きを加えるという方法が使われてきました。この方法はアニメーションの制作時間を大幅に短縮できますが、詳細な動きについて自由にデザインするのが難しく、またそれが思い通りに描画できるかどうかも予想できないという欠点がありました。

私たちの開発した技術では、まず計算コストのかからない粗い計算によって全体の詳細な動きをデザインし、その後、詳細を付加した複雑な部分をシミュレーションしたものと組み合わせています。(解説2)。この手法では煙の速度分布に着目し、似たような部分を見つけてその箇所をコピーしています。コピーした箇所の境界線はどうしても不連続になるので、物理的な方程式に則ってスムージングをかけています。

また、映画などの背景に描かれる雲をモデル化し、アニメーション化する技術も手がけています。現実的な雲を合成する最も効果的なアプローチのひとつは、大気の流体力学に基づいて雲の形成プロセスをシミュレートすることですが、この手法ではアーティストが求める雲の形状や動きを実現することが困難です。私たちの研究では、雲が発生するときに起きる潜熱をパラメータに組み込み、その量を調整することで、自然に近い雲を生成しながら求める形や動きを実現できるようにしました(解説3

これらの論文はアメリカで開催される世界最大のCGカンファレンスであるSIGGRAPHにも取り上げられています。雲のシミュレーションを研究している人はCG業界の中でも数人しかいないので、非常に面白い分野ですね。

映像から音へ。「リアルとは何か?」を求めて

シミュレーションの研究は今後どのような方向に広がっていくのでしょうか。

博士(工学) 土橋 宜典

土橋 最近はグラフィックだけでなく「音」に関する研究にも取り組んでいます(解説4)。剣や棒などを振った時に出る音を流体力学を利用してリアルタイムに生成する技術です。棒を降ったときに空気中に起きる渦の空気圧をシミュレーションすることで、棒の太さや材質、スピードに応じたサウンドをリアルタイムで作成します。通常のシミュレーションでは1秒間分の音を計算するために数万単位のタイプステップが必要になりますが、私たちは計算時間を短縮するため、音の波形を1種類だけ登録しておき、物体のスピードと波形の関係性を表す方程式を利用することで物体のスピードに合わせて音を生成することを可能にしました。この研究もSIGGRAPHで高く評価されました。

このような研究に取り組んでいると、「リアルとはどういうことか?」という疑問も湧いてきます。人間は何をもって「この写真はリアルだ」と感じるのでしょうか。こうした研究は脳科学や認知科学などの分野ですが、私たちCGの研究者も加わった研究活動も始まっています。

今のコンピュータグラフィックス業界は、物理シミュレーションを厳密に行うことでより本物に近いものを創り出そうとしていますが、私はむしろ「作り物の映像をいかにリアルに見せるか」というところに興味を持ち、研究を続けて行きたいと思っています。

解説

解説1:複数の画像を表示するためのリフレクタの作成(Fabricating Reflectors for Displaying Multiple Images)

本研究では、標準的な紫外線プリンタ(UVプリンタ)を用いてリフレクタを製造する方法を開発。任意の材料上に特定の2DカラーパターンをUVプリンタでレンダリングすることで、異なる方向から見たときに異なる目標画像を表示することができる。

解説2:流体の詳細な動きを転写する方法の提案(Example-based Turbulence Style Transfer)

パッチベースと最適化ベースの画像合成によく用いられる2つの方法を流体の流れに適用できるように拡張。まず小さな矩形領域(パッチ)単位で全体の詳細な動きを合成し、そのパッチ間に対して最適化ベースの画像合成手法を適用して境界線の不連続を解消する。

解説3:気体の流体力学に基づく雲のフィードバック制御(Feedback Control of Cumuliform Cloud Formation based on Computational Fluid Dynamics)

従来の方法で試行錯誤しながら目的の形状にするには,パラメータの設定が難しい上に、何度も再計算することが必要である。本研究では、指定した形状の雲に成長するように各種パラメータをフィードバック制御で調整し、物理則を極力保ちながら雲が変形する手法を提案している。

解説4:空力音のリアルタイムレンダリング(Real-time Rendering of Aerodynamic Sound)

空気力学的な音の例には、剣を振ったり、風を吹くことによって生成される音などがあるが、空気力学的音の主な源は、空気のような流体中に発生する渦である。本研究では、物体の動きや風速に応じた空力音のリアルタイムレンダリングのためのサウンドテクスチャを用いた手法を提案している。