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非線形ラマン散乱を駆使した内視鏡の開発で
医療現場での診断・治療の新技術確立を目指す

写真:教授・博士(学術) 橋本 守

情報科学研究院
生命人間情報科学部門 バイオエンジニアリング分野
人間情報工学研究室・教授

博士(学術)橋本 守

プロフィール

1991年3月、大阪大学大学院工学研究科 応用物理学専攻 修士課程終了。1997年6月、東京大学大学院総合文化研究科 論文博士。1991年4月〜1996年3月、神奈川科学技術アカデミー 濵口「極限分子計測」プロジェクト研究員。1996年4月〜1997年7月、徳島大学工学部機械工学科 助手。1997年8月〜2003年3月、大阪大学大学院基礎工学研究科システム人間系専攻(助手、講師、助教授)、2003年4月〜 2016年9月、大阪大学大学院基礎工学研究科 機能創成専攻 生体工学領域 准教授。2016年10月より現職。

生体を染色することなく
細胞や神経をリアルタイムに観測

人間情報工学研究室ではどのような研究をしているのですか。

博士(学術) 橋本 守

橋本 本研究室では、医療に貢献することを目標とした工学技術の研究開発を行っています。診断・治療の高度化・発展に役立つ技術として、光や超音波を用いた応用技術の開発に取り組み、光によるイメージング技術の研究を行うPhotonicsグループと、超音波やマイクロバブルを用いた治療技術の開発に取り組むUltrasoundグループがあります。

私が主に取り組んでいるのは、非線形ラマン散乱を利用したイメージングシステムの開発で、このシステムを搭載した硬性内視鏡を制作し、病変部を観察・分析する技術の確立を目指しています。
背景にあるのは、がんなどの診断・治療の際に使われる蛍光イメージングシステムの抱える課題です。蛍光イメージングは、特定の蛍光色素が生体構造に集積するという性質を利用した観察方法で、がん細胞などを判別するのに使われ、手術中にがん細胞を光らせて位置や大きさを把握することもできます。

しかし、生体を染色することにはリスクがあり、特に微細な末梢神経を識別することは容易ではありません。外科手術において、健全な神経を温存することは術後のQOL(quality of life)に大きく影響するため、神経の可視化は重要な課題となっています。
一方、ラマン散乱は、分子の振動エネルギーにより入射された光の波長とは異なる波長に散乱する現象を利用したもので、染色を行わずに分子種や分子構造を可視化できる技術です。化学分析や物理化学研究、半導体物性研究などに用いられるほか、近年は生体観測にも応用されています。細胞を染色する必要がないため人体へのリスクが少なく、分子レベルの構造を解析する手法として有効です。しかし、自発ラマン散乱は非常に微弱であるため、そのイメージをリアルタイムに観測することは困難でした。
私たちが取り組んでいるのは、同期超短パルスレーザーを使った非線形ラマン散乱現象(CARS:Coherent anti-Stokes Ramanscattering)を利用し、リアルタイムにラマンイメージを観測できる硬性鏡の開発です。超短パルスレーザーは顕微鏡による分析にはよく使われていますが、医療現場に応用される例は非常に少なく、生体分子を無染色かつ高速に分別可視化する技術の開発は、従来になかった検査・診断方法につながると考えています。

超短パルスレーザーを駆使した非線形ラマン硬性鏡
AIを活用して高度化・高速化を実現

非線型ラマン散乱を活用した内視鏡はどのような仕組みなのでしょうか。

博士(学術) 橋本 守

橋本 直径12mm、全長270–550mmの硬性鏡で、ラットの坐骨神経を使った実験では、サンプルから発生したCARS信号を測定し、神経などの像を可視化することに成功しています(解説1)。撮像のための露光時間は数分程度で、従来の自発ラマン散乱用いた場合(30分程度)に比べるとかなり高速化しています。撮影した画像を判別するためにAI(人工知能)の技術を活用し、更なるイメージング速度の高速化を図っています。

リアルタイムなイメージングを実現するには、さらなる時間短縮が必要なため、AIのノイズリダクション技術も取り入れました(解説2)。CARS内視鏡では、対物レンズのNA(開口数)を大きくできないこと、また、CARSの後方散乱光を取得するためにS/N(信号と雑音の比率)が悪く、撮像速度が制限されるという問題がありました。
AIノイズリダクション技術は、撮像時間の短い高ノイズ画像からノイズを除去し、低ノイズ画像の復元を行うものです。これまでのイメージングでは画像1枚を得るのに分オーダーの露光時間が必要でしたが、ノイズリダクションにより数秒程度の露光時間でも、十分に高画質な画像を得ることができるようになりました。

胃カメラの鉗子孔に挿入可能な
ラマンプローブの開発

今後の研究計画についてお聞かせください。

博士(学術) 橋本 守

橋本 現在取り組んでいるのは、光ファイバーバンドルを用いた非線形ラマン散乱内視鏡の開発で、胃カメラへの搭載を想定しています。現在使われている胃カメラは、空間分解能が十分ではありません。近年は、プローブ型共焦点レーザー顕微内視鏡が登場し、検体標本の病理像と同等レベルの観察が可能になっていますが、蛍光色素を使った検査は安全性に問題があると言われています。
そこで、蛍光色素を使わない観測手法としてCARS顕微内視鏡の開発を行っています(解説3)。胃カメラの鉗子孔(直径2-3mm)に挿入可能なラマンプローブを開発し、2色のレーザーを同時照射することで非線形ラマン散乱現象を観測します。
CARS顕微内視鏡の実現にはひとつ大きな問題点がありました。光ファイバーの中でレーザーが四光波混合を起こし、CARS光検出を妨害するというものです。これに対し私たちは混合を削減する手法を提案し、四光波混合を1/3200まで縮減可能であることを実証しています。

非線形ラマン散乱を用いたイメージングの原理的な立証はできたのですが、医療現場で使用するにはさらなる改良が必要です。光源やレーザー照射装置の小型化、開発・導入コストの低減、医療機器としての承認などさまざまなハードルがありますが、CARS内視鏡が内視鏡外科手術の新しい眼となることを期待し、実用化を目指してさらなる研究開発を続けていきます。

これらの研究にはさまざまな知識や技術が必要です。光学・分光学やレーザーの知識・技術をはじめ、内視鏡を試作する工学的技術、医療現場への応用展開、さらにはAIの利用など複数の分野にわたる領域です。容易に達成できない目標もありますが、新しい技術や装置の開発で医療に貢献したいという意欲を持った学生に期待すると同時に、医療の専門家と対等に話ができるエンジニアに成長してくれることを願っています。

解説

解説1:非線形ラマン散乱硬性内視鏡

内視鏡下手術支援ロボットに対応する直径12mmのCARS内視鏡を開発し、無染色な神経のイメージングに成功した。

図
非線形ラマン散乱硬性内視鏡
図
ラット坐骨神経の非線形ラマン散乱像(スケールバーは100μm)

解説2:AIによるバイオメディカル画像解析と光イメージング装置開発

CARS内視鏡画像のノイズリダクションのため、入力画像データ(高ノイズ)と同じ場所の教師画像データ(低ノイズ)のセットを取得。AIが最初にCARS顕微鏡画像を学習し、その後CARS内視鏡画像を学習し直すという転移学習を行った。その結果、8.6秒露光により得られた画像が、およそ42秒露光の画像レベルに復元できることがわかった。左は観測像。右はAIによる復元像。

図

解説3:光ファイバーバンドルを用いた非線形ラマン散乱内視鏡の開発

従来の胃カメラは空間分解能が十分ではないという課題や、色素(フルオレセイン)の静脈投与に対する安全の問題などを解決するべく、胃カメラの鉗子孔に挿入可能なプローブ型共焦点レーザー顕微内視鏡を開発している。左は光ファイバーバンドルで発生した4光波混合を示し、この発光を開発手法によって削減した(右図)。

図