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酸化反応を制御した「やさしい」半導体プロセスの開発と
省エネ社会に貢献する高効率パワートランジスタへの応用

写真:准教授・博士(工学) 佐藤 威友

情報科学院 情報科学専攻 情報エレクトロニクスコース

量子集積エレクトロニクス研究センター
量子知能デバイス研究室

准教授・博士(工学)佐藤 威友

プロフィール

1998年3月、北海道大学 工学研究科 電子情報工学専攻・修士課程修了。2001年3月、北海道大学 工学研究科 電子情報工学専攻・博士後期課程修了。1998年4月~ 2001年3月、日本学術振興会特別研究員(DC1)。2001年4月~2001年9月、北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター 研究機関研究員。2001年10月~2004年3月、北海道大学大学院工学研究科 助手。2004年4月~2007年3月、北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター 助教授。2007年4月より同研究センター 准教授。

自然界の面白い現象や仕組みをデバイス・システム開発に活かす

─量子知能デバイス研究室ではどのような研究を行っているのですか。

教授・博士(工学) 佐藤 威友

佐藤 自然界には、不可思議で興味深い生物・化学・物理現象が多数存在します。当研究室では、その仕掛けを紐解いて理解し、半導体材料のナノスケール加工や、これまでにない新しい機能を持った半導体デバイス・システムを創り出すことを目的としています。研究室は2名の教員で運営されており、私が担当しているのは、「錆(さ)びる=酸化する」という身近な現象を利用して「硬い半導体」をいかに「やさしく」加工するか、という研究です。

現在使われている半導体材料の主流はシリコンですが、近年はそれ以外にも様々な材料が注目されています。中でも「パワーデバイス」と呼ばれる比較的高い電圧・電流を扱い、スイッチングにより電力や周波数の変換を行うデバイスなどでは、窒化ガリウム(GaN)を材料としたトランジスタが期待されています。

窒化ガリウムは青色LEDの材料としても知られ、非常に硬くて頑丈な素材です。パワーデバイスの材料に適している反面、頑丈な分だけ微細な加工(エッチング)が難しいという難点もあります。

一般的に、窒化ガリウムの加工にはドライエッチングが使われています。真空中またはガスに満たされた環境下で、イオン化させるなどして反応性を高めたガスを半導体表面に衝突させて加工するものです。窒化ガリウムは薬品耐性が高いことから、ドライエッチングが向いていると考えられているのです。しかし、ドライエッチングは、基板表面に原子レベルで傷などのダメージを与えることも知られています。

一方、酸性溶液やアルカリ性溶液など化学薬品を利用したウェットエッチングは、薬液中のイオンと半導体表面の化学反応を利用して半導体表面をエッチングする手法です。室温での自発的な化学反応を利用するため、半導体表面に与える加工損傷は少なく、装置も比較的簡便でスループットが高いなどの利点を持ちます。しかし、前述のように窒化ガリウムのような薬品耐性が高い材料には適用が困難です。

近年注目されているのは、ウェットエッチング特有の低損傷性に加えて、高い反応制御性を備えた「光電気化学(PEC: Photo-electrochemical)エッチング法(解説1)」です。化学薬品に紫外光を照射することで半導体表面に対する薬品の反応力を高め、窒化ガリウムのような硬い素材でも精密なエッチングを可能にします。

薬液中の酸化を利用した低損傷なエッチング加工

─窒化ガリウムのウェットエッチングは具体的にどのように行われるのでしょうか。

佐藤 特徴的なのは、紫外光を半導体表面に照射することです。すると半導体内部で電子と正孔のペアが形成され、プラスの電荷を持った正孔が表面の酸化反応を促進します。窒化ガリウムを直接溶解させるのではなく、酸化してから酸化物を溶解させるというステップを経るため、表面からゆっくりとエッチングが進みます。鉄が雨水にさらされると「錆(さび)」がういてきますが、磨くとまた輝きを取り戻すといったイメージです。このため、PECエッチングはドライエッチングと比較してエッチングダメージが少なく、また、基板表面にフォトレジストを塗布してパターニングすることで紫外光の照射範囲を限定し、照射した領域のみを選択的にエッチングすることも可能です。

とはいえ、この仕組みを実用化・産業化するにはまだ課題があります。前述の方法では、試料に電極を形成して装置の外部に設置した電源に配線し、半導体に電圧をかけて酸化反応に必要な正孔の流れ(=電流)を制御する必要があります。装置が複雑になったりエッチングまでの下準備が大掛かりになると、半導体製造ラインには適応しにくくなります。そこで、外部電源をとっぱらい、溶液のもつ酸化力を高めて反応を促進するコンタクトレスPECエッチング(解説2)の手法を提案しています。

また、ドライエッチングとウェットエッチングを組み合わせた加工プロセスの開発も行っています。まずドライエッチングで表面をエッチングし、その際発生したダメージをPECエッチングで除去するという手法です。私たちが行った実験では、PECエッチングにより新たな欠陥を発生させることなく表面のダメージ層を除去することに成功しています(解説3)。ドライエッチングは従来の窒化ガリウムデバイスの作製工程として一般的で、作業に慣れている技術者も多いため、現場に導入しやすいのではないかと考えています。

情報通信・電力制御分野への応用に期待が高まる窒化ガリウムトランジスタ

─窒化ガリウム半導体はどのような分野での活用が考えられるのでしょうか。

准教授・博士(工学) 佐藤 威友

佐藤 窒化ガリウムは、移動体通信用増幅器に必要不可欠な「高出力・高周波トランジスタ」の基盤材料としても有望です。「Beyond 5G」あるいは「6G」と呼ばれる次世代の通信技術では、窒化ガリウムトランジスタの必要性が高まっています。他にも、家庭用から産業用まで様々な電気製品の電力制御・供給に不可欠なインバータ(現在はシリコン製が主流)にも窒化ガリウム半導体の導入が検討されています。例えば、自動車や電車に搭載されている電力変換用のトランジスタに窒化ガリウムが使われると、大きな冷却装置が必要なくなり、燃費が上がるといったメリットがあります。超高出力動作と超低消費電力スイッチングを両立できる窒化ガリウムトランジスタは、持続可能な省エネルギー社会に貢献する次世代トランジスタとして注目されており、現在、企業との共同研究を進めているところです。

窒化ガリウムデバイスの作製プロセスにはまだまだ課題が多く、それらを一つひとつ乗り越えていくことが現在の大きなテーマです。例えば、窒化ガリウムでトランジスタを普通に作ろうとすると、トランジスタの入力電圧が0の状態でも出力電流が流れる「ノーマリーオン状態」、つまり電源オフの待機状態でも電流が流れやすい傾向があります。パワーデバイスでは大きな電流をスイッチングすることが前提ですが、安全の観点からオフ状態でも電流が流れることは危険であり、無駄な電力を消費することにもつながります。そのような状況を改善するためのさらなる技術の開発・向上が求められているのです。

この問題を解決するため、本研究室では、PECエッチングで半導体の厚さを原子層レベルで制御することにより、オフ時の電流損失を抑制する技術の開発に取り組んでいます。また、国家プロジェクトにも参画し、日本国内の様々な研究機関や民間企業と協働して数1000Vで動作する高耐圧縦型GaNパワートランジスタの実現を目指しています(解説4)。

私たちの研究は、シリコンに変わる半導体材料として窒化ガリウムに着目することからスタートしています。半導体研究の中でも、他に類を見ない特殊な技術・手法を取り入れており、従来の製造プロセスにおける課題や問題点を一つずつ乗り越えながら進化を続けています。金属表面が錆(さ)びるというような長い年月を必要とする自然現象を、現実的な時間で制御し半導体加工法として利用したのが、今回紹介した光電気化学エッチング法です。技術のベースはごく身近な現象を活用していますが、そこには新たな発見がたくさんあり、深掘りすればするほど面白い世界が広がってきます。半導体に興味がある人はもちろんのこと、人とは違った視点で物作りに挑戦したい学生さんにとっても、興味を持ってもらえる研究テーマだと思います。

解説

解説1:光電気化学(PEC: Photo-electrochemical)エッチング法

化学薬品中で紫外光を照射し、半導体内部で生成された正孔の流れ(=電流)を外部電源で制御しながら酸化反応を促進し、表面からゆっくりと溶かす。物理的な損傷を与えないエッチング手法で、窒化ガリウムに対しても有効である。

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解説2:コンタクトレスPECエッチング

PECエッチングのセットアップにおいて、GaN試料のエッチング領域とは空間的に分離された一部の領域を擬似的な対向電極(陰極)として利用することができれば、外部配線は不要となる。さらに、GaN試料内部に存在する電位勾配を利用し、正孔をエッチング領域(陽極)へ、電子を擬似対向電極(陰極)へ輸送することができれば、外部電源も不要となる。

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解説3:プロセスダメージを受けたGaN表面のPECエッチング

デバイス作製工程で導入されたプロセスダメージは、デバイス特性の劣化を引き起こす要因となる。本研究では、ドライエッチング法のひとつである反応性イオンビームエッチング(RIBE: Reactive Ion Beam Etching)法で表面をエッチングした試料を用意し、その試料に対しPECエッチングを施すことで表面ダメージを回復。PECエッチングが新たな欠陥を発生させることなく表面ダメージ層を除去し、界面準位密度および欠陥準位の低減に高い有効性を示すことを表している。

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解説4:GaNトランジスタの開発

PECエッチングを使った精密加工により(表面粗さは1原子層レベル)、GaNトランジスタのしきい値電圧を精密に制御し、オフ時の電流損失を抑制することに成功。5G/6G通信システムの低消費電力化につながる技術と目されている。また、様々な研究機関や民間企業が参画する国家プロジェクトでは、nチャネルMOSトランジスタの要であるp型イオン注入層の電気化学的評価を担当し、数1000Vで動作する高耐圧縦型GaNパワートランジスタの実現を目指している。

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