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音響信号処理による位置推定・通信技術の追求
汎用的なデバイスを活用した基盤的技術の研究開発

写真:博士(情報科学) 中村 将成

情報科学研究院
情報理工学部門  数理科学分野
情報数理学研究室・助教

博士(情報科学)中村 将成

プロフィール

2016年3月、北海道大学大学院 情報科学研究科 情報理工学専攻 博士前期課程修了
2018年3月、同後期課程修了
2016年4月〜2020年3月、三菱電機株式会社 情報技術総合研究所
2020年4月より現職

数理的な手法を用いてコンピュータに関する現象を解析

情報数理学研究室ではどのような研究をしているのですか。

中村 私たちの研究室の研究目的は、「コンピュータに関する現象を科学する領域の中で、工学的対象を数理的な手法によって解析し、その構造とメカニズムを解明する」ことです。研究室では「作用素論(線形関数解析学・摂動理論)」「非線形関数解析学」「数理論理学」「代数(圏論)」「ファジイ理論」などを道具立てとして、画像信号処理や音響信号処理、新しい理論体系の構築、ファジイ情報処理などのさまざまな研究を行っています。

私はその中でも特に、音響信号を用いた位置推定やスポット通信について研究しています。位置推定やスポット通信と聞くと、GPSやETCを思い浮かべる方もいるかと思います。これらは屋外での利用を想定したもので、電波を使用しています。一方で、私の研究では屋内での利用をターゲットとしています。屋内のような比較的スケールの小さい環境では、電波と比べて伝搬速度の遅い音波のほうが適しているため、非可聴な音響信号を用いた手法を中心に研究を進めています。

音響信号を使うことのメリットの一つとして、市販のオーディオ用スピーカやマイクを使用できることが挙げられます。そのため、例えばスマートフォンに搭載されているスピーカ・マイクや、オフィス・商業施設等に設置されている放送用のスピーカを活用でき、システムの導入にかかる費用を低減できます。こうした、すでにあるセンサ群を活用することで、誰もが簡易に利用できる技術を提案し、よりスマートな社会の実現に貢献することを目指しています。

スピーカ特性を活かすことでスピーカ1台のみでのマイクの位置推定を実現

具体的にどのような研究を行っているのですか。

博士(工学)伊藤 敏彦

中村 まず、音響信号を用いた屋内での位置推定についてご説明します。スマートフォン内蔵のマイクを介して位置推定する場合、一般に、複数のスピーカから音を出し、これらの受信時刻の差から位置を計算します。このような手法では数cm級の高い精度を得ることができますが(解説1)、例えばスピーカが1台しかない場合、受信時刻の差が計算できないため、この手法が使えません。この場合、新たなスピーカの設置が必要となり費用が高くなるという弱点があります。そこで最近、1台のスピーカでマイクの位置推定が可能な手法を提案しました。この手法は、基礎的な計測を通じて新たに得られた「スピーカ1台であっても、方向によって音色が異なる」という知見に基づき位置を推定するものです(解説2)。この技術を応用すれば、汎用的なスピーカ1台でのスマートフォンの位置推定が可能になると考えています。

次にご説明するのは、スポット通信の研究です。スポット通信とは狙ったところだけに情報を送信する技術です。ETCでは、料金所のゲートに設置されたアンテナと自動車との間で電波を用いて情報をやりとりしますが、私は音波を使ったスポット通信手法を提案しています(解説3)。
スポット通信では一般に、スポット外での信号を抑圧することでスポットを生成します。しかしこの場合、専用の送信システムが必要となり、相応の費用がかかります。そこで、汎用スピーカ2台で狙ったところだけへの情報送信が可能なスポット通信手法を提案しました。1台のスピーカから通信用の信号を、もう一台から妨害用の信号を送信することで、汎用スピーカ2台でのスポット通信を実現しています。この手法には、スポットの生成に1秒ほどの時間を要するという欠点がありましたが、最近の改良により所要時間を1/5ほどに低減できることがわかっています。提案手法はスマートフォンの内蔵マイクにも適用できるため、駅の改札やオフィスビルのゲートなどのETC化に応用でき、人の移動のシームレス化に貢献できるのではと考えています。

工学的な現象を数理的に解析することの重要性

企業との共同研究や今後の展開についてお聞かせください。

博士(工学) 伊藤 敏彦

中村 現在、複数の企業と共同研究を進めています。研究テーマは様々ですが、これまで位置推定や通信の研究を通じて培ってきたセンサ信号処理等の知見を生かしてお役に立てればと考えております。

私は2016年から4年間、電機メーカーの研究所で研究開発に従事しました。そのなかで、高性能なものづくりのためには、現象や手法の数理的なメカニズムを正確にとらえ、狙い通りに動作する条件や限界を明らかにしておくことが重要であると改めて感じました。また、対象を抽象化してとらえておくと、異なる分野の問題へ容易に応用できたり、新たな着想につながりやすいというメリットもあります。今後も、位置推定や通信を含む信号処理技術を中心として、対象の数理的構造についての理解を深めながら、研究を進めていきたいと考えています。

解説

解説1:複数のスピーカによる短時間信号を用いたマイクの屋内位置推定

マイクの位置は、複数のスピーカから送信された信号の受信時刻の差から計算できる。位置推定を高速に行うには、短い信号を使うことが望ましいが、信号を短くすると信号間の干渉が大きくなり、位置推定性能が低下するという課題がある。提案手法では、部分的に干渉が生じない領域が生じる送信信号を考案し、この領域を検出して位置推定することで、短時間信号を用いた場合の位置推定性能を改善した。

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解説2:単一のスピーカを用いたマイクの屋内位置推定手法

提案手法では、基礎的な計測を通じて得られた「スピーカの周波数特性の振幅成分が方位毎に異なる」という知見に基づき、マイクの方位を推定する。受信振幅を用いて距離を推定し、方位と統合することで、1台のスピーカによりマイクの2次元位置を推定する。種別の異なる2種類のスピーカのそれぞれにおいて実環境での性能評価を行い、その誤差の90パーセンタイル値が0.265mとなる位置推定が可能であることを示した。

図

解説3:2台の汎用スピーカを用いた短時間かつ適応的なスポット通信手法

提案手法では、一方のスピーカから通信用の信号を、他方のスピーカから妨害用の信号を送信することでスポットを生成する。そのため、汎用のスピーカが2台あればスポットを生成できる。送信信号には周波数の異なる二つの正弦波からなるシンボルを用いる。スポットの幅と方向は、周波数差と送信時刻によりそれぞれ制御できる。また、互いに直交する正弦波を用いてシンボル群を構成すれば、複数のスポットを干渉なく同時に生成することができる。このとき送信する情報を各スポットに振り分ければ、これらのスポットが重畳する領域でのみ情報を受信できる(重畳スポット)。提案手法では、2回のシンボル送信によりスポットが生成できるが、1回目の送信シンボルを用いてマイク位置を推定し、この位置情報を2回目のシンボルに反映すれば、マイク位置に応じて適応的にスポットの位置を変更することもできる。

図