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X線フラッシュ顕微鏡で「今まで見えなかったもの」を見る

写真:准教授・博士(工学) 鈴木 明大

電子科学研究所 コヒーレント光研究分野・准教授
情報科学院 情報科学専攻 生体情報工学コース

博士(工学)鈴木 明大

プロフィール

2016年、大阪大学大学院 工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 博士後期課程修了。2013年から日本学術振興会 特別研究員(DC1)。2016年から北海道大学 電子科学研究所 助教、理化学研究所 客員研究員。2021年10月から同准教授。

X線レーザーでナノスケールの世界を鮮明にとらえる

コヒーレント光研究分野の概要について教えてください。

博士(工学) 鈴木 明大

鈴木 コヒーレントとは、物事が結びつきを持って調和している状態のことで、コヒーレントな光の典型例はレーザーです。レーザーは波(電磁波)の位相がきれいにそろって調和しています。X線も光の一種ではありますが、X線レーザーを発生させることは非常に難しく、世界的にも、まだ10年あまりの歴史しかありません。私たちの研究室では、国家基幹技術として兵庫県に建設されたX線自由電子レーザー(X-ray Free-Electron Laser: XFEL)施設SACLA(http://xfel.riken.jp)を利用して、コヒーレントX線の特長を生かした新しい顕微鏡の開発を行っています。

X線レーザーが当たると試料は壊れてしまうのですが、X線レーザーの発光時間はフェムト秒(1000兆分の1秒)と非常に短いため、壊れる直前のありのままの姿を観察できます。さらに、半導体プロセス技術によって独自開発した溶液試料ホルダ「Micro-Liquid Enclosure Array: MLEA(エムレア)」を利用することで、乾燥した試料ではなく溶液中の試料を観察できるという特色があります。この新しい顕微鏡は「パルス状コヒーレント溶液散乱法(Pulsed Coherent X-ray Solution Scattering: PCXSS (パックス))」と名付けられました。この “X線フラッシュ顕微鏡” (解説1)を用いて、大きさが1マイクロメートル(100万分の1メートル)以下の小さなバクテリアの内部構造を、生きたままナノ観察した際は、新聞やテレビで取り上げられるなど、大きな注目を集めました。

X線レーザーは、生体試料だけでなく機能性材料の溶液中ナノ観察にも有効で、例えば、安心・安全で高性能な電気自動車用次世代電池として注目を集める“全固体電池”に着目した研究を民間企業と共同で進めています。全固体電池の高性能電解質材料として期待されるガラスセラミックス粒子は、アモルファス(結晶構造を持たない物質の状態)と結晶粒が混在しているのですが、電子線やX線の照射によって結晶粒がアモルファスに変質してしまうため、一般的な電子顕微鏡やX線顕微鏡では正確なナノ構造分析が難しいという課題がありました。私たちは、PCXSS法で試料を撮影し、さらに、乳がんのX線画像診断法であるマンモグラフィの技術を応用した新たなデジタル画像処理法「MorphoCIEP(モルフォシープ)」を開発することで、電池の機能に直結するガラスセラミックス粒子中の結晶粒の分布を鮮明に可視化できました(解説2)。

北大プレスリリース:
https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/05/xx.html

原子レベルの精度をもつ集光ミラーの開発で
2ナノメートルの分解能を実現

最近は、どのような研究を行っているのですか。

博士(工学) 鈴木 明大

鈴木 開発した顕微鏡でさまざまな材料を観察する一方、顕微鏡そのものを進化させる研究にも取り組んでいます。そのひとつが、空間分解能の改善を目的とした、X線レーザーの超高強度化に関する研究です。

本研究では、高輝度光科学研究センターの共同研究者が中心となり、原子レベルの超精密加工と多層膜作製技術を駆使し、反射面が楕円形状の多層膜X線集光ミラー(反射鏡)を作製しました。このミラーによって形成した集光ビームの評価をSACLAで行ったところ、集光前と比較してX線レーザーの光子密度は200万倍に増強されていることを確認しました。これは、SACLAのX線フラッシュ顕微鏡に従来用いられてきた1マイクロメートル集光ビームと比較して50倍の光子密度に相当します。

さきほどのガラスセラミックス粒子では、解像度が15ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)程度でしたが、新しく開発した多層膜X線集光ミラーを搭載した新型のX線フラッシュ顕微鏡で、溶液中の金ナノ粒子を観察したところ、2ナノメートルという世界最高の分解能を達成できました(解説3)。金はナノメートルサイズの極めて小さな粒子になることで特異な物理的、化学的特性を持つ高機能材料であり、溶液中でのナノ構造解析は非常に重要です。

本研究で実現した高分解能X線フラッシュ顕微鏡は、さまざまな生体試料や機能性材料の観察に活用することを想定しており、新たな研究の進化・発展に貢献すると期待されています。

SPring-8プレスリリース:
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2022/220913_2/

究極の微小世界を見るための
周辺技術の開発に取り組む

─X線フラッシュ顕微鏡は今後どのように進化していくのでしょうか。

博士(工学) 鈴木 明大

鈴木 私の研究のゴールは、より小さなもの、究極的にはタンパク質(1つが数ナノメートルから数10ナノメートル程度)に代表されるような分子サイズの世界を見るためのX線顕微鏡を開発することです。そのためには、X線レーザーのさらなる高強度化も必要ですし、試料のまわりの環境を自由自在に制御する試料ホルダや、得られる大量のデータを解析する手法など、さまざまな周辺技術の高度化が必要になります。当然のことながら、研究や実験の現場は大学だけでなく、SACLAやスーパーコンピュータ「富岳」などにも広がっています。

周辺技術開発の一つとして、北大で開発を進めているのがグラフェンを利用した試料ホルダです。X線レーザーを照射すると、試料だけでなくホルダ自体からもノイズ信号が出ます。試料が小さくなればなるほど、試料からの信号とノイズ信号との区別が難しくなるため、分子サイズの世界を見るためには、ホルダからのノイズ信号を極限まで低減することが求められます。私たちは、超低ノイズ材料として炭素原子のみからなるシート状物質であるグラフェンに着目し、北大工学部の研究室と共同研究をスタートさせています。

専門分野が異なる研究者の「これが見たい」という純粋な思いは、X線顕微鏡の開発者として、私がついつい決めつけてしまう技術的限界を突破するきっかけになると感じています。これからも、さまざまな研究者とのコラボレーションを楽しみながら、分子の世界の構造や動きをとらえることができるような、究極的な技術の開発を続けていきます。

解説

解説1:X線フラッシュ顕微鏡

極めて短い発光時間のX線レーザーを利用して放射線損傷の影響なくナノイメージングする技術。独自開発した溶液試料ホルダMLEAを利用することで、試料環境を制御した測定が可能になる。

図
図1. X線フラッシュ顕微鏡(PCXSS法)の模式図。
図
図2. MLEAの写真と断面模式図。

解説2:X線フラッシュ顕微鏡で全固体電池材を瞬間撮影

X線フラッシュ顕微鏡によって、固体電解質材料として注目されるガラスセラミックス粒子の“ありのまま”ナノ観察に成功。開発したデジタル画像処理法MorphoCIEPによって、“アモルファスの海”の中の“ナノ結晶の島”を浮き彫りにした。

図
図3.ガラスセラミックス粒子からのシングルショット回折パターンと、解析の結果得られた観察像。

解説3:超高密度X線レーザーによる世界最高分解能の実現

最先端の“ナノものづくり”技術で作製した多層膜集光ミラーを搭載した新型X線フラッシュ顕微鏡を開発した。この顕微鏡によって、溶液中の金ナノ粒子の姿を世界最高の2 ナノメートル分解能で捉えることに成功した。

図
図4. 新型のX線フラッシュ顕微鏡システムの外観とメインチャンバの中の様子。
図
図5. 新型X線フラッシュ顕微鏡で撮影した溶液中の金ナノ粒子。