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光ナノマニピュレーション技術の最先端を開拓
基礎科学のアウトリーチおよび教育活動にも取り組む

写真:博士(工学) 笹木 敬司

電子科学研究所
光科学研究部門  光システム物理研究分野・教授

博士(工学)笹木 敬司

プロフィール

1986年大阪大学大学院 工学研究科博士課程修了。1986〜1987年日本学術振興会特別研究員。1987〜1989年徳島大学 医学部助手。1989〜1992年科学技術振興機構 研究員。1992〜1997年大阪大学大学院 工学研究科 応用物理学コース助手。1997年北海道大学電子科学研究所に着任、2005~2009年電子科学研究所・所長。

光の運動量を利用して分子をつかむ光ピンセットの研究

笹木先生の研究室ではどのような研究を行っているのですか。

笹木 光の量子性・波動性を活用した新しい概念に基づく光計測・光情報処理の研究を行っています。主な研究テーマは、(1)ナノ粒子・分子のダイナミック光マニピュレーション (2)プラズモニックナノ構造体による光ナノシェーピング (3)微小光共振器やナノファイバを用いた高機能光デバイス (4)単一分子・単一ナノ粒子のダイナミック分光計測 (5)ナノ局在光の角運動量操作と分子励起プロセス制御などです。

アシュキンが開発した光ピンセットはマイクロメートルサイズの粒子を光の力で捕捉することができますが、それより小さいナノメートルサイズの微粒子は捕捉することができませんでした。その壁を打破したのがプラズモニクスです。金属のナノ粒子にレーザー光を照射すると、電子の集団振動とのカップリングによりナノサイズの空間に高強度な光の場(プラズモン局在場)が形成されます。プラズモン局在場は、光の回折限界を超えたナノサイズまで絞り込む機能を持ち、プラズモン局在場をコントロールすることで、マニピュレーションの自由度を向上させることができます。これにより化学やバイオの分野への応用が格段に広がりました(写真1)。

プラズモニクスの活用でナノ粒子をホールインワン

現在どのような研究を行っているのですか。

博士(工学) 笹木 敬司

笹木 前述の光ナノマニピュレーションの技術を使って、金属のナノサイズの空隙(すき間)にナノ粒子を非接触で捕集し、ワンステップで配置・固定する新技術を開発しました(解説1

今回開発した技術では、一辺250ナノメートル、厚さ30ナノメートルの金のナノ三角形2個を、先端を10ナノメートルだけ離して配置しナノ空隙(すき間)を作ります。そこに光を照てると10ナノメートルの空隙に光が集められてナノサイズの強力な光スポットが形成されます。すると、液体中を漂うナノ粒子が光スポットに引き寄せられ捕集されます。さらに光の照射で金属の温度が上昇し、捕集したナノ粒子をわずかに溶かして接着させることができます。このように、ナノ空隙にワンステップで捕集・配置・固定することが可能になり、ナノサイズの分子エレクトロニクス素子、ナノ粒子の量子効果を用いた演算素子、分子の特性を超高感度に検出する装置などへの応用が期待されます。

また、金のナノ三角形を3個、4個、5個と増やすことで光スポットに捕集した分子の構造をいろいろ変化させることができます。そのひとつが光圧キラル結晶化です。

有機分子には分子式は同じでもその立体構造が右手と左手のように互いに鏡像関係にある異性体が存在し、これをキラリティ(chirality)と言います。例えば、グルタミン酸は同じ分子構造でもL体はうま味(L-グルタミン酸)、D体は苦味(D-グルタミン酸)になります。通常の化学合成ではL体とD体が半分ずつできるので必要な方だけを抽出して利用しますが、光ナノマニピュレーションを応用すると、結晶化の過程でどちらか一方だけを生成することができます。これは光の円偏光という特性を利用したもので、光の力で分子を集めると同時に左右どちらかにひねりを加えることで分子の構造を同じ形に揃えることができるのです。

サイエンスの面白さと大切さを多くの人に伝えたい

今後の研究活動についてどのようにお考えですか。

博士(工学) 笹木 敬司

笹木 光の力を解明する研究は1900年代初頭にはすでに始まっており、夏目漱石の小説『三四郎』の中にも光を研究する物理学者が登場します。光は古くから多くの科学者を魅了し続けているテーマなのです。私もそうした一人であり、光ピンセットの研究を通じて光の力がもたらすさまざまな現象を解明するのが今の目標です。

そのためにも、研究内容や研究成果を積極的にアウトリーチしていくことが重要だと感じています。特に子供たちにはサイエンスへの純粋な興味を持ってもらいたい。情報があふれる現代社会は調べればすぐに答えが見つかる便利さを持っていますが、まだ誰も見つけてない事実を探し出し、なぜそのようなことが起きるのかを解明するのが基礎科学の面白さです。答えのない問題に立ち向かうのは簡単なことではありませんが、不思議な現象を目にした時の驚きや感動をエネルギー源として、謎の解明に情熱を燃やす科学者が一人でも多く増えてほしいですね。

光ピンセットの原理を発見したアシュキンは、現役を退いた後も一人でコツコツと研究を続け、96歳という年齢でノーベル賞を受賞しました。いくつになっても好奇心・探究心を失わず、真理を追求し続ける姿は科学者の鑑であり、私もそのような研究活動を続けていきたいと思っています。

解説

写真1:光マイクロマニピュレーション

図

解説1:プラズモニックアンテナのナノ空隙へ色素分子ナノ粒子の捕集と固定

ナノサイズの金の空隙を最先端微細加工技術により作製(図1)。光を照射すると光がナノ空隙に絞り込まれ閉じ込められて、極めて強い光のスポット(絞り込む前の1万倍以上の明るさ)を形成し、液体中に漂うナノ粒子を引き寄せ、ナノ粒子をナノ空隙に非接触で捕集した。光の照射で温度が上昇した金ナノ空隙構造は、光圧で捕集したナノ粒子をわずかに溶かして接着し固定することを可能とした。

図