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人工知能の研究を通して
「人間の知能とは何か」を探求する

写真:教授・博士(工学) 野田 五十樹

情報科学研究院
情報理工学部門 複合情報工学分野
知能ソフトウェア研究室・教授

博士(工学)野田 五十樹

プロフィール

1992年、京都大学大学院工学研究科博士課程 単位取得退学。1992年4月〜2000年12月、電子技術総合研究所 主任研究員。1995年、博士学位取得。2001年1月〜2021年6月、産業技術総合研究所 主任研究員、チーム長、総括研究主幹。2001年4月〜2010年2月、北陸先端大 連携大学院助教授、2006年、同教授。2008年4月〜2009年3月、東京大学 客員准教授。2009年5月〜2014年3月、筑波大学 連携大学院教授。2010年4月~2016年3月、東京工業大学大学院 連携講座教授。2021年7月より国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 招聘研究員。2021年7月より北海道大学 大学院情報科学研究院 教授。2022年7月より国立研究開発法人理化学研究所 離散事象シミュレーション研究チーム 客員主管研究員。

人工知能同士の相互作用を解析する
マルチエージェントシミュレーション

知能ソフトウェア研究室ではどのような研究を行っているのですか。

博士(工学) 野田 五十樹

野田 知能ソフトウェア研究室は、コンピュータを動かすための最も重要な要素である「ソフトウェア工学」と、コンピュータの扱う情報をより知能的に発展させる「人工知能(AI)」の2つの技術を両輪として研究・教育を行っています。このような研究室は全国的にあまり多くはなく、「異分野の融合による新研究領域の創出」や「幅広く総合的な高等教育」を標榜している情報科学院の特徴のひとつです。

私は2021年に本研究室の教授に就任し、現在は主に人工知能の研究、中でも「マルチエージェントシミュレーション」の分野を中心に研究しています。マルチエージェントシミュレーションとは、人間に見立てた小さな人工知能(エージェント)をたくさん作り、エージェント同士の相互作用をモデル化して現実の社会問題に当てはめていく技術です。

マルチエージェントシミュレーションのベースとなっているのは、私自身が1992年から関わっている「ロボカップ」(解説1)です。ロボカップは、ロボットが自ら考えて動く自律移動型ロボットによる競技会です。最も有名なのがロボカップサッカーで、1997年に愛知県名古屋市で第1回世界大会が開かれ、小型ロボットが実際にフィールドで対戦する実機リーグ(小型、中型)と、実機は使わず仮想フィールド上で自律型システムが対戦するシミュレーションリーグが行われました。以後、毎年国内大会や世界大会が開催されています。
仮想フィールド上で11体のプレイヤーが相手チームと対戦するシミュレーションリーグでは、各プレイヤーは独立したエージェントとしてプレイし、相互にコミュニケーションをとりながらチームプレイを展開します。30年におよぶロボカップの歴史の中で、人工知能技術は目覚しく発展し、コンピュータ同士の対戦ではかなりレベルの高いゲームができるようになってきました。

とはいえ、機械用語を用いてロボット同士でプレイしているだけでは、本当の意味での「知能」とは呼べません。そもそも人工知能は人間の知能を再現することを目指した技術です。コンピュータの計算能力の向上により「ディープラーニング」を代表とする「機械学習」の手法が発達し、さまざまな課題を解決できるようになりました。しかし、人間が物事を理解・判断し、コミュニケーションを取ったり行動したりする能力は、単一の機構から生まれているものではありません。人工知能の研究は「知能とは何か」を考えることであり、そういう意味でもまだまだ未知の領域が広がっていると思います。

人や車の流れをシミュレーション・分析し、
災害や交通などの問題解決に生かす

マルチエージェントシミュレーションはどのような分野で使われていますか。

博士(工学) 野田 五十樹

野田 ロボカップサッカーのシミュレーション技術から派生した新たな研究領域として「マルチエージェント社会シミュレーション」が挙げられます。最初のきっかけは災害救助シミュレーションでした。1995年の阪神・淡路大震災以降、人の振る舞いや、それに合わせた救助活動の効率化などを目的とした災害避難シミュレーションの研究が活発化し、私たちの研究グループでも人流誘導のシミュレーション分析技術の研究に取り組みました。近年は、人流とSNS、人間関係ネットワークを組み合わせ、感染拡大との相関分析を行うCOVID-19感染シミュレーションも手がけています。

これらの技術を公共交通機関の効率的な活用に応用した都市交通シミュレーションの研究開発も行っています。その一例が「デマンドバス」のシミュレーションです。デマンドバスとは、一定の路線の決められた停留所で乗客を乗降させる通常の路線バスとは違い、利用者の要望に応じて乗降場所やルートを選ぶことができるサービス方式です。地方都市など人口が少ない地域では、少ない運用台数で利便性を確保できるデマンドバスの運用を検討する自治体が増えています。
私たちの研究グループでは、路線バスとデマンドバスの2つの運行方式のメリット・デメリットを評価するシミュレーションを行いました(解説2)。

これをもとに、公立はこだて未来大学や(株)NTTドコモなどと共同で、AI便乗サービス「SAVS」を開発。SAVSは、タクシー(デマンド交通)と路線バス(乗合交通)の長所を掛け合わせた、AIによるリアルタイムな便乗配車計算を行うサービスです。利用者が配車を依頼すると、クラウド上のAIプラットフォームが空き車両や最適な走行ルートをリアルタイムに計算し、刻々と変化する車両や人の状況に応じた走行ルートを瞬時に決定します。

2016年には、はこだて未来大学発ベンチャーとして株式会社未来シェアを設立し、これまで蓄積したノウハウを生かし、地方自治体などに向けてサービスを提供しています。

実際に動くシステムを作ることから
本質的な技術革新が生まれる

マルチエージェントシミュレーションは、今後どのように進展していくのでしょうか。

博士(工学) 野田 五十樹

野田 シミュレーションに関する研究では、前述の(株)未来シェア以外にも、他大学や研究機関、企業などと共同で社会シミュレーション・分析技術に関する研究や、マルチエージェント学習に関する研究を行っています。社会シミュレーションは、実社会に存在する災害や交通などさまざまな問題にアプローチする技術として非常に有効な技術だと思います。

それら諸問題の解決に人工知能を活用するには、「とにかく作って動かしてみる」ことが基本です。ロボカップも社会シミュレーションも、まずは実際に動くものを作ってみて、現実世界に当てはめることからスタートしました。最初はおもちゃのような簡単なシステムでしたが、動かしているうちにどこに問題があるのか、足りないものは何かといった課題が見えるようになり、しかも社会のさまざまな場面で必要とされる本質的な技術であることがわかってきます。誰も振り向かないテーマや誰も手をつけていない分野であっても、興味を持ち、小さな問題を発見したら、まずはそこに取り組んでみる。自分の手で作り、動かしながら問題の本質を実感し、やがては世の中を変えるような技術革新につながっていく。それが研究者の面白さであり、そんな研究者が自由に研究できる環境が大学なのだと思います。

解説

解説1:ロボカップ(RoboCup)

ラジコンのような人の操作によって動くロボットではなく、自分で考えて動く自律移動型ロボットによる競技会。ロボットによるサッカー競技「ロボカップサッカー」、災害現場をテーマにしたフィールドで人命救助を行う「ロボカップレスキュー」、キッチンやリビングといった日常生活の場での人間との共同作業を追求する「ロボカップ@ホーム」、物流や倉庫管理システムを題材とした「ロボカップインダストリアル」、将来のロボカップを支える子供たちのリーグ「ロボカップジュニア」の5つの分野がある。(サイトURL:https://www.robocup.or.jp)

図

解説2:SAVS(デマンドバスシミュレーション)

コンピュータ上にさまざまな移動ニーズを持った利用者を配置した都市モデルを構築し、固定路線のバスが走っているモデルと、オンデマンド方式のバスが走っているモデルを比較。バスの台数や利用者の分布(一極集中か複数か)などの条件ごとにシミュレーションを行った結果、十分に大きな需要(運行規模)があれば、オンデマンドバスの方が利用者の満足度(行きたいところに短い時間で行ける)が高い場合があることが示され、自治体などに対しさまざまな提案ができることを実証した。

図