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人工ナノ構造と光の相互作用の学理を探究
逆転の発想で微細ナノマシンの可能性を切り拓く

写真:教授・博士(工学) 田中 嘉人

電子科学研究所 極微システム光操作研究分野・教授
情報科学院 情報科学専攻 生体情報工学コース 

博士(工学)田中 嘉人

プロフィール

2006年04月、大阪大学 工学研究科 日本学術振興会特別研究員DC1。2008年10月、北海道大学 電子科学研究所 博士研究員。2012年04月〜2014年06月、北海道大学 電子科学研究所 日本学術振興会特別研究員PD。2013年03月、Imperial College London Department of Physics Visiting researcher。 2014年07月、関西学院大学 理工学部化学科 特任助教。2015年03月〜2023年03月、東京大学 生産技術研究所 基礎系部門 助教。2015年12月〜2019年03月 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 「さきがけ」研究員(兼任)。2023年04月より北海道大学 電子科学研究所 教授。

光の回折限界を越えるプラズモニクスの新境地を拓く

─田中先生の研究室ではどのような研究をしているのですか。

教授・博士(工学) 田中 嘉人

田中 本研究室は、2023年4月に電子科学研究所に発足しました。主な研究テーマは、先端微細加工技術、光計測制御技術、電磁場シミュレーションをベースに、プラズモニック構造、メタマテリアル・メタサーフェス、フォトニック結晶などの人工ナノ構造と光との相互作用の学理を攻究することです(解説1)。

光の運動量変化に伴う力学的作用(光圧)を利用した光ピンセットは、バイオ分野での重要なツールとして2018年にノーベル賞を受賞しました。光ピンセットは、照射するレーザー光を集光・走査することにより精密で複雑な操作を実現し、ウイルスや生きた細胞、細胞内の微小な力の測定などを可能にしています。しかし、光ピンセットには、光の回折限界により操作できる範囲が光の波長(マイクロメートル程度)に制限されるという課題があります。また集光レンズなどの装置も大掛かりとなり、システムの微小化や集積化にも限界があるとされています。

光の回折限界を超える技術として注目されているのが「プラズモニクス」です。プラズモニクスは、金属のナノ粒子にレーザー光を照射することで、金属内の自由電子の集団運動が共鳴する現象(局在プラズモン共鳴)を起こし、光の回折限界を超えたナノサイズまで絞り込む機能を持たせることができます。

私は、2008年から4年間、電子科学研究所の光システム物理研究分野・笹木敬司教授の研究室でプラズモニクスの研究に携わりました。さらに、2013年にロンドンのImperial College London Department of Physicsに留学し、プラズモニクスの理論を集中的に学びました。笹木教授のもとでさまざまな実験を経験し、ロンドンで理論的な面をしっかり身につけることができたのは、その後の研究活動に大きく影響しています。

2015年からは、東京大学の生産技術研究所に助教として赴任し、プラズモニクスの中でも光の伝搬制御に着目した研究に取り組みました。
私たちの研究グループは、照射レーザーを集光・操作する代わりに、光の受け手側である金属ナノ粒子の局在プラズモン共鳴により、光の伝搬に基づく運動量の変化を制御する手法を考案しました。従来の手法とは全く異なる逆転の発想です。近年は、微細加工技術の向上によりナノ粒子を精密にデザインすることも可能になり、微小な光駆動マシン開発の可能性が広がりました。

レーザー光を当てるだけで自在に動く
光駆動ナノモーターの開発

─微小な光駆動マシンの原理はどのようなものでしょうか。

田中 ヒントになったのは生体分子モーターです。私達の体内には、数十ナノメートル程度のタンパク質のモーターがわずか数種類しか存在しないにも関わらず、それらのタンパク質モーターが組み合わされることでミクロからマクロに渡る幅広いスケールの様々な運動を生み出す仕組みにより、筋肉の運動をはじめさまざまな生体運動を実現しています。私が考えた光駆動マシンも同様の仕組みで、ナノ粒子をモーターとしてそれらを組み合わせたり集積化したりすることで自在に動く。そんなシステムをイメージしました。

2015年にJSTの戦略的創造研究推進事業「さきがけ」に採択された「局在プラズモン制御による光駆動モーター創出」の研究では、光波長よりも小さい金属ナノ構造体を微細加工技術によりナノ空間に精密配列させることによって、光駆動・制御するプラズモニックナノモーターを開発する研究を行いました(解説2)。電子線リソグラフィ/リフトオフ法により、長さ170nmと150nmの2種類の金ナノロッドのペアを作製し、このナノロッドペアに光波長(700nm〜1000nm)のレーザー光を照射。すると、プラズモン共鳴の作用によりそれぞれのナノロッドが直線運動や回転運動を起こします(解説3)。

本研究では、金ナノロッドの形状や配置、照射するレーザーの偏光方向などを工夫することで、より多様な動きを自由にデザインすることができ、光駆動・制御できるプラズモニックナノモーターの創出を世界に先駆けて実現することができました。

本ナノモーターは電源を必要とせず、生体分子モーターと同程度の大きさの力を発揮します。デバイスの小型化や集積化が飛躍的に進むと考えられ、流体を制御するポンプやバルブ、ミキサーなどの機能を持たせることも可能。体内で生体機能の計測・制御を行ったり、ドラッグデリバリーといった医療分野への応用が期待されます。

宇宙開発も視野に、マクロの世界への応用にも挑戦

─今後の研究計画についてお聞かせください。

教授・博士(工学) 田中 嘉人

田中 前述の研究はナノサイズマシンの話ですが、マクロの世界での応用にも取り組んでいます。そのひとつがJSTの創発的研究支援事業に採択された「ナノ構造が拓くマクロな物体の光マニュピレーション」の研究です(解説4)。

これは、薄型の平板形状に作成したナノ構造で光を受ける側を制御し、平板形状の物体を推進・輸送するシステムです。現在は構想段階ですが、将来的には地上から照射するレーザー光を動力源とした薄型平板の超高速宇宙船の開発など、宇宙開発にも貢献できるのではないかと期待しています。

私は、学生時代から興味のある分野を追いかけ、さまざまなチャレンジをしてきました。「面白い」と思うことを追求し、その先にある「サイエンス」を見つけたいと思っています。光駆動ナノマシンも薄型平板の超高速宇宙船も、動きの面白さや空想的なエンターテインメントの側面だけでなく、サイエンスとして革新的なものにつながっていく。それが研究の楽しさでもあると思います。

未知の領域の研究というのは、教員も学生も同じスタート地点に立っているようなものです。もちろん、教員は学生よりも知識や経験が豊富ですが、学生も同じレベルで議論することができます。私の研究室では、そのような雰囲気の中で自由な発想や思考力を育みつつ、学理の探究と高度な実験技術で新たなサイエンスを切り拓いていく人材を育成したいと思います。

解説

解説1:研究室のテーマと研究領域

先端微細加工技術、光計測制御技術、電磁場シミュレーションを土台とし、高度な実験技術を駆使して人工ナノ構造と光の相互作用の学理を探究。幅広いサンエンスとテクノロジーにインパクトを与える新たな価値の創造を目指す。

図
(図:研究室サイト https://sites.google.com/view/tanaka-yoshito-lab/projectsより)

解説2:デザインされた金属ナノロッドペアの配列による光駆動ナノモーターの実現

光波長よりも小さい金属ナノロッドに光を照射すると、等方的な光散乱(双極子放射)が起こり、光の運動量変化より伝搬方向に押す光圧が作用する。一方、長さによってプラズモン振動の位相差がπ/2 異なる二つの金属ナノロッドを、波長の1/4 の距離隔てて配置した場合、入射光の波数ベクトルに垂直な構造面内の一方向に高強度の光散乱を示す。この一方向側方散乱プロセスにおける光運動量変化に着目し、実験で使用する光波長(700nm〜1000nm)や周辺媒質(SiO2)に対して、ロッド長、ロッド間距離、材質をパラメーターにナノロッドペアに働く光圧の電磁場シミュレーション解析を行い、ブラウン運動に打ち勝つ2.5pN(10mW/um2) の面内光圧を生み出す金ナノロッドペアを設計した。

図
(図:JSTの戦略的創造研究推進事業「さきがけ」に採択された「局在プラズモン制御による光駆動モーター創出」の研究報告書より)

解説3:光の波長より小さな世界で、走り、回る、新発想の光駆動ナノマシン

ロッドペアをシリカ構造内部に一方向に配列したサンプルを作製し、ライン状に光を照明することで、液中で光の道を走るリニアモーターカーの観察に成功した。

図
記者会見で研究成果を説明した動画(一般向け)slideshow(動画を再生)

解説4:ナノ構造が拓くマクロな物体の光マニュピレーション

薄型の平板形状に作成したナノ構造によってパッシブ効果(光を受ける側を制御)で、平板形状の物体を推進・輸送するシステム

図