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セクターカップリングによる
新しいエネルギーシステムへの取り組み

写真:教授・博士(工学) 北 裕幸

情報科学研究院
システム情報科学部門 システム融合学分野
電力システム研究室・教授

博士(工学)北 裕幸

プロフィール

1988年、北海道大学大学院工学研究科修士課程修了。1989年、北海道大学大学院工学研究科博士後期課程中退。1989年、北海道大学工学部 助手。1995年、北海道大学大学院工学研究科 助教授。2004年、北海道大学大学院情報科学研究科 助教授。2005年、同 教授。2012年、同 副研究科長(教育担当)。2014年、同 副研究科長(総務・研究担当)。2018年、同 研究科長。

カーボンニュートラルを目指し
電力系統の限界を突破

電力システム研究室で行っている研究にはどのような社会的背景があるのでしょうか。

博士(工学) 北 裕幸

北 2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。この宣言を受け、わが国の脱炭素化へ向けた流れが一気に加速しており、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電力系統への大量導入が期待されています。しかし、太陽光発電や風力発電は間欠的な出力変動特性を持ち、また出力を制御することも難しいことから、電力系統全体の需要と供給(=発電)のバランスが取れなくなるという問題があります。その解決策として、電気エネルギーを化学エネルギーの形態に変換して蓄える蓄電池を活用するという考え方があります。

ただし、蓄電池は低価格化が進んできてはいるものの依然として高価であることから、蓄電池に代わる対策も求められています。その一つとして、需要家側の応答・制御を期待するという考え方(デマンドレスポンス)があります。具体的には、再エネの発電量が予定よりも減少したとき(発電<需要)には需要も一緒に減らし、再エネの発電量が予定よりも増加したとき(発電>需要)には需要も一緒に増やすことで需要と供給のバランスを保とうとするものです。 とはいえ、単に電力需要を変化させるだけでは、需要家に不便や不快を強いる可能性があるため好ましくありません。無理なく需要を調整できるものが求められます。

需要家は、電気、熱、ガスといったエネルギーキャリアそのものを求めているわけではなく、安価で安定に「サービス」が提供されていれば、そのサービスがどのエネルギーからどのように提供されているかについては重要とは考えない傾向にあります。複数の代替エネルギー手段があれば、そのポートフォリオ(組み合わせ)を適切に調整することによって、需要家に不便・不快を与えることなく柔軟にデマンドレスポンスを需要家側から引き出すことができる可能性があります。これは、電気エネルギーを扱うセクターに、他のセクターの持つ優れた特性を融合(カップリング)することによって、電力系統の限界を突破しようとする考え方であり、一般に「セクターカップリング」と呼んでいます。

電力と熱を融合することで
エネルギー需給のバランスを適正化

セクターカップリングの具体例にはどのようなものがありますか。

博士(工学) 北 裕幸

北 まず、都市ガス・LP ガスを燃料とし自宅で発電できるコジェネレーションシステム(以下、コジェネ)を家庭内に導入した例があげられます(解説1)。家庭内の電力需要は、電力会社からの商用電力とコジェネからの電力で賄い、熱需要はコジェネからの排熱とガスボイラ(バックアップ熱源機)からの熱で賄うものです。実際には電力需要そのものは変化していないにもかかわらず、コジェネの出力を調整すれば電力系統側からは電力需要が増えたように見えます。

一方、ヒートポンプとコジェネの両方を並列につないで電力と熱を供給するシステムでは、ヒートポンプとコジェネの割合を変えているだけであり、トータルの熱需要は変わっていません(解説2)。このように、ヒートポンプとコジェネの分担割合を変えるだけで、電力系統から電力が出たり入ったりし、蓄電池と同様の効果を得ることができます。これも熱需要に対して複数の供給手段があることを利用して、熱需要に影響を与えることなく電力系統から見た電力需要を調整していると考えることができます。

従来は、電気は電力会社、熱はガス会社と個別に供給され、他のセクターと組み合わせて利用する考え方は一般的ではありませんでしたが、電気も熱もひとつの大きなエネルギーシステムとして捉え、それぞれが協調してサービスを提供できるようになればエネルギー需給のバランスをコントロールしやすくなると考えられます。

地域マイクログリッドを活用したエネルギーマネジメント

セクターカップリングは今後どのように発展すると考えられますか。

博士(工学) 北 裕幸

北 近年、電力系統と一点で連系し、地域の中に存在する再エネの電力を地域の中の需要家群が消費する、地産地消型のエネルギーシステムに注目が集まっており、これを地域マイクログリッド(MG)と呼んでいます。地域MGは、供給側と需要側が近接しているため、熱配管等を通して熱エネルギーを供給することも重要な機能となります(解説3)。電気エネルギーシステムが、熱エネルギーシステムや水素エネルギーシステムとセクターカップリングされ、全体のシステムを一体化して最適化することによって、より柔軟に多くのデマンドレスポンスを調達できることが期待できます。

また、脱炭素化への動きが加速するにつれ、将来的にはガソリン車から電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)に取って代わるものと予想されます。しかも、個人が所有・運転するのではなく、カーシェアリングやバスなどのシェアモビリティを主体とする形態(Mobility as a Service(MaaS))へパラダイムシフトしていく可能性が高いと考えられます。
以上のような背景から本研究室では、シェアリングされたEV群の利用予約対応や自動運転といった車両の移動マネジメントと、地域MG間のエネルギー融通を含めたエネルギーマネジメントとを協調計画する手法(“EV and Energy” Management System、E2MS)の開発を行っています(解説4)。


供給側についても同様に、セクターカップリングすることによって新しいエネルギー供給の姿を模索することが可能となります(解説5)。火力発電所から排出されるCO2を回収し、再エネから製造されたグリーン水素と合成することでメタン(以下、合成メタン)として利用する方法です。再エネの余剰電力からグリーン水素を製造する水素エネルギーシステムや、CO2と水素から合成メタンを製造するガスエネルギーシステムを考慮し、電気エネルギーシステムとカップリングして全体として最適化することで、供給側のカーボンニュートラルを実現するための新しい解が得られる可能性があります。本研究室では、こうした点についても研究を行っています。

本研究室はカーボンニュートラルを前提とした研究を行っており、2050年には温室効果ガスの排出をゼロにすることを目指しています。2050年頃は、現在高校や大学で学んでいる学生の方々が社会に出て活躍する時代なので、今からカーボンニュートラルについて関心を持ち、社会の第一線で対応・対策に取り組める人材として成長してほしいと思います。

解説

解説1:家庭内コジェネレーションシステムの例

コジェネレーションとは、発電時に排出される熱を回収して給湯や暖房などに利用することができる発電設備で、産業用で大規模に使用されることの多いガスタービン、広く業務用として活用されるガスエンジンのほか、ディーゼルエンジン、蒸気タービン、さらに近年は燃料電池も使用される。この例の場合、家庭内の電力需要は、電力会社からの商用電力とコジェネからの電力で賄い、熱需要はコジェネからの排熱とガスボイラ(バックアップ熱源機)からの熱で賄う。コジェネの発電電力を低下させると、電力系統からは需要家の電力需要を満たすためにより多くの電力が需要家に流れることになる。

図

解説2:ヒートポンプ/コジェネレーション併用熱供給システム

ヒートポンプとは、少ない電気エネルギーで空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術。ヒートポンプの出力を増やし、コジェネの出力を減らすと、電力系統からこのシステムに電力が入る形になる。一方、コジェネの出力を増やし、ヒートポンプの出力を減らすと、このシステムから電力系統に電力が出ていく形になる。

図

解説3:地域マイクログリッド

下記の図は、地域内の電力需要、熱需要に対して地域MGを構成して供給している例を示す。地域内の熱需要は、ヒートポンプ、燃料電池(コジェネ)、ガスボイラによって供給することができ、それぞれが地域内の電力と直接的に、あるいは水素を媒介として間接的に関係づけられている。これにより、電力系統から眺めた電力需要を制御するために、蓄電池だけではなく蓄熱槽や水素タンクと言った熱や水素のバッファ装置(貯蔵装置)をも活用することが可能となる。

図

解説4:MaaSの概念を活用したMGの広域連携

エネルギーマネジメントにおけるEVの活用事例としてはこれまで、個人所有のEVに搭載されている蓄電池を電力系統に接続することで、昼間に発生する太陽光発電の余剰電力を蓄電池に充電し、太陽光発電の出力がない夜(点灯帯)には電力系統に逆潮流させる技術(再エネ電力の時間的なシフト)が中心だった。本研究ではそれをさらに一歩進め、シェアリングされたEV群の移動に基づく再エネ電力の空間的なシフトをも考慮している。例えば、再エネ>需要の地域MGにおいてEVに充電し、それを再エネ<需要の地域MGに「移動して」放電することで、電力系統の運用制約に縛られることなくEVを介して地域MG間で電力を融通することが可能となる。これにより、電力系統が停電している場合においても、EVが再エネ電力を蓄電池に積んで需要地まで移動して活用することができ、災害時のレジリエンシーの面からも好ましい地域MGを構築できると考えられる。このように、シェアリングEVの車両運行システムと複数のMG間のエネルギーマネジメントシステムとをセクターカップリングし、両者を一体として最適化することによって、MaaSやMGに新しい価値を創成することができるものと期待できる。

図

解説5:供給側のセクターカップリング

供給側のカーボンニュートラルを、電気エネルギーシステムの枠組の中だけで実現しようとすると、火力発電の割合を零にし、代わりに再エネを大量に導入するのが唯一の解となる。この場合、需給バランスを維持するために、大容量の蓄電池が必要になると共に、せっかく発電した再エネ電力を大量に抑制することも必要となる。本システムでは、火力発電所から排出されるCO2は、回収し再エネから製造されたグリーン水素と合成することで合成メタンとして利用する方法を提案している。

図