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ますます多様化する無線通信の利用範
限られた周波数資源を有効利用するシステムの開発

写真:博士(工学) 西村 寿彦

情報科学研究院
メディアネットワーク部門  情報通信システム学分野
インテリジェント情報通信研究室・准教授

博士(工学)西村 寿彦

プロフィール

1994年北海道大学大学院理学研究科修士課程了。1997年同大学院工学研究科博士後期課程了。1998年、同大学院・工・電子情報・助手。2004年、同大学院・情報科学・メディアネットワーク・助手。所属学会はIEEE、電子情報通信学会。2000年に電子情報通信学会学術奨励賞、2006年に電子情報通信学会論文賞を受賞。

5Gのさらに先を見据えた無線通信技術の研究

インテリジェント情報通信研究室ではどのような研究を行っているのですか。

西村 2020年、情報通信の分野は第5世代(5G)の時代に入りました。5Gは4Gに比べ通信速度は20倍、遅延は10分の1、同時接続数は10倍以上になると言われています。

こうした大容量・高速通信を実現するものとして、MIMO(マイモ:multiple-input multiple-output)と呼ばれる技術が採用されています。MIMOは、送信側・受信側それぞれに複数のアンテナを設置し、同時に複数の信号を送受信する技術です。5Gでは、さらに大規模化した「大規模MIMO(マッシブマイモ)」が導入されます。基地局に100素子あるいはそれ以上のアンテナを設置し、受信端末も100素子程度(1〜2素子のアンテナを内蔵した携帯端末が50〜100台)となるネットワークです。
大規模MIMOについての解説はネットジャーナル26/大鐘武雄教授インタビューをご参照ください

では、これからの10年はどのような無線通信技術が求められるかというと、個人が利用するスマホやタブレットだけでなく、マシン同士が通信するIoTの普及、災害や緊急時に対応した臨機応変な通信体制、今まで電波が届きにくかったエリアでもストレスなく使える通信環境の整備など、さまざまな用途や目的で使われる通信技術が考えられます。

私たちの研究室では、そうした時代のニーズに応じたより便利で安定した通信方式の研究・開発を行なっています。主な研究テーマは「高度デジタル無線通信システムの信号処理」で、携帯端末や無線LANなどの無線通信技術をより高性能・高効率にするための信号処理手法について研究しています。

大小さまざまなアンテナが協調することで多様な環境に対応

現在取り組んでいるのはどのような研究ですか。

博士(工学) 西村 寿彦

西村 まずひとつは、分散アンテナシステム(解説1)です。大規模MIMOは複数のアンテナを基地局に置く想定ですが、分散アンテナシステムでは、セル(電波の届くエリア)内に複数のアンテナを分散して配置させます。アンテナを基地局に集中させず、よりユーザーに近い場所に置き、各アンテナが協調することで幅広いエリアの通信をカバーします。例えば、お祭りやイベントで一時的に多くの人が集まる場合や、競技場など限られたエリアで多くの人がスマホを利用する際に有効なのが分散アンテナシステムです。

遠くまで電波が届く基地局アンテナと違い、分散アンテナシステムではユーザーが複数のアンテナを渡り歩く形になるため、移動中に電波が途切れたり通信の質が落ちたりしないよう送受信の安定性を図る必要があります。そこで重要になってくるのが電波の到来方向推定です。これは電波がどの方向から発信されたかを推定するもので、これにより端末の位置を検出することができます。

私たちの研究室では、電波到来方向の推定に「圧縮センシング(解説2)」という手法を用いています。圧縮センシングとは、必要とする未知数の数よりも少ない観測データから、ある条件下で解を求める手法です。圧縮センシングは1990年代から研究されており、近年は医用画像の解析などによく使われています。私たちは無線到来方向推定にも圧縮センシングが適用できると考え、研究を進めています。

到来方向推定が可能になると、端末が移動する先の電波の状態を予測ができるようになり、発信側で周波数や出力を調整することが可能になります。これにより、端末の位置や移動の方向を把握したり、自動車や列車など高速で移動する時にも電波の状態を常に良好に保つことができます。

多様化する用途や目的に応じた新技術の開発を目指して

今後はどのように研究を進めていく計画ですか。

博士(工学) 西村 寿彦

西村 現在注目しているのは、軌道角運動量を利用した「OAM(Orbital Angular Momentum)多重伝送技術(解説3)」です。OAMは進行方向に対してらせん状に電波が進む状態で、らせんの回転度合いを変えることで複数の電波を重ね合わせて送信することができ、原理的には従来よりも多くの情報を同時に伝送することが可能になると考えられています。

MIMO技術と組み合わせるとより効率的な通信ができると考えられ、各端末での送受信には分散アンテナシステムを使い、基地局から回線ネットワークへのバックホールをOAMで担うといった使い方が想定できます。すでに大手企業を中心に、バックホール回線の大容量化を目指した開発が進められています。

これからの無線通信は、高度な通信を必要とする場面がさらに増えていきます。個人が使うスマートフォンやタブレット以外にも、センサや防犯カメラなどにも無線機を搭載してネットワークに接続するIoT、自動車の自動運転、災害現場で働くロボットなど用途や目的も多種多様になり、そこで求められる通信の品質や精度もさまざまです。利用できる周波数や帯域には法的・物理的な限界があるので、そこを補うためにはアンテナの大きさや数、配置の工夫、アンテナ同士や端末との協調、さらにはOAMといった新しい多重伝送技術などの重要性がますます高まります。現在のように基地局は固定されたものだけではなく、ドローンにアンテナを載せて電波状況の悪い地域の上空に飛ばすなど、基地局自体が移動することも考えられるでしょう。

私たちの研究室では、こうしたニーズに応えるべく、先進的な研究を行っていきたいと思います。無線通信は人々の暮らしや利便性を支える社会的インフラのひとつであり、その将来性には大きな期待がかけられていると感じています。

解説

解説1:分散アンテナシステム

鉄塔の上などにある基地局は遠くまで大出力でカバーできる(集中アンテナシステム)。大規模MIMOでは、大量のアンテナ素子を基地局に設置することになるが、1か所に集中的に配置するより、分散して配置させる(分散アンテナシステム)ことで、減衰の大きな高い周波数帯でもセル内をくまなくカバーできる。

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解説2:圧縮センシング法を用いた電波の状態推定

受信機の周囲を細かい角度に分割し、各角度において到来波があれば複素振幅を(到来波がなければゼロを)ベクトルの要素とすることで圧縮センシングのアルゴリズムを適用する。

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解説3:OAM(Orbital Angular Momentum)多重伝送技術

異なるOAMモードを持つ複数の電波を伝送することで、同時に送信するデータ信号の数(多重数)を増加させる技術。従来、電波の位相が平面に伝わるモードを利用することが一般的だったが、電波の進行方向の垂直平面上で位相が回転しながららせん状に進行するOAMモードを使用する。位相の回転数(OAMモード)の違う電波に異なる情報をそれぞれ同時に送ることができる。

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