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無機ナノ材料と最新の印刷技術を用いた
次世代のフレキシブルなデバイスの開発

写真:教授・博士(工学) 竹井 邦晴

情報科学研究院
情報エレクトロニクス部門 先端エレクトロニクス分野 
ナノ物性工学研究室・教授

教授・博士(工学)竹井 邦晴

プロフィール

2001年03月、旭川工業高等専門学校卒業。2001年04月、豊橋技術科学大学編入。2009年03月、同大学院博士課程修了。2009年04月〜2013年02月、カリフォルニア大学バークレー校 EECS 博士研究員。2009年04月〜2013年02月、ローレンスバークレー国立研究所 Material Science Division 博士研究員兼任。2013年04月〜2017年03月、大阪府立大学 大学院工学研究科電子・数物系専攻 助教。2017年04月〜2019年03月、大阪府立大学 大学院工学研究科電子・数物系専攻 准教授。2017年10月〜2021年03月、JST さきがけ研究者兼任。2019年04月〜2022年03月、大阪府立大学 大学院工学研究科電子・数物系専攻 教授。2022年04月〜2023年03月、大阪公立大学 大学院工学研究科電子物理系専攻 教授。2023年04月より北海道大学 大学院情報科学研究院 情報エレクトロニクス部門 教授。

ナノ物性工学研究室: https://www.ist.hokudai.ac.jp/labo/nano/

薄く柔らかい無機ナノ材料に
多種多様な回路を大面積で印刷

─ナノ物性工学研究室ではどのような研究をしているのですか。

教授・博士(工学) 竹井 邦晴

竹井 本研究室では、無機ナノ材料を主に用いることによる高機能・高性能なデバイスの実現を目指しています。単一なデバイスではなく、さまざまな情報を同時に計測できる「マルチモーダル」なセンサシステムの開発です。現在注目が集まっているInternet of Things (IoT:モノのインターネット)では、多種多様な表面から多くの情報を取得するセンサが必要になることは間違いなく、こうしたニーズに対応できるフレキシブル(柔軟性)かつストレッチャブル(伸縮性)なデバイスを、材料から設計・製造、プロセス開発まで一括して研究を行っています。

これまで私たちの生活を支えてきた電子機器は、硬くて曲げることができないものでした。なぜなら、一般的な電子機器は、無機半導体という石のような結晶材料が使われているからです。しかし、アルミホイルのように、無機材料(アルミ板)でも薄くすることで十分柔らかくすることができます。私たちはこの特性に着目し、無機材料をナノサイズまで薄く・小さくすることで、「柔らかい」センサの開発に取り組んでいます。

柔らかいセンサは、①曲面や柔らかいモノ(人を含む)からの違和感のないデータ取得、②センサシステムの簡素化、③高速なシステム、④データ処理技術、⑤センサ・ハードウェア及び情報処理における低消費電力化などの課題解決に向けた画期的なデバイスとして注目されています。

また、これらのデバイスは、印刷技術の発達により無機ナノ材料を大面積フィルム上に塗布形成できるようになったことで可能性を大きく広げました。従来の半導体微細加工技術は、高純度のシリコンウエハ上で多層形成、パターニングを行なって作製します。これは微細化には非常に有用ですが、設備が非常に高価でプロセスも複雑であり、センサをより小さく作らないと安くすることができません。小さい領域からの計測であればこれで良いのですが、IoT応用を考えると微細化を犠牲にしてでも大面積且つ低価格が求められる場合があります。この課題を解決するのが、スクリーン印刷やインクジェットプリントなどの印刷技術を用いたデバイス作製技術です。印刷による配線パターンは、面積の大きな薄膜に複数のセンサをプリントできることから、薄く柔軟性のあるデバイスを作製することが可能です(解説1)。

本研究室では、このような手法で新たに形成した無機ナノ材料薄膜を用いて、次世代のフレキシブル集積回路、多機能フレキシブルセンサなどの研究開発を実施しています。

身体に直接貼り付け、常時データを計測する
ウェアラブルセンサの開発

─フレキシブルなデバイスにはどのような応用展開がありますか。

竹井 ひとつの応用例として、医療・ヘルスケア分野でのウェアラブルセンサシートがあります。近年は、健康管理やヘルスケアのサポート機能を持ったスマートウォッチが普及しつつありますが、常時、無意識下で計測できる情報は、光の反射で計測する「心拍数」と加速度・ジャイロセンサで計測する「活動量・姿勢」に限られています。私たちが開発しているのは、心電図、心拍、呼吸、体温、発汗、汗中化学物質など多数のバイタルデータを、自動で体に負担をかけることなく常時計測する健康管理デバイスです。

特徴的なのは、絆創膏のように皮膚に貼ることができるパッチ式のセンサであることです。柔らかく薄いフィルムに心電図、皮膚温度、発汗、加速度などのセンサを印刷し、フィルムを皮膚表面に直接貼りつけることで、各データを常時計測します。計測したデータは無線でスマートフォンなどの端末に送り、多くのバイタル情報の相関関係から解析する健康状態の変化などを利用者へ知らせるシステムを構築しています(解説2)。

また、フィルム装着時の不快感を軽減し、計測の安定性を向上させる工夫として、「切り紙構造」を採用しています。レーザー加工機を用いてフィルムに規則的な穴を形成し、縦横の伸縮性を持たせると同時に蒸れなどの不快感を低減しています。

このようなウェアラブルセンサは国内外で数多くの研究グループが研究開発を進めており、今後は、それらの技術を融合したり、改良・最適化を図ることで次世代の健康・医療に役立てることができるのではないかと期待しています。

もうひとつの応用分野は風速や風向、降水量、温度、湿度などを計測する環境センサです。例えば、雨傘の表面に薄く小さなセンサを貼り付け、雨粒が物体表面にぶつかる際の水の振る舞いの経時変化のデータを用いることで、雨粒の体積と風速を同時に一つのセンサで計測するシステムを開発しました(解説3)。

センサの開発だけでなく、取得したデータをどのように活用するかという研究も重要です。私たちの研究では、常時・連続的に計測する中で、ある時点での「変化」を検知することにフォーカスしています。機械学習を用いて、データの周期や変化のパターンなどを学習し、そのパターンが体調にどのような影響を与えているのか、病気の兆候を示すものなのかといったことを判断していきます。パターンの特徴やそれが意味するものを理解するため、医学系大学などに協力してもらいながらデータを集めているところです。

同時に、スマートフォンのアプリ開発も進めており、「変化」を感知した情報を利用者に正確かつスピーディに伝えるソフトウェア開発にも取り組んでいます。

さまざまな分野での実用化を目指し
キラーアプリの開発に注力

─今後の研究計画についてお聞かせください。

教授・博士(工学) 竹井 邦晴

竹井 これまで同様に新しい材料や構造、コンセプトによるセンサ開発やそれによって得られる計測データの解析を続けると同時に、今後はウェアラブルデバイスやフレキシブルセンサの実用化に向けた技術開発にも取り組んでいく計画です。実用化を成し遂げるには、低価格で形成可能なプロセス技術の確立や多種センサの集積化、それらセンサの安定性向上や高精度化が必要となります。健康管理や医療分野での応用を想定する場合は、計測されたデータの信頼性を担保することも求められます。現在、大学病院の医師や民間企業と共同し、実用化を目指した研究開発を進めています。

本分野は世界的に研究開発が行われている競争の激しい分野であるので、私たちの優位性を証明するためにも、いわゆる「キラーアプリ」の提案が急務であると考えています。本研究室にはアプリ開発を得意とする学生も所属しており、彼らのスキルを活かしてもらっていろいろと試しています。

私は、学生時代からいろいろなことに挑戦し、遠回りもたくさんしました。マルチモーダルデバイスの開発もトライアンドエラーの繰り返しですが、何かに挑戦するのは研究者にとって大きな経験になると思います。失敗しても、失敗から得られる経験は自分自身の糧になるので、学生の皆さんも恐れずどんどん挑戦してほしいです。私たちのゴールは、世界中の人が「わっ」と驚くような電子機器を提案し、安全・安心・快適な超スマート社会を構築していくことです。皆さんと一緒にその夢を実現していきたいと思います。

解説

解説1:フレキシブル集積回路の開発

無機材料を極限まで小さいサイズ(ナノサイズ 10-9 m)にすることでさまざまな「柔らかい」センサと集積回路を開発

図
W. Honda et al. , Advanced Materials Technologies, Vol. 1, p. 1600058, 2016.

解説2:無線システム搭載フレキシブルセンサ

柔らかく薄いプラスチックフィルム上に、発汗量や汗中電解質を常時連続的に計測し、それを無線通信するウェアラブル・フレキシブルセンサシステムを開発。

図
S. Honda et al., Advanced Functional Materials ,Vol. 33, p. 2306516, 2023.

解説3:フレキシブル雨風センサシステム

ポリイミドからレーザー誘起された多層グラフェン(LIG)をポリジメチルシロキサン(PDMS)上に転写した雨風センサ。センサを雨傘の表面に貼り付け、連続に降ってくる雨粒の一粒一粒を瞬時に解析し、風速と雨粒の体積を予測する。さらにそれを加算処理することで降水量の予測も可能である。センサを装着した傘を多くの人が利用することで、ゲリラ豪雨の情報などをいち早く得ることができる。従来の『1センサ=1出力』という常識を破り『1センサ=X出力』を実現するマルチタスクセンサシステムが可能になる。

図
S. Wakabayashi et al., Advanced Materials, Vol. 34, p. 2201663, 2022.