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人間や社会と調和するAIの可能性を追求
多様な分野の企業との共同研究にも取り組む

写真:博士(工学) 山下 倫央

情報科学研究院
情報理工学部門  複合情報工学分野
調和系工学研究室・准教授

博士(工学)山下 倫央

プロフィール

2002年3月北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻博士後期課程期間短縮修了。2003年4月独立行政法人産業技術総合研究所サイバーアシスト研究センター特別研究員、200年同所情報技術研究部門研究員、2011年同所サービス工学研究センター研究員、2016年国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター主任研究員、同所情報・人間工学領域研究戦略部研究企画室企画主幹を経て、2017年2月より北海道大学大学院情報科学研究科准教授。情報処理学会、人工知能学会、日本オペレーションズ・リサーチ学会会員。

社会と調和するAI技術の開発と実装

調和系工学研究室ではどのような研究を行っているのですか。

山下 調和系工学研究室では、AI(人工知能)、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、マルチエージェントシステム等に関する研究を行なっています。本研究室のコンセプトは「調和」という言葉が表すように、技術を世に出すときに社会との調和を考えることです。技術そのものを高度化するだけでなく、社会が求める機能や運用の仕方、達成すべき満足度などを把握・考慮し、それに適したソリューションやサービスを実現していく。それが本研究室の基本スタンスです。

社会との接点が多い研究なので、企業との共同研究が非常に多いことも特徴のひとつです。連携先も幅広く、IT・通信、エネルギー関連、流通・小売など多様な業種と共同研究を行っています(図01)。このため、本研究所で学ぶ学生は、高度なAI技術を習得すると同時に、社会との関わりをつねに意識する姿勢を身につけることができます。

AI技術を導入したサービスの実施手順にはいくつかのプロセスがあります(図02)。従来の業務や作業をAIで解析・評価するだけでなく、サービス全体の設計から運用までを考えた上で、現場でのデータ収集、データ前処理、モデルや学習方法、指標・UIの見直しなど、さまざまな段階にどのような課題があるかを検討する必要があります。AIでの解析・評価の精度だけを高めても、ユーザーの満足につながるサービスが提供できるとは限りません。極端な話、AIを使わなくてもユーザー満足度を高めるやり方があるかもしれないのです。私たちはAI技術を基盤としつつ、同時に社会に求められているサービスやソリューションがどのようなものかを見極め、それを実現するためにAIをどのように活用すればいいかを追求しています。

人間の「楽しみ」をサポートするサービスの提供

社会と調和したAI技術とは具体的にどのようなものですか。

博士(工学) 山下 倫央

山下 ユーザー満足度にフォーカスした開発の一例として、AIを使った競輪予想記事の自動生成があります(解説01)。競輪は経済産業省が監督官庁の民間参入が許されている公営ギャンブルですが、車券購入サイトは初心者には解りにくく、新規ファンの獲得に苦戦しているそうです。そこで、初心者の車券購入をサポートできるよう、AIがレース結果を予測して、レース予想記事を自動生成するシステムを開発しました。

本研究では過去数年分のレース結果と選手情報から深層学習でレース結果を予測します。サイト運営会社と検討を重ねた結果、レース結果の的中率よりも、サイト読者が楽しめるコンテンツを提供することを目的としました。単に「当たりやすい」だけでなく、「そこそこ当たりやすく」「オッズも高め」といった回収率(払戻金額÷投票金額)を高めることを重視した設計になっています。

もうひとつはAI俳句です(解説02)。短い.章で状況を的確に表現できるAI文書作成の先進的技術開発の一環として、俳句候補の生成 → 選句 → 推敲 というプロセスの構築を目指しています。

AI俳句は人工知能技術を用いて俳句を生成するという試みを通じて、人間の俳句を作るプロセスを理解することや俳句を通じて人間の知能を理解することが大きな目標です。

俳句は「感性」や「独創性」が求められる分野ですので、「AI」と聞いただけで拒否反応を示す人も中にはいます。しかし、私たちとしては俳句の出来不出来を人間と競うのではなく、俳句の新しい楽しみ方を提供できるような運用を考えています。例えば、AIが作った俳句をみんなで評価したり、たくさんある句の中からAIの作品を特定するなど、俳句に親しむためのイベントの素材として活用することなどが考えられます。小林一茶の句をAIに学習させ、現代の東京の姿を見て一茶ならどんな句を詠むか試してみる、そんな遊び方も面白いと思います。

現状の課題解決や未来社会の構築に貢献

AIのメリットを生かした技術開発にはどのようなものがありますか。

博士(工学) 山下 倫央

山下 北国のニーズにマッチした技術として、北海道ガス株式会社と共同研究で開発したロードヒーティング制御システムがあります(解説03)。従来型の降雪センサー制御では、壁に取り付けた水分検知型のセンサが雪の水分を検知してボイラーを動かしますが、これは本来の目的である路面の雪の状態を考慮していないため、うまくいかないケースが多々あります。雪を完全に融かそうと長めにボイラーを動かしてしまい、その分運転コストがかかってしまうのです。そこで本研究では、カメラで路面を撮影して積雪の有無を判定し、ボイラーの燃焼時間をコントロールしています。この技術は現在、北大発認定ベンチャー企業ティ・アイ・エル株式会社(https://tilab.jp/)により「AI Road heating optimizer(AI ロードヒーティングオプティマイザー)」という製品名で販売されています。

さらに、現在開発を進めているテーマの一つにAIによる「譲り合う自動運転技術」(解説04)があります。これは、交差点や合流シーンで自動車同士がお互いに“ゆずりあい”、円滑な運転を実現するものです。人間のドライバーはあうんの呼吸のように譲り合っていますが、どのような状況の場合に、どちらがどのタイミングで動くかと言ったことをルール化するのは難しい。そこで、自動車同士がコミュニケーションを取りながら、次にどうするのかという行動をAIの選択肢に委ねています。社会全体の安全と効率を目的関数として与えてディープラーニングで学習させると、AIは自分が優先の場合でも譲ってあげることができるようになります

社会システムや私たちの価値観が大きく揺らぐような現代にあって、社会との調和を目指した技術開発はどのようにあるべきだと思いますか。

山下 社会のあり様が大きく変わりつつある現在、企業が新しいことを始めるときに、大学とのパートナーシップを求めるケースが増えていくのではないかと考えています。2017年、札幌市が札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアムのもとに設立した「Sapporo AI Lab(札幌AIラボ)※」は、企業に向けて、大学との共同研究に関する情報発信や産学連携・企業提携プロジェクトのコーディネート、ソリューション開発の提案などを行っていますので、こういう機関や機会を積極的に利用することも有益でしょう。

昨今は、開発段階から積極的に情報公開し、コンプライアンスやプライバシー、ハラスメントなどの社会問題を未然に防ぐことが求められています。特にAIは倫理に関する課題を含むケースが多いため、大学との協力関係を築くことで情報公開と公正な判断を担保することができるのではないかと思います。

※本研究室の川村秀憲教授が札幌AIラボ長を務め、山下倫央准教授と横山想一郎助教がテクニカルメンバーとして参加している

解説

図01:調和系工学研究室の共同研究・プロジェクト

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図02:AI技術を導入したサービスの実施手順

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解説1:人工知能による競輪予想記事の自動生成システム「AI-win(アイウィン)」

予測AIと説明AIを組み合わせて、文テンプレートに条件に応じた<文字列><選手名><予測順位>を当てはめることによって、必要な情報を含む、人の作る記事に劣らない品質の予想記事をAIに自動生成させ、車券購入サイトに提供する。本共同研究は2018年10月17日からAI競輪予想サービス「AI-WIN」として実用化されている。情報処理学会より2019年度山下記念研究賞、人工知能学会より2019年度研究会優秀賞、The 22nd Asia Pacific Symposium on Intelligent and Evolutionary SystemsよりBest student paper(2018) を受賞。

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解説2:AIによる俳句の自動生成

俳句候補の生成→ 選句→ 推敲というプロセスの構築を目指す研究で、学習用の俳句データとして古典俳句:小林一茶(2万句)、近世俳句:正岡子規、高浜虚子(3万句)、現代俳句:作者多数(数十万句)をベースに、Long Short Term Memory(LSTM)による俳句の学習と生成を行い、生成した俳句群からより良い俳句を選ぶ選句を行う。テレビの俳句番組や地方の俳句会などにも参加している。

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解説3:畳み込みニューラルネットワークによる積雪状態の認識とロードヒーティングの制御

カメラ・マイコンを内蔵したコントローラーで、画像AIにより路面の積雪状態を判断し、ボイラー運転状況を制御。融け残りを防止しつつ運転時間の削減が可能となっている。札幌市内の病院来客用の駐車場にてボイラ運転時間(=燃料代)を46.7%削減することを確認した(※場所によって最大85.7%の消費エネルギーを削減)。転用可能なソリューションとして雪下ろし作業が必要な屋根やスプリンクラーの制御、太陽光発電パネルのメンテナンスなどが考えられる。

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解説4:Deep Q Networkによる譲り合うRCカーの自動運転

自動運転の合流シーン等で他車両の行動を察知し、“ゆずりあい”により円滑な運転を実現する。実験では、ラウンドアバウト(環状交差点)を再現したコースにラズベリーパイ3を搭載した電動ラジコンカーを走らせ、Deep Q Learningを導入して学習させる。ゆずりあいができた場合に一連の行動に報酬を付与。ゆずりあいによる交通流量の向上も確認した。

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